これを書き始めたのは1月だけれど、書き終わったらきっと2月になっている。
できればこのブログも、月に2篇は書きたいといつも思っているけれど、時の流れは速すぎて、12月も1月もけっきょく1篇ずつしか書くことができなかった。
twitter では、際限もなく無数の言葉を垂れ流しているだけに、なんとも不本意この上ない。
twitlog なるサイトで統計を見れば、始めてから今日までの284日間で1,160の呟きを発信し、それは一件57.2文字、一日382文字の書き込みで、総文字数は92,159文字になるという。
いやはや。
どこにそれだけ伝えたいことがあったのか。
荒野を転がるタンブルウィードのように、あてどなく漂う言葉たち。
重いことも軽いことも痛いことも痒いことも平等に、一瞬にしてフェイドアウトする言葉たち。
消え去ること、それがこの「呟き」の本質であり、美点でもあるんだろう。
残される言葉と残っていく言葉。
閑話休題。
押し詰まってからの受賞大宴会の余韻もあり、事始めというよりは祭りのあとといった感じで、なんとなく静かに始まった2011年だったが、さすがに20日を過ぎると様々に動きだし、いろいろと刺激的なことが重なった。
まずなによりも日常の生活にインパクトがあったのは、アートピース、それも思いもかけなかった大きさの写真作品が、我が住処のリビングルームの壁に架かったことだ。
□ 201009271154 / series 「Lines」 : Lambda Print, AP 1/2, 1500×1000mm
昨秋の「木村家本舗」で発表された、野本piropiro氏の撮りおろしの作品だが、じつはずいぶん前に彼のポートフォリオにあるこの一連のシリーズを見せてもらったときに、一目で気に入って、オリジナルプリントができた時には、ぜひ譲ってもらいたいとお願いしていたものだった。
年末に観た『Herb & Drothy』に触発され、正式なオーダーを入れたのが、その映画を観た直後。
予算からしても、ほんとうは、もう少し小さなサイズになるはずたっだが、野本さんのご厚意で、「木村家本舗」に展示されたこの作品を譲っていただくことになったのだった。
写真家自らが、その作品を運んでくれたのが1月23日。
もちろん写真を作品として購入するのは初めてだし、そもそもオリジナルのアート作品を、自分の家に飾るなんていうことがあるとは、まったく予想していなかったが、とにかくその大きさと迫力に、圧倒された。
堂島川を航行する浚渫船をスローシャッターで撮った、マーク・ロスコの壁画のようなその写真は、現実にあったことを記録した具象であるはずなのに、きわめて純度の高い抽象性をもっている。
亡くなったデニスホッパーがNikon28mmで撮った、『Abstract Reality』という写真集があるが、立体を映しているはずなのに絵画のように平面的なこの写真は、まさに「抽象的現実」と呼ぶにふさわしい完成度。
ひょっとしたら分不相応ではないかという気がしないでもないが、自分がホントに気に入った、世の中にたったひとつのものを毎日眺めることは、想像していたよりはるかに気分がいい。
そして27日は京都へ。
TROPE ― 新作家具を、ダンスチーム Monochrome Circus とのコラボレーションで発表するという graf のチャレンジャブルな試み。
モノとヒトとのフィジカルなコミュニケーションをもう一度根底から見直し、それをパフォーマンスとして表現するとは、なんとも服部滋樹らしい「ラジカル(根源的)」なデザインだ。
能を思わせるような緊張感を漂わせたダンサーの動と静の中に、現れては消える家具のエレメント。
レベルさえ整っていれば、その脚が椅子であっても本であってもかまわないという、その潔さ。
ミニマルなエレメント(素)こそが、身体の記憶を取り戻すツールなんだ、という逆説的なメッセージ。
それはすでにもう商品ではなく、ある種の思想表現といってもいいもののように、ボクには思えた。
そしてこの商品を超えた「家具」たちを、どのようにビジネスとして展開させていくのか。
そのモデルの設計こそが、ほんとうの意味での「実験」じゃないのかと、思わず考えてしまった。
その時にはあまりわからなかったことが、反芻していると、じんわりと視えてくることがある。
何日も前の、その夜の公演を思いおこしながら、ある意味とても建築的な家具だったなあと、ふと。
そんな風に考えさせられること自体、すでに服部さんの罠に嵌められている証拠なんだろう。
あまり体験したことのない不思議な余韻。
この公演は、ただのイベントではなく、服部滋樹が仕掛けたムーブメントの始まりに違いない。
最後の日曜日、30日は木村家本舗での「音の宴」
「音の宴」は、主催者である木村さんの言葉を借りれば、
それぞれ自慢の曲を持ち寄って、お互いの、持ち寄った音楽を一緒に聴いて、優勝者を決めてみようよ!という事になった。
5人それぞれが、5曲を持ち寄って、連続して音楽を掛けて、自分の好みで、一曲を10点満点で採点し、合計を争う。いやいや、全然、争う気持ちはないのだけれど、やっぱり、ゲーム性を加味した方が、オモロイという程度の事。
という、まあ何とも他愛のない、それゆえに真剣な大人の音遊びである。
年末に木村さんと日程を決めてから、その5曲をセレクトするために、手元にあるCDやレコードを引っ張りだし、粗選りした、たぶん100曲以上の曲を、夜ごと日ごとに繰り返し聴き直すという日々が、じつは正月をはさんで続いていたが、その前日、最終的にコレでいこうと決めたのがこの5曲、だったが。
1 IN MEMORY OF ELIZABETH REED / The Allman Brothers Band
2 SUMMER TIME / Janis Joplin + Big Brother & The Holding Company
