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2011.04.05

aftermath

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「人間は自分がつくった道具の道具になってしまった」

これは『森の生活』のH.D.ソローの言葉だが、今福島県の原子力発電所で起こっていることは、
まさにこの言葉そのままのことだ。

ウラニウムを燃料にした「神の火」が、人の欲望から産み出されたのは間違いない。
「もっと光を」という見えない声に導かれるように、おそらく私たちは一線を踏み越えてしまったのだ。

そして、その「プロメテウスの苦難」を前にした私たちは、眼に見えない何者かに追われるように、
ありとあらゆるメディアで、ありとあらゆる言葉を吐き続けているが、目の当たりにする現実は、
はるかにその言葉を越えている。

いいことも悪いことも含んだ雨が降っている。水によって脅かされ、同時に
水によって救われる。暴走する原発をなだめるのに先端の技術は無力だった。
だから江戸伝統の勇気ある火消しらが決死の出動をしてくれた。彼らが放水を
続け、それが功を奏している。そんな水を穢せば自らを苦しめる。
その因果を今、世界が体験しているのだ。その一点だけでも、原発に未来は
無いと人類は認識できたのだ。コストを気にする人は、今後災害をコストに
含めることが必須条件になる。世界がこのままでいいと思うなら、地球にヒトが
住む場所はなくなる。日本人は戦争に負けて何かを知った。今回も敗北を経験し、
さらに深い大事なことを知った。日本人はこの経験を忘れることはない。
( by harry 2011/03/21)

あの日からずっと、悔やみとも恨みともつかない苦い想いが澱のように心の底に漂っていて、
ひたすら途方に暮れるばかりだったが、たまたまネットの海で見つけた、この細野晴臣さんの
一文が、すうっと言葉が、心のなかに沁みこんだ。

まるで余震のように揺れ残る憂鬱。

冒頭のソローの言葉は、こんな風に続いている。

「腹が減ると勝手に木の実をもいで食べていたものがいまや農夫となり、木の下で雨宿りしていた者が
家主となった。いまでは一夜を野外で過ごす者もなく、みな土の上に住みつき、天を忘れてしまった」

天の意志は、那辺にあるのか。

そして、この敗北感が癒される日が、ほんとうに来ることがあるんだろうか。

we shall over come.

*

そんな aftermath の本買記。

未曾有の災厄があったからといって、本買いを自粛するわけではない。

ただ、本のセレクションは、その日そのときの心の動きがそのまま映しだされるものだから、
3月11日以来の憂鬱が、ブックリストに影を落としていないとは、けっして言いきれない。

本にできること、をずっと考えている。

□ 叢書 創造の小径  全18巻    新潮社

きっかけは、ロラン・バルトの『表徴の帝国』という日本論。
以前から持っていたみすず書房の『記号の国 1970(表徴の帝国改題)』が売れてしまったので、
いろいろと探しているうちに、この新潮社の叢書に、めぐり合った。

70年代に刊行された、たぶん有名なシリーズではないかと思うが、そのラインアップには痺れた。

■ イカロスの墜落   パブロ・ピカソ    岡本 太郎
■ 表徴の帝国   ロラン・バルト    宗 左近
■ 絵画のなかの言葉   ミシェル・ビュトール     清水 徹
■ 悪魔祓い   J・M・G・ル・クレジオ    高山 鉄男
■ 道化のような芸術家の肖像   ジャン・スタロバンスキー   大岡信
■ 素晴しき時の震え   ガエタン・ピコン、   粟津 則雄
■ ボナ わが愛と絵画   アンドレ・ピュエール・ド・マンディアルク   生田 耕作
■ 冒頭の一句 または小説の誕生   ルイ・アラゴン    渡辺 広士
■ 盲いたるオリオン   クロード・シモン   平岡 篤頼
■ 石が書く    ロジェ・カイヨワ   岡谷 公二
■ 発見   ウージェーヌ・イヨネスコ    大久保 輝臣
■ 想像力の散歩   ジャック・プレヴェール、   粟津 則雄
■ 自在の輪   ピエール・アレシンスキー    出口 裕弘
■ マヤの三つの太陽   M・A・アストゥリアス   岸本 静江
■ ことばの森の狩人   エルザ・トエルザ・トリオレ   田村 俶
■ 世界の記憶   アンドレ・マッソン   東野 芳明
■ 大いなる文法学者の猿   オクタビオ・パス    清水 憲男
■ 仮面の道   クロード・レヴィ=ストロース   山口 昌男

