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2010.01.13

10 best of 2009

halthecat.JPG

年が明けてあっという間に10日が過ぎてしまった。
この調子なら、1年は1時間くらいで消え去ってしまいそうだ。

そんなにメリハリの効いた毎日を送っているわけじゃないけれど、少し振り返ってみると、
時には心が踊るような日もあって、2009年もそれほど悪い年じゃなかったような気がしてきた。
というよりも、雨の日は雨を愉しむ、という心構えが身に沁みてきたということかもしれない。

なんにしても、あまりUP-TO-DATE な情報や、わざとらしいことに関わりたくないという気持ち
が年々強くなってきているし、なによりも、「こだわる」ということに対しての違和感みたいなもの
が大きくなっていて、うまく説明できないけど、たとえばラーメンが食べたかったら、わざわざ
旨いといわれる店に行って行列に並ぶより、目の前の店に入って、それがあまり旨くなくても、
それはそれでいいかなっていう感じ、「たかが」でも、「されど」でもなく。

人は日々刻々と、何かを「決め」ながら生きていかなければならない。

要は、その「決め方」への attitude なんだろうな。

 

時期につき2009年の10BESTをピックアップしてみた。

去年は、本買いの幕間で、こんなことをやっていたのだった。

■ concert  :  David Byrne   / january

30年ぶりの再会。
そのときにも書いたが、ずっとやってるほうもエライけど、駆けつけるほうもなかなかだ。

その頃トンガリ放題だった David Byrne の肩の力の抜けかたがいい感じだった。
ノスタルジイではなく、ポジティブに年をとることの切なさのようなものが心に残った。

 “Everything That Happens Will Happen Today” は、2009のベストCDかもしれない。
Brian Eno との化学反応がもっともいいのは、このニューヨーカーではないのか。

また30年後に会いたい。

■ exhibition  :  歴史の歴史 at   金沢21世紀美術館   / february

金沢 + SANAA 建築 + 杉本博司 という組み合わせにシビれた。

巡回で春に開催された大阪の国立国際美術館の同展には行けなかったが、21世紀美術館
のクオリティやアーティストのテイストを考えると、金沢展にはきっと敵わない。

けっきょく旅らしい旅はこれだけだったけど、雪の金沢を堪能した。

金沢は食べものも旨かった。

■ shopping  :  Very First Antique Piece   / february

骨董品を買うなんて、そのときまで夢にも思っていなかったことだけど、21世紀美術館で、
杉本博司の古美術への熱にあてられて、ふらっと入った新竪町の古道具屋で、掌にのる
小さな焼きものにつかまってしまった。

紫香楽の肩衝茶入れ、蹲(うずくまる)風である。

茶道具の中でも茶入れは見立てのきかないアイテムだから、なかなか奥の深い世界がある
ということが帰ってからわかったが、なによりもその小品の作者が、亡き父親の知己の作品
だったことに、奇遇以上の「縁」を感じた。

萩市の茶道具屋に頼んで寸法に合った桐箱を造り、今もご健在のその作家に箱書きをお願いし、
「仕覆」といわれる包み裂にくるんでその桐箱に納めれば、いっぱしの骨董である。

銘をつけてやりたい。

■ work  :  Making library of Kimko   / april

「コトバノイエの30冊」の選者をしていただいた木村さんのご厚意で、ミーティングルームの
本棚をプランさせていただけたのは、間違いなく去年いちばん嬉しかったことのひとつだ。

この仕事が、コトバノイエのひとつの指針となった。

この本棚は着実に成長している。

■ movie  :  Gran Torino  by  Clint Eastwood   / may

なんかしみじみといい映画だった。
たぶん彼のベスト・フィルムではないんだろうけれど、やはりキラリと光る。

いつからか、映画は映画館でしか観ないようになってしまった。
寛ぎながらTVのモニターで観る映画も悪くはないけれど、暗がりのなかで大きいスクリーン
を一心不乱に見つめる2時間は、ほかの何ものにもかえがたいひとときのように思える。
そして、イーストウッドがぼくたちに届けてくれるどの映画も、その期待を裏切らない。

イーストウッドは、映画のことをよくわかっている。
ハリーでもマニーでもなく、唾を吐き続ける頑固ジジイのウォルトが、そのまま79歳のイースト
ウッドに思えてしまうのは、綿密に計算された彼のテクニックだろう。
そしてその世界に惹きこまれると、その映画が、彼の他の作品と同じようにリアルタイムの
アメリカの姿を描いたものだったことに気づく。

good job.

