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2010.09.16

dada does not mean anything

dada.JPG

dadaと聞いただけで、なぜか心が躍る。

この本をいつもの本屋で見つけたとき、心臓が一瞬ドキンと高鳴った。

□ ダダ宣言     トリスタン・ツァラ   竹内書店   19700415 初版 

Sept Manifestes Dada Et Lampisteries / lampisteries  by  Tristan Tzara

文句なしにカッコイイ本だ。

ソフトカバーに函入りというちょっと珍しい体裁。
ロシア・アバンギャルド風の書体や色使いのケースデザインは、オリジナルかと思っていたが、
奥附に装幀として去年亡くなった粟津潔さんの名前、さすがである。
黒羅紗の表紙にシルクで刷られた極太ゴシックのタイトルが光ってる。

ダダイズムのほとんどすべてが、この本の中にある。

トリスタン・ツァラは、ダダの命名者だ。
ルーマニア生まれのこの若き詩人は22歳の時、この本の7つの宣言で、のちにシュルレアリスム
へと続いてゆく混沌の芸術の幕を開けた。 

1  アンチピリン氏の宣言  manifeste de monsieur antipyrine
2  ダダ宣言1918年    manifeste dada 1918
3  気取りなき声明    proclamation sans pretention
4  反哲学者aa氏の宣言       manifeste de mousieur aa l’antiphilosophe
5  トリスタン ツァラ       tristan tzara
6  aa氏 反哲学者が僕らにおくるこの宣言    monsieur aa l’antiphilosophe nous envie ce manifeste
7  弱き恋と苦き恋についてのダダ宣言     dada manifeste sur l’amour faible et l’amour amer
補遺 いかにして僕は魅力的で感じよくかつ優美となったか   comment  je suis devenu charmant sympathique et delicieux

そして、散文詩のようなエッセイ ランプ製造工場 lampisteries

宣言から、いくつかの文章を抜粋する。

ひとつの宣言を公にするには、A, B, C, を希求して、1, 2, 3, を撃破せねばらなぬ。苛立ち、
翼を鋭くして大小様々の a, b, c, を獲得しひろめるのだ。

新聞を見ればわかることだが、クル族の黒人は聖牛のしっぽを名づけてダダと呼ぶ。
イタリアのある地方では、立方体と母親とがダダである。木馬と乳母、ロシア語やルーマニア語では
二重の肯定もダダ。博識あるジャーナリストに言わせれば、それは赤ちゃんの芸術だ。

僕は体系を拒否する。まだしも容認しうるものは、いかなる体系も持たない体系だ。

破壊行為のなかに全存在をかけた拳の講義, DADA, 安易な妥協と上品さで貞潔なセックスが
今日まで遺棄してきたいっさいの方法の認識, DADA, 論理の廃棄、創造不能者たちの舞踏, DADA,
ひきつったくるしみの叫び。相反し矛盾するいっさいのもの、醜怪なもの、不条理なもののからみあい。
つまり、生だ。

芸術はいちど手術を必要とする。

感覚を錯乱させよ ? 想念を錯乱させよ。そうすれば風紀錯乱の、瓦解の、潰滅の、衝撃の、
ありとあらゆる熱帯性の驟雨が、落雷から身を守る確実な行為となり、公益になることうけあいだ。

ダダはいっさいを疑う。ダダはアルマジロだ。すべてがダダだ。ダダに警戒せよ。

ダダは総力をあげて、いたるところで白雉の復権に努めるのだ。しかも意識的に、である。

ダダは未来に反対する。

なんか面白いなあ、まるで Twitter みたいだ。

この本をパラパラと眺めていると、Cecil Taylor や Art Ensemble of Chicago なんかのフリージャズを
聴いているような、わけのわからない高揚感におそわれてくる。
あるいはギンズバーグの「吠える」。

理解というものを越えたところにある、感覚的な something.

ビートがケルアックのムーブメントだったように、ダダは、ツァラの運動体だった。

ヨーロッパ全体を覆っていた大戦への嫌悪感や喪失感のなかで、閃光のように登場したダダ。
DADA NE SIGNIFIE RIEN(ダダはなにも意味しない)と宣言するツァラ。

亡命者が集うチューリッヒの、世界史上最も危険ではかないといわれた「キャバレー・ヴォルテール」
を発祥の地とし、既成のあらゆる価値を否定し、すべてのものに異議を申し立てた反抗の芸術は、
やがてパリやニューヨークそして東京にも飛び火し、ブルトンやエリュアールやデュシャンやマン・レイ
やピカビアや辻潤や中原中也や坂口安吾といったアーティストたちが、その新しい表現に痺れた。

