とある美容室の本棚をつくらせてもらうことになった。
髪を切るというより、「少年マガジン」を読むためにいってた近所の散髪屋。
カットをしてもらうとき絶妙のタイミングで手渡されるパーマ屋さんの「女性自身」。
どちらも散髪のときのシーンとして心の中には残っていて、それはそれでなかなか捨てがたい情景
のような気はするけれど、その場にもっとちゃんとしたライブラリイがあっても楽しいんじゃないかと、
このブックショップをはじめたときからずっと思ってた。
一年前の「unexpectedly a serious(けっこう真面目に)」というエントリーでこんなことを書いている。
「そこに書かれている内容だけじゃなく、ブックデザインや組み合わせも含めたセレクションで、
そこに在ること自体がそのスペースやそのショップやその人の表現となるような本棚をデザインすること。
たとえば素敵なライブラリーのあるリゾートホテル、週刊誌や新聞だけじゃない歯医者さん、美しい装丁
の写真集が並んでいるブティック、エバーグリーンな随筆の置いてある輸入車ディーラー、付加価値や
差別化がマーケティングのキーワードとなっている時代に、本というものが(単にディスプレイとしてだけ
じゃなく)、そのひとつのマティリアルになることがあったっていいんじゃないだろうか。」
ホント、けっこう真面目にそんなことをずっと考えていて、この一年の間に、たとえばブックディレクター
なんていう人がTVで紹介されたり(ちょっと悔しいけど)、また実際に「旅に持っていく本」のセレクション
をさせていただいたり、なんとなくひとつのラインが見えてきたような感じがしていた矢先の依頼だった。
1200mmの3段、100冊ほどのセレクション、もちろん古本ばかりだ。
まず考えたのは、あまりマーケティングせずにおこうということだ。
最大限の効果を上げるために、そこにくるお客さんの年齢層や傾向を分析して、そういう人たちの関心の
高い分野にしぼりこんで展開するというのがプロモーションの基本だけれど、それでは教科書的すぎて
あまり面白くないし、だいいちふつうにある街の美容室にくるお客さんのための本なんて、コトバノイエの
ブックリストにあるかどうかもわからない。
かといってスペースが限られていて、ディスプレイ(背表紙だけじゃ図書館みたいだからやっぱり何冊かは
表を向けて並べたい)のことも考えると、あまり総花的なセレクションだと全体がボヤけてしまいそうだし。
まず小説ははずそう、
シチュエーションから考えると、どこから読み始めてどこで終わってもいいものというのがひとつのモノサシ
になりそうだから、物語は不向きだ。
大きくて重い本もちょっと。
家庭画報でさえ少し重く感じるみたいだから、大型のハードカバーや横長の写真集なんかはよくないだろう。
ウダウダとこんなことを考えているうちに、とにかくふだんあまり馴染みのない本を手に取ることで、
ちょっとした非日常みたいなものを感じてもらえることができたら、それでいいんじゃないかと腹を括った、
あれやこれや頭の中で考えていてもしかたない、選ぶ本が表現なんだから。
写真集・画集/詩集/旅の本/大人の絵本/上質のエッセイ/個性的な雑誌
そんな風にして、この六つのセグメントができた。
そして選んだ本はこんな感じ。
book list for Hair Salon Smile Seed ( extract )
■ Hockney in California David Hockney アートアート・ライフ編
■ 波の絵、波の話 稲越功一・村上春樹 文藝春秋
■ PUPPIES WILLIAM WEGMAN HYPERION
■ 空に書く ジョン・レノン 筑摩書房
■ 手紙 谷川 俊太郎 集英社
■ やきものを買う旅 婦人画報社
■ 近江路散歩 司馬遼太郎ほか 新潮社
■ 白州正子と楽しむ旅 白州正子 新潮社
■ 風の又三郎 宮澤賢治 羽田書店
■ 哲学のえほん 植村光雄 PHP研究所
■ 森の絵本 長田弘 講談社
■ 暮しの愉しみ 向田邦子 新潮社
■ 庭仕事の愉しみ ヘルマン・ヘッセ 草思社
■ ねこに未来はない 長田弘 晶文社
■ ポートレイト・イン・ジャズ 村上春樹/和田誠 新潮社
■ 散歩のとき何か食べたくなって 池波正太郎 平凡社
■ 和楽 2001/11月号 小学館
■ Arne 2006-9-15/No.17 イオグラフィック
■ wallpaper december 1999 a Time Warner Company
■ 庭と花の手帖 2000年版 暮しの手帖社
こんな本が美容室のウェイティング・スペースに置いてあったらちょっと楽しいと思うんだけど。
本の入れ替えを月単位でやっていくことになっている。
何回かやっているうちに、なにかもう少しはっきりしたものが、見えてくるんじゃないかと思う。
なんにしても、it will take for a while(10年早い)と思っていたことのひとつが実現したのはとてもウレシイ。
本買記ならぬ本選記の顛末、いろいろと難しい。