ロラン・バルト = 宗 左近はもちろん、マンディアルグ = 生田耕作、マッソン = 東野 芳明、
レヴィ・ストロース = 山口 昌男(amazonでは50,000円という値がついている)、そして、
このシーリーズの白眉ともいえる、ピカソ = 岡本太郎など、著者も訳者もそうそうたる面々、
まさに、20世紀のインテリジェンスの塊といった風格のある叢書だ。

価格も5,000円という30年前にはおそらく破格だった本を果敢に出版した新潮社という出版社の、
その当時の社風、そして40歳で夭折した編集子の慧眼と、出版に対する使命感のようなものを、
今そういうものが薄れている時代だけに、強く感じる。

いい本は、やはり熱い想いからしか生まれてこない。

今のところ太字の5巻、あと13巻を、ぜひ揃えてみたいと思っている。

□ 波のうねうね   内田百閒   新潮社   19640831/初版

夜はクネクネ」なら聞いたことはあるが、「波のうねうね」とは何とも百閒先生らしい人を喰った
タイトルだと、迷わず本棚から引き抜いたが、調べてみるとそのフレーズが、小野小町の短歌が
出自だと知って、もう一度感心することになった。

世阿弥の作と言われる『草子洗小町』という能の演目で謡われる三十一文字が、この本の見返しに、
手描きの文字で書かれている。

「蒔かなくに 何を種とて浮き草の 波のうねうね生ひ茂るらん」

― 種を蒔いたわけでもないのに、どうして浮き草は波の畝々に生え茂るのだろうか

浮き草は、望んだわけでもないのに人の心に次々に湧きおこる煩悩のことらしいが、してみると、
「波のうねうね」とは、日々繰り返す徒然のことで、随筆集のタイトルとしてはピンポイント。

内田百閒はそういう作家なのだ。

小説であれ、エッセイであれ、律儀な文体の中に絶妙な塩梅でブレンドされるこの人独特の、
ダークなユーモアの味にとらわれてしまうと、かんたんには抜け出せない。

このまえこの人の本を読んだのは「サラサーテの盤」という鳥肌が立つような怖さのある短編集で、
そのスティーブン・キングを彷彿させるような不気味な後味にもかなり惹かれるが、やや浮世離れ
した日々のあれこれを描いたエッセイの、そののんびり加減は、音楽でいうと、アコースティックな
ブルースのような雰囲気で、誰もこんな風にこの明治生まれの文豪を表現しないだろうけど、
” laid-back ” という言葉が、この人の文章にふさわしいんじゃないかと思ったりするのだ。

■ サラサーテの盤    内田百閒    六興出版   19810625/初版
■ 贋作吾輩は猫である    内田百閒    六興出版   19830430/5刷

■ 日没閉門    内田百閒    新潮社   19710630/2刷

■ 麗らかや    内田百閒    三笠書房   19680131/第1版

■ ノラや    内田百閒    中公文庫   19970118改版

■ 第一阿房列車    内田百閒    新潮文庫   20071015/6刷

■ 百鬼園随筆    内田百閒    新潮文庫   20040120/9刷

■ 間抜けの実在に関する文献    内田百閒    ちくま文庫   20030310/第1刷

久しぶりにコルビュジエものを、4冊

□ ル・コルビュジエ    ジャン=ルイ・コーエン    TASCHEN   2006
□ CORBU COMME LE CORBUSIER    Michel Raby    La Joie De Lire   1994
□ ル・コルビュジエの手    アンドレ・ヴォジャンスキー    中央公論美術出版   20061125/初版
□ 黄金分割  ピラミッドからル・コルビュジェまで     柳亮美術出版社   19911230/23版

