明けましておめでとうございます。
2011年は、ほんとうにたくさんの人たちとお会いし、人と人のつながりの不思議さを、いつもよりも強く感じさせられた年でした。
そのひとりひとりの人たちに、感謝の気持ちをこめて、新年のご挨拶を。
“TheGreening of America(邦題:緑色革命)” という1970年に発刊された一冊の本があって、若いころのぼくは、その本、というかその本に描かれていたアメリカ西海岸のカウンターカルチャーなるものに、ずいぶん惹かれていました。
60年代に起こった新しい意識の動き。
それは、それまでの社会と人間との関係に疑問をいだき、自分自身、他人、社会、自然、国土などにたいする新しい関係を創造しようというものでした。
社会のメインフレーム依存しない自立した生きかた。
“greening”というのは、そのころ芽生えたそういう新しい価値観をもった世代のことであり、そういう変革の現象にたいして著者である、チャールズ・ライクが名づけた言葉です。
結果的には、この若者のムーブメントは、大人たちの体制や商業主義を突き崩すことはできなかったわけですが、たとえば今もてはやされているエコロジーやオーガニックや、サスティナビリティなんていう環境にまつわるさまざまなこと、そして人種やジェンダーや、性的嗜好による偏見のない自由な選挙や、いわゆる無党派といった現代社会の良質な概念のほとんどのものが、この時代の若者たちの思想の上澄みにしかすぎないように、ぼくには映っています。
そして昨今しきりに議論されるコミュニティのデザイン、ひょっとしたらこのインターネットだって、このムーブメントがなければ何年も遅れていたのかもしれないとさえ思います。
去年亡くなったスティーブ・ジョブズは、ぼくと年が同じで、しかもこの「騒乱」の中心地だったサンフランシスコのベイエリアの人ですから、たぶんもっと強烈に、この意識の影響を受けていた人だったはずで、彼の指向した「パーソナル・コンピュータ」の概念そのものが、「新しい意識をもった新しいコミュニティ」への道しるべであろうとした” Whole Earth Catalog ” の、「access to tools」というコンセプトの今日的表現だと考えれば、彼がその本から引用した ” stay hungry, stay foolish “という言葉の意味が、より鮮明に見えてきます。
「三つ子の魂百まで」ではないですが、昨年の東北大震災や原発の事故を契機として、成長や拡大じゃない共生(share + re-size)ということを模索する中で、もういちどこの自分にとっての原点に還ることも悪くないんじゃないか、というのが、”greening”という言葉にこめたメッセージです。
ぼくにとっての greening は、種を蒔くことです。
本にできること、本にはできないことを考えたとき、意識の種を読んだ人の心に蒔くということが本の役割であり、その本の編集を生業とするものの仕事ではないのかと思います。
その種が、あなたの土壌に合えば、それはやがて芽をだします。
芽がでたら、しっかりと水をやってください。
毎日うまく水をやることができれば、やがて花が咲きます。
きれいな花が咲けば、あなた自身がきれいだと発信しなくても、それを見た人が、あそこに
きれいな花が咲いていたよと、つぶやいたり、写真を撮って帰ったり。
そんなことを、初夢で妄想しました。
For what it worth.
年始の挨拶なので、もう少しシンプルに書きたいと思っていたのですが、気がつくと、いつものように、だらだらとしたものになってしまいました。
まあ、正月ということで、お赦しください。
今年もよろしく。
BOOKS+コトバノイエ
店主敬白