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2009.08.09

isn't it good, norwegian wood ?

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 「1Q84」が古本で、並んでいた。
発売が5月末だったはずから、少し遅いかもしれない。

上下巻で2800円というプライスタグ、それぞれ1800円で売られている本だから、それほど安くはない。
もちろんまだ読んではいないけれど、漏れ聞くさまざまな断片からすると、とてもミリオンセラーになる
ようなわかり易い物語じゃないみたいだから、もう少ししたら、ブック・オフあたりに大量に放出され、
今年の暮れあたりには、間違いなく半額にはなっていそうな気がする。

200万部といえば、話題になっているからなんとなく買っちゃったという人がそうとういるはずで、
長編小説を読み慣れていない人が、ハルキ渾身の純文学大作を読めば、「なんかよくわからないなあ」
というのがだいたいの反応じゃないかと思うし、「村上春樹『1Q84』をどう読むか」とか「村上春樹の
『1Q84』を読み解く」なんていう本がでているのもぜんぜん不思議じゃない。

村上春樹を、「あの文体は、自分がいちばん好きな人が書く文体ですよね。」 (2009/03/09 読売新聞
松任谷由実との対談で)
と喝破した石田衣良が、この「1Q84」のことをこんな風に語っている。

でもね、村上作品の謎を解こうとしてもダメなのだ。それは『仮面ライダー』に登場する『ショッカー』に
世界征服をしてからなにをするのか質問するようなものだ。『星形の斑紋のある羊』も、『やみくろ』も、
『ねじまき鳥』も、本作の「リトル・ピープル』も、そこに一切意味はない。なにかのシンボルでさえない。
魅力的だけど決して意味づけを許さない空虚として、村上作品では、毎回純粋な謎が構造的に物語
を支えている。

比喩はひどいけど、ちょっと言えてる。

それにしてもこの本、どうしてこんなに売れたんだろう。
そんなわかりにくい「空虚」がかんたんに共感をよぶわけはないし、プロモーションやマーケティング
だけでは絶対にこんな数字を獲得することはできないはずだし。

そんなことを考えながら、TVを見ていたら、「ノルウェイの森」が、単行本と文庫本を合わせて1000万部を
越えた、とNHKのニュースが報じていた。

そういえば2週間ほど前、均一棚の定番、Amazon でいえば 1円売りの常連ともいえる(さっきチェック
したら単行本の上巻が32円、下巻が50円、文庫本にいたっては送料を含めたら定価より高かったから、
やはり少し沸騰しているのだ)その「ノルウェイの森」の初版が、けっこうな値段で売れたことを思い出した。

「1Q84」に歯が立たなかった人が、「ノルウェイの森」を読み直し、読みはじめているんだろうか。
あるいは2009→1984(架空の)の救済の物語から、1987→1968(架空の)の恋愛物語への回帰なのか。

彼自身が装幀を手がけたというこの「ノルウェイの森」の赤と緑のシンプルなジャケットは、とてもわかり易く、
それでいて本棚でのインパクトがあるし、文体も、独特の比喩がこの作品ではかなり抑制されていて、
とてもシンプルなものだから、きっとこちらのほうがベストセラーとして理には適っている。

映画が撮られるのだという。
パリのベトナム人「青いパパイヤの香り」のトラン・アン・ユンの脚本/監督、松山ケンイチ+菊池凛子で。
本が増刷されたのは、これがいちばん大きな理由かもしれない。
ただ、そうやって「ノルウェイの森」を読む人たちはけっして「螢」を読むことはないんだろうな、と思ったり。

ちなみに、ビートルズの「Norwegian Wood」は、単数形だから「森」ではなく「木」。
その歌では ” She showed me her room, isn’t it good, Norwegian Wood ? ” という文脈でつかわれて
いるコトバだから、ノルウェイ産の内装材(たぶん松材)のことで、彼女の部屋のちょっとエキゾティックな
雰囲気を表している表現じゃないかと思います。イギリスの家は壁紙で装飾するのが一般的だからね。

Anyway,

もうひとつ跳ぶために、村上春樹は、もっと正面から「性」(若者のそれじゃなく)に立ち向かうべきだと思う。

Leap before you look !

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盛夏の本買記 ― it’s too hot to do anything.

新しく開拓した古書店Kで、ホッパーの画集「 EDWARD HOPPER : 1882 – 1967」を見つけた。
彼の作品全体に漂うあの滲んだ人工の光は、コカインのようなアッパー系ではなく、きっとクエイルード
(quaalude)のようなダウナー・ケミカルで視える世界じゃないかという気がする。

代表作の “Night Hawk” を始めとして、 “Western Motel” “Intermission” “Chair Car” “Hotel Lobby”
 “Automat” など、椅子に腰掛けた女の人の孤独感を描いた作品にとても魅力を感じる。
本物が観たい。

久しぶりに行ったブック・オフでは、一度買い逃して、ずっと探していたボトンの「旅する哲学」に巡りあう。
まさかブック・オフでこれが見つかるとは思わなかった。

この本のジャケットが、ホッパーの “Compartment C,Car 293” なのはきっと偶然じゃない。
ホッパーの画集を買ったことで、この本が姿を現したのだ。

買い直しは、「ヒッチコック 映画術 by トリュフォー」
これも古書店Kで、じつはこの前にいったときにこの本が棚の隅にあるのを知っていた。

この本はたぶん5冊目。「読む前売れ」が続いている一冊で、ヒッチコックのファンからバイブルと
称されるだけあって、掲載すればれば必ず売れてしまう、密かな人気者である。
読めるまで買う。

何必館の「Henri Cartier-Bresson展」の図録が、T書店にあったのもウレシかったな。

雑誌は「住む。」と「和楽」

□ Edward Hopper    Rolf G. Renner    TASCHEN    2000

□ 旅する哲学 THE ART OF TRAVEL   アラン・ド・ボトン   集英社  20040410 第1刷                                                        
□ 黄金分割 ピラミッドからル・コルビュジェまで   柳亮  美術出版社 19711230 8版

□ ライトの住宅    フランク・ロイド・ライト   彰国社   19701110 第1版第4刷

□ Henri Cartier-Bresson          梶川芳友編   何必館・京都現代美術館  19971111 初版

□ ライトの住宅    フランク・ロイド・ライト   彰国社   19701110 第1版第4刷

□ ブランドのデザイン   川島蓉子   弘文堂   20060915 初版2刷

□ ヒッチコック映画術   フランソワ・トリュフォー   晶文社   19871215 17刷

□ エプスタイン回想録   ブライアン・エプスタイン(片岡義男訳) 新書館  19721105 初版

□ 燃える家 THE BURNING HOUSE   アン・ビーティ  ブロンズ新社 19890325 初版第1刷

□ 旅の絵本   三島由紀夫   大日本雄弁会講談社   19580527 第2刷

□ 日本の庭園 SD選書23   田中正大   鹿島出版会   19740530 第7刷

□ マルセル・デュシャン   東野芳明   美術出版社   19811120 4版

□ 嫌いなものは嫌い   フラン・レボヴィッツ   晶文社   19811030 初版

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最近追加した「小説・詩・エッセイ・評論など」のブックリスト。

http://kotobanoie.com/