twitter に感けて、ブログ疎かに。
もともとアフォリズムが好きな体質だから、短文の表現は、わりと肌に合う。
横尾忠則、Yoko Ono、川久保玲、原研哉、Dalai Lama、谷川俊太郎、田原総一郎、といった
人たちの、メッセージとも独り言ともつかないような ” つぶやき ” が、タイムラインの画面に
映されるのを眺めるのはとてもスリリングだし、矢部さんや木村さんや、今南アフリカでサッカー
の写真を撮りまくっている野本さんのような身近な人たちとの、緩やかなコミュニケーションも
なんとなく愉しい。しかもそれが iPhone でもブラウズできるんだから、なおさら。
そしてまた、この140という数字の絶妙な塩梅。
おそらくデータ容量の計算によって決められたはずのこの字数が、単純に制限とはならずに
ポジティブな意味をもつようになってきているのも興味深い。
定型の奥行き。
誰が考えたのかは知らないが、全体のシステムも実にうまくできていて、なかでも、フォロー
というシステム、そしてタイムラインのインターフェイスは秀逸。フォローされている人の画面に
しかそのつぶやきが表示されないというのが決定的なポイントなんじゃないかと思う。
世の中には頭のいい人がいるもんだと感心する。
さらにもっと自由になりたいというユーザーサイドから、RTやQTや # なんていう新しい手法が、
自然発生しているのも、いかにもweb的だ。
コミュニケーションというと、ちょっと大げさになってしまうけれど、場所や立場を越えたこの
軽やかな ” つながり ” の在りかたというのは、まったく新しいスタイルのように思えるし、
なんとなく抑制の利いた「大人の自由」といった空気感さえ感じさせる。
この安定感は、個々の投稿に必ず記名(リンク)が付帯されるというフォローのシステムへの
安心感がもたらすものじゃないかと思う。
やはり名乗った上で発言するというのは、コミュニケーションの基本なのだ。
そして「つぶやき」という訳語も、正訳とは決して言えないが、ウマイ。
コミュニケーションを最初から意図している訳ではない、という繊細なニュアンス。
それが投稿への敷居を低くし、そしてそれが結果的に他者へのつながりのきっかけとなる。
フォロワーという自分仕様のコミュニティの人たちに読んでほしいという意識的な投げかけと、
べつに誰にも読んでもらわなくてもいいんだというある種の自己満足との曖昧な交差。
ただのブームなのか、それともなにか決定的にコミュニケーションのありかたを変えるような
ツールとして定着するのか。
とりあえず、この「つぶやき」の海を漂いながら。
at 野田・水土書店
*
水土書店のスケジュールが重なり、2週間ほど本屋に行けず。
本買いのフラストレーションがたまると、おかしな爆発がおこる。
やっと時間がとれて、意趣返しのように、いつもなら交互に行っている何軒かの本屋をはしご
したら、一瞬にして財布が空になった。
欲望は、やはり小出しにしていかないとマズイ。
■ 草間彌生 ニューヨーク/東京 東京都現代美術館企画監修 淡交社 19990512 初版 ¥3,600
女性の年を暴露するのは不躾かもしれないが、オノ・ヨーコよりも4歳年上の81歳。
こんなスゴイばあさんたちがいることを、日本人は世界に誇ってもいい。
アートの根源が魂であることを、彼女たちが身をもって教えてくれている。
この本は、東京都現代美術館が企画・監修した回顧展、「草間彌生 ニューヨーク/東京 IN
FULL BLOOM : YAYOI KUSAMA, YEARS IN JAPAN」と、ロサンゼルス・カウンティ・ミュージ
アムで開催された「 LOVE FOREVER : YAYOI KUSAMA, 1958-1968 」の2冊組の図録。
この人が、京都市立美術工芸学校(市立芸大)の日本画科で学んだとはにわかに信じがたいが、
彼女の永遠のモチーフである水玉模様は、小さいときから実際に彼女が見ていたものだということ
だから、ある種の狂気とひきかえに「美」の悪魔と彼女の取引が、どこかであったんだろうと思う。
そしてそういう狂気を、個性としてポジティブに受け入れるニューヨークの風が、彼女にアーティスト
としての確信を与えたに違いない。
この図録の第一巻「IN FULL BLOOM」には、1948年の日本画時代から1999年までの代表作が、
「LOVE FOREVER」には、もっともハードコアに彼女が活動した60年代のニューヨークで制作された
作品が収められている。
アーティストもやはり新鮮さが命だと思うので、個人的には最近の作品にいちばん魅かれるけれど、
この図録を見ればこの稀有なアーティストの魂の在りどころがよくわかる。
ニューヨークの60年代の前衛シーンを30代で通り抜け今も現役、しかも女性。
そのことだけでレジェンドといわれても不思議ではない。
■ small planet 本城直季 リトルモア 20060418 初版第1刷 ¥1,800
2006年度木村伊兵衛賞受賞作。
最近は「Tiltshift Maker」なんていうアプリで、かんたんに加工できるようになってしまったけど、
はじめてこの人のミニチュア風写真を見たときは新鮮だった。
