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2011.06.27

fragment of june

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季節のせいか、あるいは体調のせいなのか、どうも思考がまとまらない。

浮かんでは消える、未だカタチにならないアイデアの原形や、ともすれば幻のようにしか思えない
不確かな未来への想い。

きみ、きみとは今まさにきみが通り過ぎているもののことだ ( how rock communicates 1968)

これは、17才で世界で最初のロック雑誌 “Crawdaddy” を創刊した、ヒッピーエイジのトップランナー
のひとりPaul Williamsの言葉だけれど、今通り過ぎているものが自分自身なら、その刹那の想いを、
まとまらないならまとまらないまま、いっそ断片として投げ出しておけば、いつかそのうち、それが
いいものになって戻ってくることがあるかもしれないと、希望的観測。

fragment ― 漂う断片。

たとえば「編集」するということ。

少し前に読んだ「海馬」という本の中で、脳のはたらきが「ものとものとを結びつけて新しい情報を
つくっていく」ことだということが書かれていて、それって編集のことじゃないかと考えだしたら、
編集のことが頭から離れない。

本棚( library )をつくることは、いうまでもなく編集作業である。

本屋の仕事は編集だということは日頃から意識しているし、本だけじゃなく、その対象がどんなもの
であれ、編集すること、つまり editor が自分の職能だという確信は持っているけれど、じゃあ素材(本)
のことをどれだけ知っていて、世の中の誰にもできないプログラムで、それを表現できているのかと
考えると、いささか心もとない。

もっとたくさんの本を知っていれば、もっと心に響くセレクションになるんじゃないか。
もっといろんなことを知っていれば、もっとシャープに切り取れたんじゃないか。

「ものとものとを結びつけて新しい情報(ランドの言う”relationship”)をつくっていく」ことの難しさ。

無から有を造りだすアーティストが、最後は自分自身と向き合わなければならないように、編集者は、
無限に思える「もの」や「こと」の世界に沈殿してしまいそうになる。

そんなとき、繰り返し読み直すのが、開高健が遺した「編集者マグナカルタ」というメッセージだ。

1. 読め。

2. 耳をたてろ。
3. 目を開いたまま眠れ。
4. 右足で一歩一歩歩きつつ、左足で跳べ。
5. トラブルを歓迎しろ。
6. 遊べ。
7. 飲め。
8. 抱け、抱かれろ。
9. 森羅万象に多情多恨たれ。

補遺一つ。女に泣かされろ。

箴言の名手によるこの「マグナカルタ」は、シンプルだけれど奥が深い。

そして、できればこれから造る本棚は、100年前からそこにあったようなさりげない佇まいをもち、
意識と無意識の境界線上でふらふらと漂っているようなものであればいいなあと思ったりするのだ。

あるいはまた、「フリーエージェント」について。

あるウエブサイトで見た「ICTの公私混同は21世紀型労働の予兆」という記事のこと。

つまり、twitterやfacebookなどのITのコミュニケーションツールで起こっている公私混同(会社のPC
で私的なメールの返信をしたり、twitterで個人的なコミュニケーションをしたりということ)というのは、
モラルとかコンプライアンスの問題ではなく、プライベートと仕事の境界線がどんどん曖昧になり、
企業とそこで働く人の関係が、変わりつつある予兆ではないのかという観察である。

「米国の労働人口の4人の1人は、すでに組織から離れて自分の電子的、人的なネットワークを
駆使してプロジェクト単位で仕事をする”フリーエージェント”となっている」

会社という組織に所属している”フリーエージェント”たちが、プライベートなネットワークを構築し、
新しいプロジェクトを立ち上げるなんてちょっとスリリングな展開で、なんとなくもうひとつ別の
コミュニケーションっていう感じがするんだけど。

知的コラボレーションの新しいカタチとして。

そして、「情報を発信しない」というちょっと静かな attitude について、とか。

消え去ってもいい断片なら、ひたすらつぶやくだけでいいのかもしれないけれど、なにかしら予感が
あるものは、こうやって輪郭だけでも残しておきたい。

漂えど沈まず ― FLUCTUAT NECMERGITUR

*

6月の本買記。

濡れた本は、けっして元には戻らない。

□ I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME   奈良美智   淡交社  20010825/初版