けれどもその高揚感のなかで、ツァラ自身が幕を引く。

ダダは、けっきょく「瞬間的な持続のなかでしか呼吸することのできない『純粋無垢の微生物』」で、
ツァラ自身が回想で述べているように、「みずから棲息した、いわばめくるめくような高みを保ちえなく
なったとき、1922年に、その活動を終熄させたのである。」

4年間だけの眩暈。

ツァラには、ダダを完璧な運動体として完了させたいという願いがあったのだと思う。
だからこそ、このムーブメントが散漫な発展をすることが、あるいは緩慢な死を向かえることが
耐えられなかったのだ。

トリスタン・ツァラのトリスタンはフランス語で「悲しむ者」、ツァラはルーマニア語で「故郷」という意味
なんだそうだ。だから、名前全体の意味では、「故郷にあっては悲しき者」というようなものになるらしい。

この世でいちばん大切な価値は、「自由」だと思う。
とにかく自由であることがすべてといってもいい。
All you need is freedom.

その自由を極限まで拡げたのは、政治でいえばアナキズムだし、芸術でいうとダダイズムだ。

ほんの数年の輝きだったけれど、ツァラが希求したものは、ダダという名の自由だったに違いないし、
それが色褪せることは決してない。

若さゆえとはいえ、自らの思想を、「何も意味しない」と宣言するとは、やさぐれの極み。

そういえば、円谷シリーズのウルトラマンに、ダダという異星人がいたような気がする。
なんとなく知的なやつだった、ピカソのような横縞の服を着て。

*

酷暑本買記

初秋とはけっして言う気がしない非現実的な気温の中での本屋めぐり。
できれば、夕暮れからというのが理想的だが、店に入れば涼しいからと、夏ノアツサニモ負ケズ。

せめてシブイ本に巡り会うことができれば、気分良く帰れるけれど、いつもいつもそういう風に
うまくはいってくれないわけで。

リストを見返せば、まあそれほど悪くはないけれど、目が醒めるようなものは、やはり30冊に一冊か。

それでも通っていれば必ず出会いがあるから、やっぱりやめられない。

まさに、「ぐじぐじ」とはこのことかもしれない。

□ 世界のすべての七月    ティム・オブライエン    文藝春秋   20040315第1刷  ¥980

タイトル買い、といってもいい。

30年ぶりに大学の同窓会に集まった53歳の男と女、という設定が絶妙。
20世紀のターニングポイント1969年に大学を卒業し、20世紀最後の年に再会したヒッピーエイジの
群像クロニクルが面白くないわけがない。

そして、” July, July ” という連作短編集を、このタイトルに訳した村上春樹のセンスには脱帽だ。

この小説の、最後の一文がすべてを表しているんじゃないかと思う。

西暦2000年の7月9日、日曜日、午前3時11分だった。しかし燃え立つような草原の上にあっては、
世界はいつもすべて7月だった。
「私たち、たぶんゲットするわよ」とエイミーが言った。
「たぶんなんてやめてよ」とジャンは言って、エイミーの手を取った。
「私についていらっしゃい、スウィートハート。私たちは不死身なんだから。」

ひとつだけ、翻訳者と同じ不安を感じていることを告白しておこう。

50代半ばになってもなおも行き惑い、生き惑う心持ちが実感として理解できるわけだ。でも、たとえば
今20歳の読者がこの小説を読んで、どのような印象を持ち、感想を持つのか、僕にはわからない。
「えー、うちのお父さんの歳の人って、まだこんなぐじぐじしたことやってるわけ?」と驚くのだろうか。

そう、正直に言うけれど、50代ってのは、じつに「ぐじぐじ」しているのだ。

□ バックミンスター・フラーの宇宙学校  B・フラー  めるくまーる  20050310初版第5刷 ¥1,100

バックミンスター・フラーが、立体トラスによるフラー・ドーム(ジオデシック・ドーム)を発案したのが1948年。
そして、「宇宙船地球号」の概念を発表したのが1968年。
地球上の資源が有限でであることをあらためて説き、それを守るために考えられた、彼の「宇宙船地球号」
という考え方は、自然志向をひとつの指針としていたヒッピー・ムーブメントを経て ” Whole Earth Catalog “
として結実し、現在の環境をめぐる、エコロジーやサステナビリティといったムーブメントに繋がっている。

未来を予見するための「デザイン・サイエンス」が、彼のメッセージのコアだ。
確かな情報と効率の優れたデザインこそが、地球の資源を明らかにし、公平に分配し、すべての人間に
よりよい暮らしをもたらす、という確信。

この本の原題は、” On Education “
フラーが教育について記した様々な文章が収められていて、子供たちへの教育こそが宇宙船地球号を、
潰滅から守るための最大のパワーであるという彼の信念が説かれている。

