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2007.11.18

a better day for book hunting

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どういう加減かはよくわからないけれど、なんだかとてもいいバランスで本が買えることがある。

そもそも本を買うという行為は、そのコンテンツがわからないままに行うというちょっと冒険的な消費
行動で、買ったもののほんとうの価値が、「読む」というかなりやっかいなアクションを重ねてからでし
かわからないものだから、その場のカンや感性といったものに左右される要素が大きいし、だからこ
そ、それがうまくいったときのウレシサは格別だ。

もちろんモノとしての本という側面もあって、CDやレコードと同じように「ジャケ買い」という感覚的な
スタイルも存在するし、それが本棚にあるだけで満足っていう本もたくさんあるけれど、そういうことも
含めてその日に買った何冊かの本が、しっくりと気持ちのなかに収まることは、毎週のように書店に
通っていてもそれほどしょっちゅうあることじゃない。

そんな風にすこしウキウキした感じで持ち帰った本を眺めていると、たぶんどの本も同じくらいに面
白そうに思えることが、そのいい感じの理由だということに思いあたった。 

無理矢理買ってしまったり、惰性で選んだりした本がそのリストに混じっていると、なんとなく濁った
雰囲気になってしまうんだ、きっと。

そんな better day の8冊の本たち。


カポ
ーティとの対話    ローレンス・グローベル/川本三郎訳  文藝春秋  19880401初版

Capote(カポーティ)という名前だけで、すでに文学的。

古くはオードリー・ヘップバーンの「ティファニーで朝食を(1958)」、最近ではフィリップ・シーモア・ホ
フマンが主演男優賞でオスカーを受けた「Capote」なんかで、けっこう名前は知られているけれど
じつはティファニー以外の著書を読んだ人はそれほど多くないんじゃないかと思う。
17才で得た雑誌「The New Yorker」の仕事はただのコピーボーイだったそうだけれど、11才で小説
を書き始め、19才で「ミリアム」を発表し、そのデビュー作でオー・ヘンリー賞を受賞したということだ
から、充分早熟の名に値する。

そしてなんといっても「冷血(In Cold Blood)」。

ノンフィクション・ノベルというまったく新しい文学のジャンルを創りだしたこの作品は世界中でセンセ
ーションを起こし、たとえば沢木耕太郎なんていう人もこの作品がなければ、ひょっとしたら作家に
なっていなかったんじゃないかと思うくらいだ。

ただこのベストセラーのインパクトが作者自身をも縛りつけてしまったようで、晩年になってコカインや
アルコールに耽溺したのは、それ以上の作品を書かねばならないというプレッシャーが大きすぎたん
じゃないかと想像する。

「無垢」とか「孤児」といった fragile なものへの憧れを、ホモセクシュアルらしい細やかなセンスで
描き続けた人だけれど、その遺作(未完)が「叶えられた祈り(Answered Prayers)」という、なんとも
はかなげなタイトルでありながら、実はニューヨーク・セレブリティの大暴露「ノンフィクション・ノベル」、
しかもそれがスキャンダラスなのに下品じゃないっていうところがカポーティのカポーティたる所以。


なぜデザインなのか    原研哉/阿部雅世  平凡社  20071001初版

今デザインを志す若い人が、弟子入りしたいと思うデザイナーランキングがあれば、間違いなくその
ベストファイブに入っていそうな、今をときめく「インターナショナル」な二人のロング対談集である。

「コト」のデザインとか「記憶」デザインとか、プロのクリエイターにとってはごく当たり前の認識を、
さもそれらしく自分のメッセージにできるセンスは、業界のトリックスターならではのものでしょう。