■ pet  :  HAL the cat   / july

ある夏の日、猫がウチにきた。
生まれてから1年足らずの、人間でいえば女子高生くらいの牝猫である。

一昨年に20年を共に過ごした愛猫を亡くし、しばらくは喪に服していたが、家の近くに、
ARK ( Animal Refuge Kansai ) というNPOのアニマル・シェルターがあることを知って、
また猫と暮らしてみる気になったのだった。

もうすっかり慣れて、猫らしく勝手気ままに過ごしているが、ペットというよりは、家族が
一人増えたという感じに近い。

この小さな生き物は、いろいろなことを教えてくれる。

■ website  :  コトバノイエの30冊   / january – september

ふとした思いつきで生まれた企画だけれど、思っていた以上にスリリングな体験だった。

一昨年の矢部さんに始まった選者が、ブルーナボインの辻さん → 木村工務店の木村さん
→ Meets regional の半井さん へと、熱をもって展開した。

次は若者や年配の方のお願いできればと思って人選を練っているが、なかなか難しい。

でもやっぱり、人とのセッションは面白い。

■ exhibition  :  若冲ワンダーランド at  MIHO museum   / october

故郷の美術館で、若冲の掛け軸や屏風絵を見ることができたのが、忘れがたい。

本人がそれを自覚していたかどうかはわからないが、若冲の作品はどれも、絵師としての
魂に溢れていて、 この one and only の奇才に圧倒された。

同時期に東京国立博物館で開催されていた歴史的傑作「動植綵絵(30幅) 」を見ることが
できなかったのは残念だったが、新たに発見された水墨の「象と鯨図屏風(六曲一双)」と、
プライス・コレクションの極彩色モザイク画「鳥獣花木図屏風(六曲一双)」の両方を、至近
距離で見られたのはこの上ない僥倖。

これだけのコレクションを、一堂にみられることは、たぶんもうないだろう。

若冲の発見者である辻惟雄氏が、この MIHO museum の館長だったことを喜ぶべきだ。

「信楽 – 壷中の天/1999」・「白洲正子の世界/2000」・「小林秀雄 – 美を求める心/2003」
「青山二郎の眼/2006」・「与謝蕪村 – 翔けめぐる創意/2008」

この美術館からは、眼を離せない。

■ automobile  :  2000 SAAB 9-3 2.0t SE   / november

ひょんなことで、車の乗り換えを余儀なくさせられた。

ずっと乗っていこうと思っていた、10年2台にわたる SAAB CLASSIC 900 から、それほど
期待もしていなかったモダンサーブ 9-3 への乗り換えだったが、これが思わぬ拾いモノ。

2000モデル SAAB 9-3 2.0t SE は、ひとことで言うと、well-designed-car である。

車本来の機能である「走る・曲がる・止まる」に関しては言うまでもなく、プレーンで、しかも
しっかりとした個性のあるスタイリング、スイッチやレバーのレイアウトやインターフェイス、
そしてたとえば方向指示器や警告の音や、メーターパネルやエンブレムのフォントまでもが、
一つのコンセプトのもとに、見事に設計されていて、北欧デザインの大人ぶりを感じさせる。
この「優しさ」は他の国の車にはない

