twitterの海を遊泳していると、なかなか言霊が降りてきてくれない。
暑い夏。
家と本との関係に想いを馳せる。
コトバノイエは、本のために造られた家だから、あたりまえのように本が並び、あたりまえの
ように古書店の看板をあげているが、普通の家を本の家にするとしたら、きっと何かが必要だ。
夏の旅の途中で立ち寄った、静謐な寺院のような山の中の窯場。
そこで造り、そこで売り、そこで暮らす。
迷いのないひとつの自然な営み。
鳥取の鄙びたビルの2階に並ぶ小さなレコード屋と、小さな雑貨屋と。小さな家具屋。
若さのもつ確信的なあやうさ、そうであるがゆえの小気味よさ。
海の家、砂浜にはえる植物のような。
近藤サンのところの「 one coin / one note 」、矢部サンのところの「水土書店」。
どちらもすごく短い間だったけれど、ショップをやらせてもらって良かったなあと思うのは、
ショップに立っている人の気持ちがわかったことだった。
店に入ったら「こんにちは」と声をかける、手ぶらで店を離れない。
あたりまえの事かもしれないが、見知らぬ人のそういう振る舞いが、ことのほか嬉しい。
そういう振る舞いを起こさせるような something.
アフォーダンスの集積。
手垢のついた「プロ」たちには、決してできないこと、考えもつかないこと。
そして、M氏の本屋。
曰く、本を一人ぼっちにさせないために、
曰く、「欲望」と「市場」のあいだに
本は必ず3冊買うこと。まず本を1冊選び、次に1冊選ぶ。問題は2冊目・3冊目に向かうときに、
実はものすごいジャンプがあるんですね。その2冊か3冊を買うのをみんな怖がっているんです。
本の値段なんて大したことないんですから。
これはホントに言えてるなあ。
来てくれる人たちがにそういう気になるような、コンテンツじゃないとダメなんだ。
セレクションは FLAT に、ディスプレイには、はっきりとした濃淡をつけるべきなんだろう。
コアをどこに置くか、それが現場のポイント。
それにしても、と。
「集う、繋がる、広がる」という、あのキーワード。
― think naturally
*
酷暑の中の本買記。
旅先でも古本屋に行くのはルーティンだけれど、鳥取市にはいくら調べても古本屋らしきものがなく。
それでもなんとか見つけだし、新刊まじりで少しだけ買えた。
< books I bought in tottori >
□ 日々の100 松浦弥太郎 青山出版社 20090410 第2刷 ¥1,500
□ 第一阿房列車 内田百閒 新潮文庫 20071015 6刷 ¥360
□ 百鬼園随筆 内田百閒 新潮文庫 20040120 9刷 ¥400
□ 松岡正剛の書棚 松岡正剛 中央公論新社 20100701 初版 ¥1,200
□ ブローチ 内田也哉子/渡邊良重 リトルモア 20050303 第2刷 ¥1,400
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< buying books as usual >
□ ai ジョン・レノンが見た日本 ジョン・レノン 小学館 19901201 初版第1刷 ¥1,800
ジョン・レノンの日本語練習帳。
MYSELF – jibun から始まって、POET – shijin に続き、やがて LOVE – ai で終わるその流れは、
いかにもジョンらしいし、自筆のスケッチは、彼がそれぞれの単語やセンテンスで思い描くイメージが
そのまま表現されていて、興味深い。
外国語を、愛する人と共に、こんな風にセルフ・スタディできればきっとすごく楽しいんだろうな。
ジョンがいなくなってもう30年だ。
このあいだも、車のラジオから彼の imagine が聴こえてきて泣きそうになった。
*
定点観測している作家たちがいる。
草間彌生は新顔だが、小林秀雄も金子光晴も、本棚で出会えば必ずチェックする人なのだ。
□ ファン・ゴッホ書簡全集 1 小林秀雄監修 みすず書房 19770909 第5刷 ¥3000
□ ファン・ゴッホ書簡全集2 小林秀雄監修 みすず書房 19771205 第4刷 ¥7,000
□ 論集 古典と美 小林秀雄 求龍堂 19650615 2版 ¥2000
ゴッホの書簡全集は全6巻の端本、瀧口修造の装幀による大型本で、New York Graphic Society
刊行の「The Complete Letters of Vincent Van Gogh」を原本とする全訳。