なかでもちょっと面白いのは、三月書房で買った「ル・コルビュジエの手」という本。
ふとしたことでル・コルビュジエのアトリエで働き始め、一番弟子となった若き建築学生が、
30年にわたって観察した師匠の日常へのオマージュが、その師の「手」を中心に綴られている。

それは、こんな文章から始まっている。

< 巨匠の手 >
同じ日に、ル・コルビュジエが「やあ」と呼びかけて手を差しだしたとき、おずおずとしたこの若い学生は、
自分の手をル・コルビュジエの手のなかへとすべらせた。
手に記憶する力があるのだろうか?
今、この文章を書きすすめつつ、かつての若い学生は、あのとき強く握りしめてくれたル・コルビュジエの
手のぬくもりが、今もなお、自分の手のなかにしっかりと残っているのを感じるのだ。

スケッチはこのあと、足音 ― 性格 ― 両の手 ― さわること ― つかむこと、と続いていく。

『CORBU COMME LE CORBUSIER』は、フランスの絵本。
フランス語なので何を書いてあるのか詳しくはわからないが、コルブ先生がどんな風にして
偉大な建築家になったのかを、とてもわかりやすく、言葉でわかる必要がないくらいに、
パステルで描かれている。

こんな絵本、日本の本で見たことがないぞ。

相変わらず小説は少ない、しかも変なのばっか。

□ 無職無宿虫の息    色川武大    講談社   19800725/第1刷
□ 偶然の音楽    ポール・オースター    新潮社   19981205/初版
□ ねむれ巴里    金子光晴    中央公論社   19731030/初版
□ おはん    宇野千代    中央公論社   19560801/4版
□ 檸檬 名著復刻全集    梶井基次郎    ほるぷ出版  19800501/11刷

□ 旅人の樹    トリスタン・ツァラ    書肆山田   19841025/初版1刷
□ 芭蕉七部集 新日本古典文学大系70    岩波書店    19900320/第1刷

ツァラの本は詩集、書肆山田の『シリーズ:トリスタン・ツァラの作品』のなかの一冊。
この出版社の活版印刷による詩集は、どれもセンスが良くて、どれもほしくなってしまうけれど、
ダダの主役、ツァラの詩集となると、外せない。

芭蕉七部集は、冬の日/春の日/曠野(あらの)/ひさご/猿蓑/続猿蓑/炭俵。
奥の細道(まさに今の地震エリア)はいつでも手に入りそうな気がするが、他の句集は、
タイミングが合わないと、なかなか手にすることができないような気がして、均一棚から。

写真や絵画やデザインの本。

□ 写真家 マン・レイ    マン・レイ    みすず書房    19830128/初版
□ アメリカンルーレット    藤原新也    情報センター出版局   19901114/第1刷
□ 画狂 北斎    安田剛蔵    有光書房   19710510/初版
□ STONE DESIGN    julio fajardodaab    2007
□ パウル・クレー おわらないアトリエ    日本経済新聞社    2011
□ STARCK    TASCHEN    1987
□ Inside-Out    太田徹也    Gallery561   020030711
□ サヨナラ、民芸。こんにちは、民藝。    里文出版    20110202/初版
□ ユートピアン・クラフツマン    ライオネル・ラバーン    晶文社   19851220/初版

みすず書房のマン・レイは、ポンピドゥ・センターでのマン・レイ展で刊行された写真集の日本語版。
猥褻物として税関で検閲を受け黒塗りされるという物議のあった本で、「読者各位」という、
その検閲問題の経緯を記した別冊資料が付属されていたり、ジャン=ユベール・マルタンによる、
「一人のアメリカ人がパリに来て影のために絵画をやめる」というシブイタイトルの論考が、
併載されていたり、という興味深い一冊。
シックなブルーの函に入ったシンプルな装丁も秀逸。

