10月の週末の木村家本舗の間隙を縫って、国立国際のマン・レイ展に行った。
Man Ray : Unconcerned But Not Indifferent
じつは前の週に休館日と知らずいちど来ていて、いわばリベンジの再訪。
横尾忠則ポスター展のときにも思ったが、この地下の美術館は、なんとなく陰鬱な感じで、
どうも愉しいところに来ている気がしない。たとえば、そこにいるだけで嬉しくなるような
金沢21世紀と比べると、建築力が違うとしか言いようがない。
ともあれ、マン・レイである。
自らを「光線」と名づけた写真家。
もちろん名前はよく知っているし、その作品もよく眼にしているはずだが、なんとなく全体の
姿がうまくつかめない人なので、写真だけでなく、彼が遺したオブジェや絵画、あるいは
スケッチやデッサンなど、アーティストとしての全貌が観られるというこの展覧会の巡回を
心待ちにしていた。
作品の大半が写真だけに、贋作が多いといわれる人だけれど、今回の展示は、彼の遺族が
設立し、全作品の著作権を所有するオフィシャルな財団の所蔵品だから正真正銘の純正品で、
生前の所持品が観られるのは、これが最初で最後かもしれない。
とにかくマン・レイという人は現代アートの原点ともいえる、ダダからシュルレアリスムという
1920年代のアート・シーンの中心人物のひとりであり、唯一のフォトグラファー、しかもピカソと
同じように70年代まで生き残った、20世紀美術の目撃者なのだ。
そして、複製ができる写真というメディアを、アートに高めたのは、この人の功績が大きい。
ともかく膨大な数の作品群である。
自由奔放に制作された立体作品や絵画、いつもなにか面白そうなものを子どものように
探し続けていた彼が発見した、レイヨグラフ/ソラリゼーションといった手法をつかった作品も
インパクトはあるが、やはりストレートな写真、なかでもモノクロのポートレイトが印象に残る。
いっしょにニューヨーク・ダダを始めたマルセル・デュシャンやフランシス・ピカビア。
そして20年代のパリのセレブリティたち。
ジェイムス・ジョイス/エリック・サティ/ジャン・コクトー/ルイ・アラゴン/ヘミングウェイ/
ポール・エリュアール/アンドレ・ブルトン/ストラヴィンスキー/ジョルジュ・デ・キリコ/
ルイス・ブニュエル/マックス・エルンスト /イヴ・タンギー/ジャコメッティ/パブロ・ピカソ、
そして彼らのアイドルだったモンパルナスの女王キキ。
当時の先端のアーティストの、緊張感の漂う凛とした表情は、彼でしか撮れなかったはず。
また、マン・レイが自分でプリントし、で額装したという初公開のカラー写真は、サイズも形も
それぞれ違った額に納められたていて、写真もやはり立体作品だと彼が意識していたこと
がとてもよくわかって、あらためて感心させられる。
常に、写真という新しい芸術と闘っていたのだ。
この展覧会では、マン・レイの生涯を、New York 1890-1921 / Paris 1921-1940 /
Los Angeles 1940-1951 / Paris 1951-1976、の四つに時系列で区切って構成されているが、
マン・レイは、終生パリのアーティストだったんじゃないかと思う。
巴里のアメリカ人。
そのときのパリは、文字どおり芸術の都だったし、杉本博司がインタビューで言っているように、
1920年代のアートや文学は、「種」として、今日の文化の通底となっていることは間違いない。
そしてそのシーンにおいて、マン・レイという人が果たした役割がとてつもなく大きかったことが、
彼の制作活動を網羅したこの展覧会を観ればよくわかる。
” unconcerned but not indifferent ”
ユーモアさえ感じるこのイカしたフレーズは、パリにあるマン・レイの墓碑に刻まれているそうだ。
もちろんこれは、生涯のミューズとして彼の死を看取ったジュリエット・マン・レイが、二人の墓の
墓碑銘として選んだもので、生前のマン・レイの口癖だったといわれている。
この言葉のあとには、” Man Ray 1890-1976 Love Juliet ” と続く。
そして、1991年に亡くなったジュリエットの墓碑銘は、” TOGETHER AGAIN “
ちょっと沁みるね。
「無頓着だけど、気にしてないわけじゃない」
明らかに、朋友だったデュシャンの「無関心の美」を意識した言葉に違いないが、良くも悪くも
これほど端的に、彼の生き方とその芸術を表している言葉は、ないように思われ。
graf でお茶。
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10月の本買い。
本屋通いは、変わりなくいつものペースで続けているが、「木村家本舗」が思いのほか忙しく、
いつもならデータを入力する時に必ずひととおり眼を通し、あれやこれやと想像をめぐらせるのが
ひとつの愉しみでもあるんだけれど、とてもその余裕がない。
とりあえず面白そうなところをピックアップしてみた。
大半は木村家本舗に出張中である。
今月の本買いは、単行本・文庫本・雑誌を合わせて91冊。
もっともっと、アホほど買いたい。
□ 猫の歴史と秘話 平岩米吉 池田書店 19800210 初版 ¥1,800
□ 無能の人 つげ義春 日本文芸社 1991 初版 ¥800
□ 小林秀雄の恵み 橋本治 新潮社 20071220 初版 ¥1,200
□ 反オブジェクト 建築を溶かし、砕く 隈研吾 筑摩書房 20000710 第1刷 ¥1000
□ 藤森照信読本 二川幸夫編 ADA EDITA Tokyo 20100924 初版 ¥2100
□ 退屈の利用法 植草甚一 晶文社 19821220 初版 ¥2,400
□ 鬼平対甚一 植草甚一 晶文社 19830830 初版 ¥1,500
□ ビート詩集 ピポー叢書 65 片桐ユズル 国文社 19700715第2版 ¥4,000
□ 教育スケッチブック バウハウス叢書2 パウル・クレー 中央公論美術出版 ¥4000
□ 響宴Ⅱ 蓮實重彦 日本文芸社 19900525 第1刷 ¥300
□ わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい 鴨居羊子 三一書房 19730930第一版第 ¥2,400
□ 蘆の髄から 檀一雄 番町書房 19760725 初版 ¥900
□ エッセ・クリティック ロラン・バルト 晶文社 19840720 6刷 ¥1,900
□ トゥルー・ストーリーズ ポール・オースター 新潮社 20050525 5刷 ¥1,000
□ 万葉集 Manyo Luster 高岡一弥編 ピエブックス 20030606 初版第3刷 ¥2,000
□ しなやかさというたからもの 国分一太郎 晶文社 198407201 4刷 ¥700
□ 港町 魂の皮膚の破れるところ 飯島耕一 白水社 19810910 初版 ¥900
□ 幻想の画廊から 澁澤龍彦 美術出版社 19680520 再版 ¥2,000
□ ジャズ・ストリート W.M.ケリー 晶文社 19690331 初版 ¥300
□ 浴槽の花嫁 一人三人全集Ⅴ 牧逸馬 河出書房新社 19691105 初版 ¥2,800
□ 時代の射手 寺山修司 芳賀書店 19710510 3版 ¥1,500
□ 宇宙のかたち 日本の庭 内藤忠行 世界文化社 19981020 初版第1刷 ¥1,200
□ 朝鮮とその芸術 柳宗悦選集4 柳宗悦 春秋社 19720520 新装版第1刷 ¥2800
□ 侘び・数寄・余白 松岡正剛 春秋社 20091220 第1刷 ¥1,400
□ Marilyn Norman Mailer GROSSET DUNLOP 19731008 First printing ¥2,900
□ 海揚り 井伏鱒二 新潮社 19811120 第2刷 ¥500
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