読破するにはそうとうの体力が要りそうな気配の本だけれど、「これほど綿密な手紙を書く人間は、
ひどく孤独な人間にちがいないのだ」という、月報での粟津則雄の言葉が、この書簡集の本質を
言いあてているように思える。
「古典と美」は、まさに小林秀雄の本領。
選ばれた作品も、本の体裁も、まったく文句のない美しい一冊だ。
小林氏は眼を通して発見し感動し、造型に内在する言葉と対話しながら、それをさらに言語表現の
世界を移さうとして刻苦しているが、そのすがたがそのまま詩となっている。( by 亀井勝一郎 )
「内在する言葉」とは、すなわち文学のことだ。
□ ねむれ巴里 金子光晴 中央公論社 19731030初版 ¥700
□ 風流尸解記 金子光晴 青蛾書房 19720510第4刷 ¥900
小林秀雄が教祖(by 坂口安吾)だとしたら、金子光晴もまた教祖のひとりだろう。
圧倒的な自由感。
「ねむれ巴里」は「どくろ杯」「西ひがし」とならぶ放浪三部作、「風流尸解記(フウリュウシカイキ)」は、
生粋の詩人としては唯一無二の長編小説だが、散文と詩が境界もなく解け合うその様は、小説という
よりは、やはり「自由詩」と呼ぶべきもののような気がする。
日本語の使い手としては one and only の人だ。
□ 聖マルクス教会炎上 草間彌生 パルコ出版 19850428 初版 ¥2700
□ 天と地の間 草間彌生 而立書房 19880420 第1刷 ¥700
ちっとも読まないのに、なぜか直島の海辺のあの黄色いカボチャが頭から離れなくて、
見かけるたびに手が伸びる。
彼女の小説は、すべてがポルノグラフィだけれど、どうも小説としてではなく、文章が詰まった
ひとつの作品として自分の眼が認知しているようだ。
それこそが、彼女の「おもうつぼ」なのかもしれないが。
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< odds and ends >
□ 画家の沈黙の部分 滝口修造 みすず書房 19800110 第4刷 ¥2000
□ フリッカー、あるいは映画の魔 セオドア・ロザック 文藝春秋 19981130 第2刷 ¥1600
□ 日本の民家 今和次郎 相模書房 19711130 増訂第4刷 ¥3600
□ 定本 種田山頭火句集 種田山頭火 彌生書房 19830420 9版 ¥1,200
□ トリックスター ラディン他 晶文社 19870120 13刷 ¥900
□ 樹の文化誌 足田輝一 朝日新聞社 19900110 第5版 ¥600
□ 蒐集物語 私家本柳宗悦集第4巻 柳宗悦 春秋社 19740330 初版 ¥2400
□ ジャンキー ウィリアム・バロウズ 思潮社 19841001 新装版第3刷 ¥900
□ 自然の言葉 ジャン=マリー・ベルト 紀伊國屋書店 19960628 初版 ¥400
□ 未来圏からの風 池澤夏樹 パルコ出版 19990609 第4刷 ¥1600
□ DECORATIVE ART 50’s Charlotte & Peter Fiell TASCEN 2008 ¥1360
□ 永遠の緑色 片岡義男 岩波書店 19900606 第1刷 ¥600
□ 釣師・釣場 井伏鱒二 新潮社 19600229 初版 ¥1200
□ 最後の瞬間のすごく大きな変化 グレイス・ベイリー 文藝春秋 19990525 第1刷 ¥1,200
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再入荷、あるいはダブり。
□ 裸のランチ ウィリアム・バロウズ 河出書房新社 19710615 初版 ¥1500
□ 普通のデザイン 内田繁 工作社 20070630 初版 ¥1100
□ アウトサイダー コリン・ウィルソン 紀伊國屋書店 19810315 第43刷 ¥1500
□ 麻薬書簡 W.バロウズ/A.ギンズバーグ 思潮社 19770601 第4刷 ¥2000
□ かくれ里 白洲正子 新潮社 197812101 1刷 ¥2,000
□ デザインのデザイン 原研哉 岩波書店 20031021 第1刷 ¥1,300
□ カンバセイション・ピース 保坂和志 新潮社 20030730 初版 ¥500
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