2001年に横浜美術館で開催された国内の美術館での初めての本格的な個展の図録。

もちろんとても魅力のある絵ではあるけれど、これが「現代美術」だといわれると、なんとなくちょっと
違うような気がしないでもない。

ひょっとしたら、もっといいもんじゃないのかな。

彼の描く子供や動物は、一目見たら忘れられない。
優しさと残酷さ、無垢と猥雑といった、誰もが持っているアンビバレントな感情や性格がその表情に
内包されていて、観るものひとりひとりがそれぞれの物語を紡ぎだせるような奥行きをもっている。

一見、ポップアートとひとくくりにしてしまえそうな表現だけれど、ただ観られるだけではなく、作品を
通して、観る人にコミュニケートしようというアーティストの強い意志を感じる。たぶんその辺りが、
彼が凡百の自称アーティストと一線を画すところではないだろうか。

純粋だけどしたたか、彼が描く少女のように。

□ いねむり先生   伊集院静   集英社  20110410/第1刷

伊集院静が、色川武大/阿佐田哲也と過ごした柔らかな日々。

その存在だけで、周りの皆が「愉楽の表情をしはじめる」という、作家にしてギャンブルの神様、
色川武大の人間としての大きさが、深い愛情のなかで、鮮やかにそして真摯に描かれている。

人を救うのは、やはり愛しかない。

無頼が書く無頼。

□ 遠い朝の本たち   須賀敦子   筑摩書房  19980425/第1刷

いつもながら、舟越桂の作品をつかったブックデザイン、そしてタイトルが秀逸。
まったく何も知らなくても、この本が平台に置かれていたら、迷わず手にとるだろう。

没後間もなく発刊された本だから、遺作といえる一冊かもしれない。

イタリア語の翻訳家でエッセイスト須賀さんの、記憶の中の本をめぐる物語。

昭和4年生まれの須賀さんが、小学生から大学生まで(太平洋戦争が始まる数年前から戦争後の
数年間)に巡りあった本と、その本にまつわる思い出が、滋味のある文章で綴られている。

アン・リンドバーグのこと、サン・テグジュペリのこと、そして漱石ではなく鴎外のこと。

「遠い朝」とは、なんとも淡い言葉である。

□ 気になる日本語 本音を申せば   小林信彦   文藝春秋  201105/第1刷

遠くに住んでいる伯父さんからの手紙のように、毎年この時期に届く、小林信彦のエッセイ集。

週刊文春の連載「本音を申せば」の1年分(2010/1/7 – 2010/12/23)が収録された一冊で、コアな
ファンならたぶんリアルタイムで読んでいるんだろうけれど、このタイミングで、信彦さんの視線から、
2010年の出来事や映画なんかを振り返るのも悪くない。

いつものように、新刊をamazonに注文して、一気に読み終える。

今年のそれは、「気になる日本語」というタイトルで、もう何年も前からブツブツとうわごとのように
呟いていらっしゃるおかしな日本語のことがフィーチャーされている。

なかでも「悩ましい」という言葉に関してはしつこいほどのこだわりで、もともとは「香水の香りが
悩ましい」といったエロチックな文脈のなかで使われていたはずの言葉が、いつの間にか、
「政府にとって悩ましい問題である」といったような、「苦悩」や「困難」という意味で使われることを、
「まだ認めることができない。辞書が流行語としての<悩ましい>を認めても、ぼくは認めない」と
きっぱりと切り捨てているのは、単なる老人のウダウダではなく、自らも認める東京下町の「頑固さ」
の発露であろうと思われ。

他にも、「がっつり」「ムカつく」「なにげに」、「こだわり」の使われ方などなど。

あらためて、ご健在を寿ぐ。

□ ファンタジア   ブルーノ・ムナーリ   みすず書房  20060518/第1刷

日本では絵本作家として有名なデザイナー、ブルーノ・ムナーリが、創造力の源である「ファンタジア」
という概念(ほとんど彼の造語に近い)をキーワードに展開するデザイン論。

