新年も10日を過ぎて。
お正月が年々ふつうの休日と同じようなって、「正月気分」という言葉は、もう死語のようだ。
新しい年を無事に迎えられたことは、素直に寿ぎたいが、正月をノスタルジックに想うことは、
もうやめたほうがいいんじゃないかと思ったり。
そんな2011年のはじまり。
とりあえず、書き残していた去年のこと。
年末に、思わぬ朗報が届いた。
住処であり、ブックストアとしても開放しているこの「コトバノイエ」が、大阪ガスの主催する
「大阪ガス 住宅設計アワード」というコンペティションで、最優秀賞を獲得したという知らせである。
もちろん、そのコンペに応募し、受賞したのは設計者の矢部さん。
その日の矢部さんの、破顔一笑といった一連の tweet で、彼がその賞を獲ったということを知り、
とりあえず祝辞は送ったものの、てっきりそれは古いビルディングをカッコよくリノベーションした
野田のご自邸だと思っていて、まさか5年前に建てたこの家が対象だったとは、次の日に彼から
知らされるまで夢にも思っていなかった。
とたんに、すこしうろたえた。
2007年の『新建築 住宅特集』という専門誌への掲載を皮切りに、いくつかの雑誌の取材を受け、
日本建築家協会(JIA)が主催する「関西建築家新人賞」の現地審査なども受けたことはあるが、
受賞、それも一等賞ということになると、まったく話が違う。
しかも、施主っていう立場はいかにも微妙だ。
祝うべきなのか、祝われるべきなのか。
まあ、なにはともあれ祝杯だと、暮れの29日に、「コトバノイエ最優秀忘年会オープンハウス」と
称する宴会を開き、たくさんの人たちに(途中で数えるのを諦めたが、前代未聞の人数だった)
集まっていただいた。
とりあえず、まずは乾杯!なのだった。
まだ塀もできていない、通りから丸見え透け透けのこの家に入居したのは、2005年の暮れ。
本が多すぎて引っ越しで大騒ぎしたこと、入居したその次の日に雪に見舞われ震え上がったこと、
道ゆく人の覗き視線にさらされてどぎまぎしたことなどを、思いだす。
そのときの、何ともいえない高揚を忘れないようにと、誰に見せるともなくこんな文章を書いた。
『世界の中心で、イエーッと叫ぶ ― words between the house and home 』
タイトルは、その頃話題になっていた『世界の中心で、愛をさけぶ』という小説の地口。
読み返してみるとよくわかるが、じつは、これを書いたころは、ひたすら「家造り」に夢中で、
ブックストアの「ブ」の字も、まったく頭の中になく、矢部さん(と木村工務店のヤングダイクス)に
拵えてもらった本棚に、ありったけの蔵書を並べ、悦に入っていただけだった。
これならまだまだ買えるゾ、なんて。
その「コトバノイエ」が 「BOOKS+コトバノイエ」になったのは、まさに建築の力としかいいようがない。
もしこの建築でなければ、ブックストアなんていうことは、思いもしなかっただろうから。
本屋をオープンして間もないころ、2007年11月25日のブログで、こんな風に記している。
まずは474冊のブックリストからのはじまり。
「コトバノイエ」という家造りのプロジェクトがこんなところまでくるなんて想像もできなかったし、
少し前までは思ってもみなかったことが、こうやって現実になってしまっていること自体すでにかなり
シュールなことだけど、この小さな試みがこれからどういう風に進んでいくのかとても楽しみだ。
なによりも、このコトバノイエの本棚を通してなにか新しい出会いのようなものがあれば、と思う。今はただ、世の中の人すべてに、どうぞよろしくお願いしますと、伝えたい。
そして、このときに望んでいた新しい出会いは、one coin / one note、水土書店、木村家本舗、
百花の百本といった様々な人たちとのセッションとして結実し、なによりも、このブックストアを
始めたことで、ぼく自身の中に澱のように沈殿していた屈託のようなものが、キレイに洗われて
いったことに、しばらくして気がついた。
宗教的にいうなら、これは福音ってやつだろう。
建築が、人を新しいステージに導き、それがそこに暮らす人間に解放をもたらす。
建築のアフォーダンス。
家を建てるなんてはじめてのことだから、なんの疑いもなくそんなものだと思っていたが、
それが奇跡といえるくらいに稀有なことだと、いろんな人たちから教えられた。
もしこれが奇跡なら、いうまでもなく、それは prize に値する。
たとえJIAがくれなくたって、たとえ大阪ガスがくれなかったとしても、こんなところでこんな風に
言ってしまうのはとても照れくさいけれど、ぼくは一等賞をあげたいと、ずっと思っていたんだ。
うだうだとこんなことを書き綴っているうちに、授賞式へのお誘いメールが届いた。
やっぱりホントノコトだったんだ。
矢部さん、おめでとう!
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なかなか追加できない「読む音楽も面白い」のブックリスト。