あるいはそれだけこの国に mature な消費者や professional な制作者が少ないということか。

偏見かもしれないけれど、それに比べるとヨーロッパで18年生きている女性は、なんとなく地に足が
ついている感じがします。

それにしても、よく書けたりうまく話せたりするクリエイターって、なんとなくウサンクサイ。


ロビンソン夫人と現代美術    東野芳明  美術出版社  19861010初版

このタイトル「ロビンソン夫人」っていうのはなんとなく浮かんできたフレーズで、別になんの意味も
ないものだから、好きなように考えてくださいっていうのが作者あとがきの言。

なんにせよこの人の本はとにかく高い!(この本も定価はなんと4,800円)

現代美術の評論なんて難解すぎてあまりよくわからないことが多いんだけれど、70年代のパフォー
ミング・アートのDIVA、ローリー・アンダーソンのポートレイトが表紙になっていたので思わず買って
しまった。

ちゃんと読めるかどうかちょっと心配だけれど、本棚では光ります。


球場へいこう    ロジャー・エンジェル/棚橋志行訳  東京書籍  19941003初版

東京書籍のアメリカ・コラムニスト全集の一冊。

「NEW HORIZON」で有名な教科書屋さんだけれど、このシリーズは、ソフトカバーのカジュアルな造本
もカッコいいし、コラムニストのセレクションも素晴らしい。

比較的安価で売買されているようなので、できれば揃えてみたいとひそかに思っています。


タクシー狂躁曲    梁石日  ちくま文庫  199905208刷

映画「月はどっちに出ている」の原作。

伊丹一三のエッセイなんかにもでてくるけれど、世間という世界の最前線にいるタクシードライバー
の話が面白くないわけがない。 ましてそれが猪飼野生まれのHIPな在日コリアンの手にかかる
ものならなおさらだろう。

名作と名の高い「血と骨」のハードカバーも持っているけれど、未だ読んでいない。

「梁石日がぼくに突き付けたものは、ぼくが入らなかったそうした洞窟の数々である。」という松岡
正剛さんの独白がこの人の文学をうまく表現してるんじゃないだろうか。


お能    白州正子  角川新書  19630830初版

白洲正子のデビュー作、単行本は1943年(戦争の真っ最中だ)に出版され、その後(1974)駸々堂
出版 から再出版されている作品だけれど、この新書オリジナルはかなり珍しいでしょう。

白洲正子は植草甚一と好一対。
その上品でストレートな物言いや、美しいものに対するこの人の切り口は、日本では数少ない「上流
階級」というものの存在を感じさせる。

「かくれ里」は、若かりし白州さん渾身の名著。

そのうちサイトの「SPOT LIGHT」で特集したいと思っています。


ビートルズ    きたやまおさむ  講談社現代新書  1992062611刷

ビートルズではなく北山修は、70年代のカルトヒーローの一人でしょう。

あっさりとフォーク・クルセダーズを解散して、精神科医におさまってしまった人だけれど、彼が作詞
した「戦争を知らない子供たち」「あの素晴しい愛をもう一度」「風」「白い色は恋人の色」といった、
sweet-honey なフォークソングを、必ず歌えるという世代が、間違いなく存在する。

それにしても、「はしだのりひこ」という人は、ひょっとしたら異形の才人ではなかったんでしょうか。

あとビートルズって、今では神様みたいな扱いだけど、リアルタイムではそんなに人気のある(誰も
が聴いているなんていう)グループじゃなかったような気がするんだけど、錯覚だろうか。


COYOTE  NO.17 May 2007    スイッチ・パブリシング  20070410

今どきの自然志向サブカルチャー雑誌

一見「チョイ悪オヤジ」と正反対のところにいるような体裁だけれど、じつは根っこのところは同じ
コインの裏表のようなものなんじゃないかと思う。
幻想を抱かせるのももちろん雑誌の効能のひとつだけれど、団塊世代へのマーケティングがあまり
あからさまに見えてしまうと、興ざめしてしまいそうだ。
連載の「片岡義男の本棚」というコラムに惹かれて買ったんだけど。

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もうバレちゃったかも知れませんが、本買記ってじつは未読記でもあるんです。

読んでいなけりゃなんでも言える。


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