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2008.06.12

no room for squares

jaket.JPG

はじめて買ったレコードは、サイモン&ガーファンクルのLPシングル(17cmサイズで33rpmのレコ
ードがあったのです)、「sound of silence」「Mrs.Robinson」「Scarborough Fair」のカップリングで、
ひょっとしたら「卒業」のサントラだったかもしれない。

その次がビートルズの「OLDIES」、
サイケデリックなイラストのジャケットに透明な赤のレコード盤、そして真ん中に青いリンゴ。
これにはシビレた。

「OLDIES」は1973年に『赤盤』『青盤』が発売されるまでのビートルズの唯一のベスト盤で、今で
も初期のヒットチューンが歌詞カードなしで唄えるのはこのレコードのおかげといってもいいくらい
に愛着のある一枚だけれど、オフィシャルなビートルズ・ディスコグラフィーの中で、未だにCD化さ
れてないのは、たぶんこのアルバムだけだったりする。

今から考えると、ほんの少し前の自分たちのヒット曲を「ちょっと旧いけど」なんていうタイトルで発
表するなんて、いかにもビートルズらしい sence of humor 、たぶんジョンの仕業だ。

名前が大きくなりすぎて、当時誰もがみんなビートルズに首ったけだったような伝説になってしま
っているけれど、ビートルズは実は解散してからビッグネームになったグループで、彼らが現役の
とき実際にレコードを買って、朝から晩まで聴き狂っている人なんてそれほど多くなかったし、ひょ
っとしたら今でもそうかもしれないと思う。

その頃テレビではもちろん歌謡曲、
ブルーライト・ヨコハマ/いしだあゆみ・恋の奴隷/奥村チヨ・涙の季節/ピンキーとキラーズなんか
が毎日のように歌謡番組で流れていたことを憶えているし、今でいう(もう古いか)ニューミュージ
ックの先祖といってもいいフォークソング勃興の頃で、遠い世界に/五つの赤い風船・風/はしだ
のりひことシューベルツ・時には母のない子のように/カルメン・マキといった曲がチャートに残され
ている。 レコード大賞は、佐良直美の「いいじゃないの幸せならば」だった。

BLUE NOTE というジャズのレーベルのとてもお洒落なレコード・ジャケットの図録を眺めていたら、
レコード時代にフラッシュバックしてしまった。
 

BLUE NOTE  the album cover art   グラハム・マーシュ編   美術出版社 19920101 第2刷

デザイナーの名前はリード・マイルス、このレーベルのハウスデザイナーである。

マイルスのジャケット・デザインの特徴は、斬新なタイポグラフィと大胆な写真のトリミング、そして
余白をいかしたレイアウトのセンスだ。

レコードを買って音楽を聴きはじめたのがROCKだったから、JAZZの音に触れたのはずいぶん大
人になってからだし、彼がレコード・ジャケットのデザインに携わっていたのが1956年から1967年
までということだから、リアルタイムでこのレーベルのことを知っているわけじゃないけれど、原寸
の12インチ四方のサイズで製本されたこの本に載っているセンスのいいLPジャケットを見ていると、
モダン・ジャズ(ハードバップ)のホットなアドリブの響きや、アイヴィーやコンチネンタルのスタイル
でビシッときめたお洒落なジャズ・ミュージシャンたちの颯爽とした姿、そしていわゆるビートの時
代の NEW YORK CITY の雰囲気が伝わってくる。

no room for squares , サイケデリックの前は、これが HIP だったんだ。

「いずれにしてもリード・マイルスは中に収められた音楽が聴こえてくるようなジャケットを作ったの
である。革新的な演奏には抽象的なデザインをほどこし、クールなサウンドには気取って歩く女性
をあしらい、音楽とイメージの重なり合う活字を選び、というように。( by Felix Cromey)」

ブルーノート創立者アルフレッド・ライオンは、セロニアス・モンクやアート・ブレイキーといった「新
人」を発掘し、録音のディレクションを名エンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダーに任せ、写真は経営
のパートナーでもあるフランシス・ウルフ、そしてアルバムのアートワークに、この新進のハウス・
デザイナーを抜擢した。

このレーベルの一連の傑作がこのチームで造られたのだから、彼が制作者(プロデューサー)と
して卓越した眼をもっていたことは間違いないし、ジャケットのデザインにもドイツ人であるライオン
の、バウハウス的なモダンデザインへの意識も感じとれる。