「ファンタジアとは、ある人にとっては気まぐれなもの、不可思議なもの、変なものである。
またある人にとっては現実でないという意味で偽り、望み、霊感、妄想である」

・ファンタジア  :  これまでに存在しないものすべて。実現不可能でもいい。
・発明  :  これまでに存在しないものすべて。ただし、きわめて実用的で美的問題は含まない。
・創造力  :  これまでに存在しないものすべて。ただし、本質的且つ世界共通の方法で実現可能なもの。
・想像力  :  ファンタジア、発明、創造力は考えるもの。想像力は視るもの。

帯文で、深澤直人氏が、「偉大なデザイナーはたくさんいる。しかし、偉大なデザインの先生は、
ブルーノ・ムナーリだけかもしれない」と書いているように、この前のコラムで紹介したランドの本と
同じようなデザインの教科書だけれど、イタリア人だけに感覚的な表現が多くて、なかなか一筋縄
ではいかない。

クリエイションの “La Dolce Vita ” がわかるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。

あとはこんな感じ。

□ チェ・ゲバラ フォト・バイオグラフィ  イルダ・バリオ   原書房  20031210/初版
□ MADE IN JAPAN 素のものたち   内田鋼一   KTC中央出版  20110418/初版第1版
□ バー・ラジオのカクテルブック   尾崎浩司・榎木富士夫  柴田書店  19880115/8版
□ 村上春樹 雑文集 1979-2010   村上春樹   新潮社  20110130/初版
□ アクエリアス 時代の子   横尾忠則   東京音楽社  19790301/第1刷
□ 本日、東京ロマンチカ   中野翠   毎日新聞社  20071225/初版
□ なんとなくな日々   川上弘美   岩波書店  20010608/第2刷
□ 日々の本 1976-1993   村上知彦   双葉社  19930830/第1刷
□ 漂泊する眼差し   赤坂憲雄編   新曜社  19920131/初版第1刷
□ 芸術家Mのできるまで   森村泰昌   筑摩書房  19990525/初版第3刷
□ フライフィッシング讃歌   ハウエル・レインズ   晶文社  19960210/3刷
□ 吉本隆明の声と言葉。  編集構成糸井重里/吉本隆明  ほぼ日ブックス 20080720/第1刷
□ 吉里吉里人   井上ひさし   新潮社  19840315/44刷
□ 永遠の旅行者 上/下   橘玲   幻冬舎2  0050725/第1刷
□ 沼に迷いて   草間彌生   而立書房  19920125/第1刷
□ 注文の多い料理店   宮沢賢治/スズキコージ絵   ミキハウス  20010821/第4刷
□ やさしい野菜 やさしい器   祥見知生   ラトルズ  20060620/初版第1刷
□ 遥かなるブータン   NHK取材班   日本放送出版協会  19830901/第1刷
□ 映像 人間とイメージ   岡田晋   美術出版社  19690916/初版
□ デザインのたくらみ   坂井直樹   トランスワールドジャパン  20060111/初版第1刷
□ フランスの配色   城一夫   PIE INT’L  20110425/初版第1刷
□ 日本の意匠 12  風月山水   吉岡幸雄編   京都書院  19860203/初版
□ 青山デザイン会議 2 五感を超えて刺激するクリエイティブ   宣伝会議  20010501/初版
□ 青山デザイン会議 1 クリエイティブが生まれる瞬間   宣伝会議  20010501/初版
□ シルクロードと正倉院 日本の美術6   林良一   平凡社  19660620/初版
□ 日本の石佛 水尾比呂志他鹿島研究所出版会19701105
□ 伝統と<紙>の対話KYE SUNG GROUP トリ・パイントレーディング

再入荷あるいはダブり

何回も買う本はいい本に決まってる。

□ 魯山人の料理王国   北大路魯山人   文化出版局  19890217/第12刷
□ 家 1969→96   安藤忠雄   住まいの図書館出版局  19960722/第1刷
□ 暗黒世界のオデッセイ   筒井康隆   晶文社  19760920/6刷
□ 旅する哲学   アラン・ド・ボトン   集英社  20040410/第1刷
□ デザインのデザイン   原研哉   岩波書店  20050405/第16刷
□ やし酒飲み 新装版   エイモス・チュツオーラ   晶文社  19810630/2刷*。

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そして最近やっと追加したなかなか更新できない「建築と戯れる」のブックリスト。

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