成熟が、シンプルに行き着くのは、健全な生活がそこに存在するからなんだろう。

やはり北欧おそるべし、これが大人のデザインだなあ、と感心するばかり。

去年いちばんの買いものだった。

■ event  :  one coin / one note     / december

現在も営業中、今も店番をしながら帳場でこれを書いている。

このプロジェクトで良かったなあと思うことは、one coin / one note というキーワードを
発見できたことだ。

古書店のカンバンを挙げて3年目になるが、by appointment なんていう気ままなスタイルを
とりながらのんびりとやってきたから、売り方ということについてあまりきちんと考えたこと
がなかったわけだけれど、このショップのオファーをいただいて、このアイデアが浮かんだ。

ひょっとしたら、これがパーマネントなスタイルになり得るかもしれない、と今は思っていて、
すでに次のプランが萌芽している。

いずれにしても、不特定多数の人たちに立ち寄ってもらい、本と引き換えに金銭の受け渡し
をするという、リアルなショップを体験するのは全く始めてのことで、この前のエントリーでも
記したが、このリアルな感触を感じさせてもらえただけでも、このプロジェクトを企画された
近藤さんには感謝したい。

繰り返して記しておく。

倉俣史朗さんが言っていたように、ショップ・スペースとは祝祭の空間なのだ。
だからこそ、新しいことがそこから発信され、リニューアルや改築が繰り返される。

BOOKS+コトバノイエも、祝祭的な、どこにもないブックストアでありたい。

*

2009年の本。

< 10 best books of 2009 >

□  表徴の帝国 L’Empire des Signes    ロラン・バルト   新潮社  1974

□  私の食物誌    吉田健一   中央公論社  1972

□  文体練習 Exercices de Style    レーモン・クノー   朝日出版社  1996

□  ジャズ的    平岡正明   毎日新聞社  1997

□  レヴィ=ストロースの庭    港千尋   NTT出版  2008

□  初稿  眼球譚 Histoire de l’œil    ジョルジュ・バタイユ/オーシュ卿   奢霸都館  1997

□  家守綺譚    梨木香歩   新潮社  2004

□  夢の博物館 澁澤龍彦追悼アンソロジー    美術出版社  1988

□  旅する哲学 The Art of Travel    アラン・ド・ボトン   集英社  2004

□  日沒閉門    内田百閒   新潮社  1971

< 惜しくも選外 >

□  奇想の系譜    辻惟雄   美術出版社  1970
□  九つの小さな物語    富岡多恵子   大和書房  1975
□  マルセル・デュシャン    東野芳明   美術出版社  1977
□  象の消滅 短編選集1980-1991    村上春樹   新潮社  2005
□  愛書狂   フローベール他/生田耕作編訳   白水社  1980
□  錯乱のニューヨーク  Delirious New York    レム・コールハース   筑摩書房  1995
□  良心の領界 The Territory of Conscience    スーザン・ソンタグ   NTT出版  2006

< 10 best visual books of 2009 >

□  Mapplethorpe : The Complete Flowers    Robert Mapplethorpe  teNeues Publishing Group  2006  

□  拡大の美 日本が愛した焼きもの    西川茂   講談社  2007

□  THE BOB DYLAN SCRAPBOOK : 1956-1966        BOB DYLAN   SIMON & SCHUSTER  2005

□  SUGIMOTO – ARCHITECTURE    杉本博司   Museum of Contemporary Art Chicago  2003

□  Paper Pools    David Hockney   Thames Hudson1980

□  ROLLING STONE/THE COMPLETE COVERS 1867-1997    Jann.S.Wenner   ABRAMS 1998

□  ルーシー・リィー復刻    三宅一生監修   求龍堂  2009

□  Personal Exposures    Elliot Erwitt   W,W,Norton & Co,  1988

□  Henri Cartier-Bresson    梶川芳友編   何必館・京都現代美術館  1997

□  Edward Hopper    Rolf G. Renner   TASCHEN  2000

「たたずまい」のよくない本を、年々受けつけられなくなっている。
本は、読める object でもある。

*

ちなみに、去年買った本は902冊、売った本が591冊で、けっきょく本棚に311冊増殖したことになる。

本買いのルーティンに飽きてきたので、なにか新しいルートを見つけたい。

http://kotobanoie.com