考えてみればグラフィック・デザインというものを知ったのは、レコード・ジャケットからだった。

ジャケットを眺めながらプレイヤーの針を落とす、するとレコードから出てくる音がそのジャケットの
デザインと共鳴してひとつの世界を作り出す、ミックス・メディアってやつだ。

そのうちジャケットを見るだけで、頭の中に音楽が鳴り始めるんだ。

レコード・ジャケットやレーベルのロゴ・マークのデザインは、そのレコードに収められている音と
一体となって、心の奥底にはっきりと残っている。

LPジャケットの魅力の源泉はそのサイズじゃないかと思う。

色彩の微妙なニュアンスやディテールの質感の表現や、そのミュージシャンの表情を原寸大で、
ときには鼻の穴や毛穴まで見せてくれたのも、この12インチというサイズだったからこそだ。

音楽の視覚化。

もちろんCDはCDとして12センチの表現があるわけだから、そのデザイン媒体としての優劣を問う
ことはあまり意味のないことだけれど、LPをそのまま縮小したCDパッケージは、それがたとえLP
とおなじ紙でできていたとしても、あまり心には響かない。

LPという音楽メディアが誕生したのが1948年、そしてCDへと変わっていったのが1980年代末だ
から、LPの時代はじつはたった40年だったということだ。

そしてCDという媒体が、デジタルデータにとって代わられようとしている今、音楽のヴィジュアル
表現はどこへいくんだろう。

*

 

■ 濹東綺譚   荷風小説傑作集一  永井荷風  六興出版社  19500625 初版

古本もこれくらいになると古書の風格がでてきます。

「断腸亭日乗」とならぶ荷風の代表作といわれていますが、山の手と下町が別世界だった頃の
東京市、山の手人の荷風にとっての下町は、異国だったんじゃないかというのが下町の東京人
小林信彦さんの見解です。

どうもキモは文末のエッセイ「作者贅言」のようです。

もちろんまだ読んでないし、この作品をこの本で読むかどうかはわかりませんが、ただこの本が
持つ古書としての佇まいにはつよく惹かれます。

まあ本好きのオブジェかな。

■ THE STUDY OF COMME des GARCONS   南谷えり子  リトル・モア  20041125 第3刷

造反有理。

たとえそれが自らのものであっても旧を破壊し、ここにない新しいものを制作し続ける川久保玲と
いう人の「創造」への魂は賞賛に値する。

そして同時に一度も赤字をだしたことがないというビジネス・オペレーションにも驚嘆。

1 コム デ ギャルソンは何を壊したのか?
2 クリエイションの規則
3 ビジネスもクリエイションの一環です
4 私は反抗的です
5 コム デ ギャルソンを着ること
6 少年のように

コムデギャルソンに関する本はほとんど見かけないので、貴重なものかもしれません。

■ 逡巡する思考 WRITTINGS 1982-2007   岸和郎  共立出版  20070920 初版第1刷

「ダイハード・モダニスト」岸和郎さんの25年の集大成、ひとつのエポックでしょう。

大著なのでまだまったく手をつけていませんが、じっくり読んで、できれば本文で考えてみたい
と考えています。

京都に居続けていらっしゃることが、ひとつのキー・メッセージじゃないかと思っています。

■ 俵屋の不思議   村松友視  世界文化社  19990801 初版第9刷

再入荷、良本を買い重ねることに躊躇いはなかったけれど、Amazon でひどい値段で売られてい
るのを見てしまったら、本がかわいそうになってきた。

物の価値とその価格に齟齬が生じることは、それほど珍しいことではないけれど、礼を失すること
はやはり品格の問題といわざるを得ない。
売れればいいという商品思想において、日本人は中国人を笑えない。
自由競争だからこそ売る側の discipline が問われるのだ。

俵屋はもちろんかなり素敵ですが、個人的には亡くなったご亭主、アーネスト・サトウさんに興味。

■ 寺山修司劇場美術館   寺山偏陸監修  PARCO出版  20080504 第1刷 

この時期に寺山修司の新刊で、再評価の気配なのかとおもったら、青森県立美術館で開催され
た回顧展の図録だった。

「どんな鳥だって想像力より高く飛ぶことはできないだろう」とはいかにものコピーです。

『千の美意識を持った男』がなかなかうまくまとめられたコンピレーションですが、ご母堂の希望
で、九条今日子さんとともに本人の死後寺山籍に弟として入籍されたという監修者の寺山偏陸
(ヘンリク)という人がとても気になります、天井桟敷の人らしいけど。

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