「ウチの家でも古本屋やりたいんですけど・・・」
と木村さんから最初に話を聞いたのは、7月の末だった。
矢部さんのところでの「水土書店」のクロージング・パーティのとき。
家で古本屋!?
なにそれー、というのがそのときの正直な気持ちだった。
一瞬、社長の道楽話かとも思ったが、木村さんはそんなタイプの人ではないし、
たぶんなにか思惑があってのことだろうと思って、深く考えもせず、
「いいですよ」、と答えたような気がする。
とにかくヤバそうなことは、すべてポジティブに受け入れるというのが信条なのである。
気がする、というのは辿ってみると、その3日後に、こんなDMを送信していたからだ。
“Books in Residence = 本のある暮らし、あるいはスペース”
本棚の提案ができればいいんじゃないかと思います。
ディスプレイは各部屋にその本棚、傍らに名作椅子。
いい椅子を一家に一脚という提案も兼ねて。
10:20 AM Jul 27th
そして、このDMに対する木村さんのレスポンスは早かった、しかも2連発。
Books in Residence Books + Open House 本と家本家ほんやほんいえ!
ホントイエほんけその本棚傍らに名作椅子いい椅子を一家に一脚
建築家の作品 ヤベさん等々
写真家の作品 nomotoさん?服部さんの作品?近くの長屋を使う?
12:41 PM Jul 27th思いつくままに書きましたが、本と家が、(加藤さんと私で) 人と人の出会いを
文化との遭遇を 提供できれば……と。
12:59 PM Jul 27th
あ、熱い!
こちらとしても、この熱気は正面から受けざるを得ない、苦し紛れではあっても。
今度の日曜日から夏休みで鳥取にいきます。
旅先で海でも眺めながら、本と家のことを妄想してきます。
戻ったらいちどお会いしましょう。
木村家の佇まいもいちどじっくり感じてみたいですし。
なんとなくいいことができそうな気がしてきました。
10:00 PM Jul 27th
じつは、「いいこと」がどんなことなのか、この時点では皆目見当がついていない。
ただ、ついていないながらも、考えてはいたようだ。
木村家本舗(キムラケホンポ)でどうでしょうか。サブタイトル考え中。
9:10 PM Jul 29th
次の一撃は、効いた。
はい了解です。松丸本舗に似ているのが、ちょと気になはりますが。
サブのひとつは、Books + Open Houseもよろしく。
11:26 PM Jul 29th
「松丸本舗」というのは、あの松岡正剛が、東京の丸善本店でやっているインショップの本屋である。
もちろんそのことは情報としては知っていたが、このプロジェクトのことを考えているときには、
まったく頭の片隅にもなかったのだが、こういう風に指摘されてみると、
何か刷り込みのようなものがあったのかもしれない、と思わざるをえないし、
なによりも、このかぶりかたは、面白くない。
いやーまったく気がつきませんでした。も一回考え直します。おそまつっ。
12:24 AM Jul 30th
結果はご覧のとおりだが、このことは、後々までかなり尾を引いた。
オープン直前まで、このことだけを考えていたといってもいいかもしれない。
ネーミング、名は体をあらわす、ということの大切さは、身に沁みて知っているからだ。
8月半ばに書いたこのブログに、その迷いが如実に現れている。
think naturally
13 Aug, 2010
ともかく、まあこんな風にしてこの「木村家本舗」は始まったのだ。
そしてその「木村家本舗」でのある一日のスケッチ。
SKETCH : SUN. OCT.17, 2010
8:49 The Girl from Ipanema / Sinatra & Jobin
水曜日に仕入れた本や均一棚の追加分を積んで生野の木村家に向かう。
いつもならたくさんの車で混んでいる阪神高速は、日曜日でがら空き。
車の温度計の表示は20℃、薄く陽も射していて、一年でそれほどない心地よい季節だ。
日曜の朝の大阪の街は、なんとなくのんびりした雰囲気が漂っていて、いつもの喧噪はない。
9:32 New Frontier / Donald Fagen
木村家に到着。
積んできた本を降ろし、ディスプレイをチェック。
初めて来る人ばかりだから、それほど気にすることではないが、やはり先週とはちがう見せ方をしたい。
面で見せている本の中でも、売れていったものがけっこうあって。
2階の木村さんの遊び部屋には graf の家具がはいって、気配が一変している。
あのでっかい marenco は、どこに片付けたんだろう?
9:50 Family Affair / Sly & the Family Stone
最初のお客さんは、ご近所のオヂサン。
ぷらっと散歩がてら、といった感じの体で入ってこられた。
「ちょっと見せてもらいにきた。」
まだ一時間以上前なんだけど、開店前のなんとなくワサワサした雰囲気が伝わってしまったようだ.