3 COWGIRL IN THE SAND / Neil Young
4 DRAFTING BLUES / Eric Clapton
5 HONKY TONK WOMEN / The Rolling Stones
だったが、と記したのは、その日かけたのが、このリストとまったく違う5曲だったからだ。
ROCKであり、LIVEであり、黒人になりたい白人の音楽がいちばん好きだから、というコンセプトはストレートな直球で、さんざん考えたあげくこれでいこうと決めたのは、やはりいちばん自分らしい選曲で勝負(採点があるんだからそれは勝負なのだ)しないと、負けた時に後悔するんじゃないかというのが、その理由だった。
でもその日の朝、なんとなく天啓のように、そうじゃないよ、という声が聞こえたような気がして、もう一度まっさらなところから、考え直し、聴き直して、最終的に選んだのが、この5曲。
1 SUN GODDES / Earth, Wind, & Fire
2 CANTALOP ( Flip Fantasia ) / US3
3 VOICES INSIDES ( Everything is Everything) / Donny Hathaway
4 WHAT IS HIP ? / Tower of Power
5 BAD / Michael Jackson
ROCKとはぜんぜん関係のないブラック・ミュージック、それもブルースでもR&Bでもない、FUNKという「乗り」の音楽ばかりをピックアップしたのは、「GROOVE」というキーワードが、とっさに浮かんだからだった。
「GROOVE」はリズムの微妙な感覚なので言葉で表すのはとても難しいけれど、ジャンルにかかわらず、気持ちいい音楽の根底にはこの「GROOVE」が必ず流れていると思っていて、それがいちばんわかり易い、つまりいちばん気持ちいいグルーブ感をもっている音楽が、ここで選んだブラック・ミュージックの5曲だ。
だから選曲のコンセプトは、「What is Groove ?」ということになる。
で、その「音の宴」の結果は、こんな感じ。
木村さん、矢部さん、久山さん、谷川さん、太田くん、といずれも侮れない曲者が相手だったが、運よく最高点をいただき、一等賞を獲得することができた。
スコアを眺めてみると、最後の『BAD』が勝因だったようで、たぶん盲点をついた選曲だったからだと思うが、さすがマイケル・ジャクソンと、あらためてその怪物ぶりに感心する。
他の4曲は、ずっとリストにあった曲たちだが、このレコードは、じつはその日の朝までまったく聴くこともなかった曲で、これをリストに加えられたのは、まさに閃きといかいいようがない。
いずれにしても、その閃きで、ひょっとしたら生まれて初めてかもしれない一等賞が獲れたんだから、こいつは春から縁起が良い、ということにしておこう。
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遅ればせながら、といっても程があるが、いちおうけじめとしての 10BEST BOOKS of 2010.
とにかく、小説に関しては文庫本を風呂で読むだけだから、文体を批評することは得意ではない。
もちろん好きな文体(作家)は、厳然として自分の中にはあるが、新刊本を買ったり、積極的に新しい作家にチャレンジしようという気がそれほどないわけで、そういえば、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』というとっても怖い小説を、ふとした出来心で風呂で読み始めてしまい、「ふつうなら風呂で読む小説ちゃいまっせ。ぼくの設計なので許す。」と 矢部さんからtwitter で叱られたことを思い出した。
ひょっとしたら、去年本のことでいちばん印象的だったのは、このことかもしれない。
あと、「壁は語る」は、いまgraf の服部さんのところに出張にいっていて、graf のオフィスの階段の踊り場に、この本のコピーがいっぱい貼ってあることを発見して、なんとなく嬉しかったことも記憶に残っている。
こんな風に、このリストにある60年代の本のHIP感が、若い人たちに再発見してもらえるなら、この本屋を続けていく価値があるんじゃないかと、あらためて意を強くする。
5曲選ぶよりは、すんなりとセレクトできた10冊。
□ ダダ宣言 トリスタン・ツァラ 竹内書店 19700415/初版
□ MEXICO CITY BLUES Jack Kerouac Grove Press 1959/5th printing
□ 壁は語る 学生はこう考える J・ブザンソン 竹内書店 19690220/第1刷
□ 一千一秒物語 稲垣足穂 木馬舎 19871125/初版第1刷
□ 父の有り難う 長谷川まみ 主婦と生活社 2007/初版
□ Racing Days Henry Horenstein Henry Holt & Co 1987
□ 明るい部屋 ロラン・バルト みすず書房 19850620初版
□ ブローチ 内田也哉子/渡邊良重 リトルモア 20050303/第2刷
□ 世界のすべての七月 ティム・オブライエン 文藝春秋 20040315/第1刷
□ ロカ 中島らも 実業之日本社 20050425/初版第1刷
惜しい、3冊。
このどれかが、10BESTのリストに入っていたって不思議でもなんでもない。
ちょっとした trope(綾)で、ここにいるだけのことだ。
□ クレーの天使 谷川俊太郎 講談社 20020426/第6刷
□ ポール・ランド、デザインの授業 マイケル・クローガー BNN新社 20081001/初版
□ 厭芸術反古草紙 富岡多恵子 思潮社 19700715/初版
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