地球のことを、シリアスに考えると、さいごは哲学に行きついてしまうのだ。

□ 読書の方法   吉本隆明   光文社   20011125 初版第1刷   ¥500
□ サウスポイント   よしもとばなな   中央公論新社   20080425 初版   ¥700
□ 吉本隆明 X 吉本ばなな   ロッキング・オン   19970215 初版   ¥600

吉本本を3冊、隆明→ばなな→隆明/ばなな対談と続けば3題噺のようなものだ。

世代的なことかもしれないが、吉本隆明は気にかかる。
気にかかってはいても、難しい評論はなかなか手強いから、おのず柔らかめな方に手がでることになる。

「読書の方法」から一文を。

本は言葉で織りあげられていて、すぐに本の表情を知ることはできないかもしれない。そんな時には、
すこし本と遊んでいると、昼間の星のようにかすかでも、珠玉のような表情が浮かんでくるものだ。
それは愉しい体験ですよ。

本読みにしか言えない言葉。

また、ばななとの対談では、ばななの作品のことをこのように言っている。

だけど君の小説の読まれ方とか、何故たくさんの人によまれてるかっていうと、要するに君の作品の中には
優しさとか癒しの感情ってのが流れてる。その癒しの感情っていうのは宗教的とはちょっと違うんだけど、
それ読んでるとなんとなくいろんな現世の苦労みたいな、生活の苦労とか日常あるやなこととかを忘れられる
みたいなね、そういう一種の、優しさって言っていいのか、癒しと言っていいのかわかんないけど、そういうのが
あるんだよね。

あのねえ、おれの感想はねえ、君の作品のひとつの特徴は、人間を書いているわけじゃなくてね、
ひとつの ” 場 ” を書いてるんだと思うのね。

娘のこととはいえ、慧眼としかいいようがない。

□ 茶碗解説 第2巻 朝鮮1   平凡社    19650930 初版   ¥4,800

均一棚で拾った端本だが、資料的な価値は高いと思う。

やきものの解説書はたくさんあるけれど、高麗茶碗の「喜左衛門」や「筒井筒」といった大名物の断面図や
細かい寸法が載っている本に出会えることはそれほど多くない、というか初めてだからだ。

茶陶をやる人にとって、ひとつのシンボルともいえる井戸茶碗の名品の具体的な寸法がわかることは、
手というものにたいするスケール感の大きな手がかりになるものに違いない。

高麗茶碗 : 井戸・井戸脇・そば・雨漏・粉引・堅手・玉子手・ととや・三島・刷毛目・呉器・御本・柿の蔕など。

あと、硬軟とりまぜて、いろいろと。

□ エッフェル塔   ロラン・バルト   審美社   19790521初版  ¥900

□ 燈台へ    ヴァージニア・ウルフ    みすず書房   19760310初版  ¥900

□ 貧困旅行記   つげ義春   晶文社   19911115 6刷  ¥600

□ 間宮兄弟   江國香織   小学館   20041020 初版第1刷  ¥300

□ 僕らに魔法をかけにやってきた自動車   山川健一   講談社   20010920 第1刷  ¥300

□ 空からやってきた魚   アーサー・ビーナード   草思社2   0030730 第1刷  ¥600

□ 町の誘惑   安西水丸/稲越功一   宝島社   19940901 初版  ¥700

□ ロマネコンティ・一九三五年   開高健   文藝春秋   19780330 第4刷  ¥1,000

□ オランダのデザイン   木戸昌史監修   バイインターナショナル   20100422 初版第1刷  ¥2,250

□ 寺山修司の仮面画報   寺山修司   平凡社   19930219 再版第5刷  ¥1,200

□ あゝ、荒野   寺山修司   現代評論社   19751110 新装版  ¥840

□ シラノの晩餐   花田清輝   未来社   19630615 第1刷  ¥900

□ 仮往生試文   古井由吉   河出書房新社   19891229 第3刷  ¥1,600

□ おじさんは白馬に乗って   高橋源一郎   講談社   20081121 第1刷  ¥750

□ 春、バーニーズで   吉田修一   文藝春秋   20041123 第1刷  ¥400

□ プロジェクト・ブック   阿部仁史ほか   彰国社   20060630 第1版第4刷  ¥1,200

□ 続原点民藝   池田三四郎   用美社   19901118 第1刷  ¥5,000

□ ジャズ・カントリー   ナット・ヘントフ   晶文社   19680415 5刷  ¥400

□ ストリートワイズ   坪内祐三   晶文社   19970910 2刷  ¥600

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10月に、また新しい本屋プロジェクトが発進します。

現在企画進行中。
詳細が決まったら、またウェブサイトや Twitter でアナウンスします。

ちょっと今までにない、エキサイティングな展開なので、ご期待ください。

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Twitter 発信中

なかなか追加できない「これが HIP ! だ」のブックリスト。

http://kotobanoie.com/