何ともなしくずしなオープニング、それはそれで ” らしい ” けど。
10:42 Home / Brian Eno & David Byrne
この日、最初のお買い上げは木村夫人。
雑誌を4冊、「CASA BRUTUS」と「住む」のバックナンバーというのはいかにもお仕事柄である。
開店前の、ちょっと緊張気味のひととき。
10:57 Sun Song / Stuff
BOOKS+コトバノイエのイベントでは常連の大村クンが、いい感じにヤレたRenault 4で登場。
実質的には、かれがこの日最初のお客さんだ。
いつも風のように来て風のように去っていく大村クン、今日も狙い定めたように、小西康陽の
「これは恋ではない」とJ.J氏の肉声が聴けるCDのついた「ぼくたちの大好きなおじさん」という
「売りたくない」本をかっさらっていった。
いつもながらの小癪なセレクションである。
11:13 The Whiter Shade of Pale / Halie Loren
大村クンに重なって、コトバノイエの庭師の家谷さんが、オープニングの日に続いての来訪。
オープニングの時に取り置きを頼まれていた「THE BOB DYLAN SCRAPBOOK」と飯島耕一の
詩集「ゴヤのファースト・ネームは」に加えて、大判の「植草甚一主義」を買われてしまった。
これもまた手厳しい。
彼との間ではずっと前から物々交換の契約ができていて、一昨年の庭石、昨年の小笹の植栽を
してもらった分のクレジットが残っているので、支払いは発生していないが、高額の大型書籍を
買って貰えるのは、嬉しくもあり淋しくもあり。
11:38 The Doc of the Bay / Halie Loren
このあと、木村さんのお客さんが続々と現れ、波が押し寄せた。
木村さんのところで何十年ぶりで普請したという清見原神社の神主さん、少し前に新築住宅の
工事が始まったという高槻の若いご夫妻、、赤ちゃんを抱いた女性建築チーム、木村工務店で
建てた家に住んでいるという奈良の人、木村工務店で施工したことがあるという設計事務所の
人たちや出入りの職人さん、自著を持ってきていただいたご近所のジャーナリスト、川西に住ん
でいらっしゃるという木村さんの本好きの妹さん、そしてたくさんの子どもたち。
心地良いざわめき。
人の流れというのは不思議なもので、静かなときはまったく水を打ったようだが、
いったん波がくると、これでもかというくらいに重なってくる。
何がきっかけでそうなるのかはわからないけれど、あらかじめ予想できるものでもなく、
準備のしようもないものだから、そうなったらその流れに身をまかしてしまうしかない。
それはそれで、案外愉しいものなのだ。
12:43 Waltz for Debby / Bill Evans Trio
その波がおさまったのがこの時間だった。
一瞬の凪。
2階の半外デッキで、木村さんと大阪名物コナモン、イカヤキとタコヤキの昼食。
こちらは本を売っているだけだからそれほど気を使うことはないが、自宅に訪れた人たちの
一人一人を、律儀にもてなす木村夫妻の気遣いはいかばかりかと、慮る。
40分ほどのランチブレイク。
そして午後の波。
誰が誰だかわからないが、午前中とおなじように、様々な人が現れ、笑顔で立ち去ってゆく。
天気の良い秋の日曜日の午後を、どの人もリラックスして楽しんでいるようだ。
ありがたいことに、本もたくさん買っていただいた。
一日の売り上げとしたら、冊数も金額も、BOOKS+コトバノイエの新記録である。
それにしても、木村工務店のこの動員力。
日頃から、いいお付き合いをしていないと、こんなに人が、それもほんとうに気分のいい人たちが
集まってくるはずがないんだから、木村工務店の仕事のクオリティを推して知るべし。
こういう人と人とのつながりを、オープンハウスと本の商いを媒介にして、というのがこのプロジェクトの、
そもそもの趣旨だから、この光景は、まさに本願成就といってもいいのではないか。
「集う、繋がる、広がる」
前の日、家具を入れてくれた graf 服部滋樹さんの、この素敵な言葉が頭の中をよぎる。
16:59 Spring High / Lamsey Lewis
午後の人の波が途切れ、一息ついたのがこの時間、気がついてみれば、黄昏。
キッチンで、お土産のケーキをいただきながら、少しのんびりと四方山話。
たぶんこのあと、店仕舞い間際に、また小さな波が来るはずだ。
18:26 what a fool believes / The Doobie Brothers
日没閉店。
木村家本舗 – Books in Residence – 10月の週末のオープンハウスと古本屋。
それが現実にそこにあることが、なによりも素晴らしい。