パウル・クレーは、現在京都の国立近代美術館で開催されているクレー展の図録。

太田徹也『Inside-Out』も、ブックデザイン個展の図録だ。

エッセイの類。

□ 2角形の詩論    北園克衛    リブロポート   19870810/初版
□ 孤独の愉しみ方    H.D.ソロー    イースト・プレス   20101005/第1刷
□ 雑文集 ネクタイの幅    永井龍男    講談社   19790320/第6刷
□ 本が語ってくれること    吉田健一    新潮社   19750110/初版
□ 旅行のしかた 内側からタマゴを割る    室謙二    晶文社   19750425/初版 
□ どうでも良くないどうでもいいこと    フラン・レボウィッツ    晶文社   19870830/2刷
□ 不東庵日常    細川護煕    小学館   20040610/初版第1刷
□ 日々の100    松浦弥太郎    青山出版社   20090329/初版第1刷
□ いろいろ月記    中林うい    PHP研究所   20041105/第1版1刷
□ 芭蕉の誘惑    嵐山光三郎    JTB    20001201/第3刷
□ 眼の沈黙    中村真一郎    朝日出版社    19860425/初版第2刷
□ 夢の引用    武満徹    岩波書店   19840329/第1刷
□ 橄欖(オリーブ)の小枝    辻邦生    中央公論社   19801130/初版
□ 感想    小林秀雄    新潮社   19790411/初版
□ 私は映画だ    フェデリコ・フェリー二    フィルムアート社   19851210/第9刷
□ 言葉という場所    大岡信    思潮社   19830125/初版
□ 葉隠 HAGAKURE    次呂久英樹/高野耕一    ピエブックス   20091010/初版第1刷
□ 坂口安吾と中上健次    柄谷行人    太田出版   19960206/第1刷
□ ANTI CAPITALISM AND CULTURE    Jeremy Gilbert    BERG   2008

ルソーの名言集『孤独の愉しみ方」は、原典を知るために、amazonでピンポイントで入手した本だが、
中身も濃くて大満足。こういう風に興味が広がっていくのは、とても面白い。

室謙二『旅行の仕方』は、京都の善行堂から。

北園克衛『2角形の詩論』は、逸品。

「北園克衛は『黒い火』をはじめ『真昼のレモン』『煙の直線』など23冊に及ぶ詩集で、
数々の抽象とノン・フィギュラティフのパタンを作り上げることに成功した詩人である。
その構想を定着させるために、彼は言語に形状と色彩と量感を与える実験をくり返した。
詩論集『天の手袋』『ハイブラウの噴水』『黄いろい楕円』それに『vou』誌などから
代表的エッセイを集録し、さらに唯一の鼎談記を加えた本格的な散文集である。」

と「BOOK」のデータベースにはあるが、なんといってもグラフィック・デザイナー戸田ツトムと、
ポエム・デザイナーともいえる北園克衛によるセッションワークによる造本が素晴らしい。

『ANTI CAPITALISM AND CULTURE』は、ゲバラのポートレイトがある表紙のジャケ買い。

吉田健一は、あれば必ず買う。

あと、雑本を細々と。

□ ダライ・ラマの仏教入門    ダライラマ14世    光文社   19950615/3刷
□ 日本の私塾    奈良本辰也    淡交社   19690812/初版
□ 日本の香り    コロナブックス    平凡社   20050924/初版第1刷
□ 実存主義とは何か    J.P.サルトル    人文書院   19870525/改訂重版
□ Wallpaper*  City Guide STOCKHOLM    PHAIDON
□ 自分の学校をつくろう    ジョナサン・コゾル    晶文社   19870420/初版
□ 完訳 悪魔の辞典    A・ビアス    創土社   19740815/8版
□ 本屋さんの仕事 太陽レクチャー・ブック005    平凡社    20051110/初版1刷
□ フォトグラファーの仕事 太陽レクチャー・ブック002    平凡社   20040710/初版1刷

本を買うのは、やっぱり愉しいな。

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