でも、あらためてこの写真集を眺めていると、「大判カメラのアオリ(ティルト)を利用して擬似的
に被写界深度の浅い写真を撮り、実際の風景や人物などをミニチュアのように見せる」という
テクニックの手前に、あたりまえの話だけれど、こういう写真を撮りたいという撮影者の強い意志と、
素材と構図を選び抜くセンスをあらためて感じさせられる。
手法は、表現したい世界観を得るためのツールでしかないのだ。
撮るということを通して、作られた世界に住んでいることを再認識しています。東京ってあまり
にも大きくて複雑なのではっきりとは見えないけど、僕たちはすでに誰かに作られた世の中
に住んでいて、何の疑問も持たずに、それを前提として当たり前のように暮らしている。たぶ
ん、自分が写真をやっていなかったら、そうした事に気づかなかったと思うんです。「写真」と
いう表現によって、初めて客観的に認識できる。
そのようにして、彼が認識した「作られた世界」を画像にしたものが、この写真集だとしたら、
それは見事に表現されている。
バーチャルのようなリアルの世界。
造りもののような、ホントの景色。
ただやはり、先駆者がいるのだとしたら、たとえそれが結果的なことだったとしても、エピゴーネン
という誹りがつきまとうことは仕方がないんだろうなと思う。
さて、この技法を深化させるのか、それとも・・・。
■ 月と胡桃 梓書房復刻版童謡集 北原白秋 ほるぷ出版 1974(1929/6) ¥1,200
少し長くなってしまうけれど、序文と詩を一篇、どちらもすごく美しい。
かの月光の中にありて、香ひは胡桃の花と青く、けはひはよく眠る穉児の寝帽にもまさりて白く、
息づかしくあれ。
その声はまた、新しい期待の明日への呼びかけともなるやうに。
麗質たぐひなき童こそ、まことに恵まれたる至上の幸であらうか。
わたくしは貧しい。齢四十を越えてもなほ、未だにわづかに保ちえて来た或る幼なごころを、ああ、
或はただひたすらに磨き育むのみに過ぎないであらうか。
然しながら、かうした時、わたくしはいよいよ素直に還る。このわたくしのうしろに、いつも、わたくしは、
永遠の母の目守りを感ずる。
つまりは、詩も歌も童謡も、わたくしにとつては同じく一つの気稟の現れであつて、そのほかの何もの
とも思はれない。
胡桃の花は青く、月の光よ円かであれ。昭和四年初夏 白秋
月と胡桃
月のひかりが窓に来て、
町のひびきをつたへます。僕は胡桃をコツコツと、
小さい木槌でたたきます。胡桃の花は青いんだ、
ね、さうですね、お母さん。僕知つてるよ、函館の
図書館の前にあつたでしよ。石川啄木つて、父さんが
お友だちだと云ひました。え、死んだつて、小母さんも、
家にお写真ありますか。あ、お母さん、煙突に
月の光が照つてます。
日本語の抒情。
■ サラサーテの盤 内田百間 六興出版 19820225 2刷 ¥1,100
不気味な短編集、「阿房列車」や「ノラや」の軽妙な随筆とはぜんぜん違ってた。
薄明かりの土間に立つ、死んだ友人の後妻おふさと姿の見えないその子供きみ子。
夫の遺品を返してほしいと、いつも同じ時刻にそっと訪ねてきて、最後にはサラサーテ自奏の
「チゴイネルヴイゼン」の十吋盤を返してくれと懇願するのだ。幽霊ならばいっそ納得もいくが、
生きた人間のその薄気味悪さには鳥肌が立つ。
映画「ツィゴイネルワイゼン 」の原作となったこの「サラサーテの盤」をはじめとする、
百間先生の幻影を描いた九つの短編。
サラサーテの盤
とほぼえ
枇杷の葉
雲の脚
ゆふべの雲
由比驛
すきま風
神楽坂の虎
亀鳴くや
實説艸平記
浮遊感あふれる幻想文学の世界、いっそ「怪談」と言ってもいいかもしれない。
それもただ怖いのではなく、絶妙な塩梅でブレンドされるこの人独特のダークなユーモアと
会話文によって、気味の悪さがどんどん増幅される。
内田百間のもうひとつのの持ち味が、こんなところにあるとは知らなかった。
夢と現のあわい。
*
他にもこんな本たちが。
■ はじまりの物語/デザインの視線 松田行正 紀伊國屋書店 20070425 第1刷 ¥1,800
■ 彼は海へむかう 片岡義男/佐藤秀明 東京書籍 19911105 初版 ¥2,200
■ ラブレーの子供たち 四方田犬彦 新潮社 20050825 初版 ¥1,300
■ モロッコ流謫 四方田犬彦 新潮社 20000305 初版 ¥1,300
■ 新しい造形芸術の基礎概念 T・F・ドゥースブルフ 中央公論美術出版 19960315 ¥4,000
■ 浅葉克己のトンパ伝心 浅葉克己 講談社 20020527 第1刷 ¥600
■ 僕の生活散歩 三谷龍二 新潮社 20100525 初版 ¥1,600
■ 白洲正子 私の骨董 白洲正子 求龍堂 19960415 第3版 ¥2,900
■ 都市/ローマ人はどのように都市をつくったか D・マコーレイ 岩波書店 19800414 第1刷 ¥900
■ JAPANESE DETAIL ARCHITECTURE Sadao Hibi Chronicle Books 1987 ¥1,800
■ 日本人/住まいの文化誌 ミサワホーム総合研究所 19830610 初版 ¥900
再入荷も何冊か。
■ きんぎょ 高岡一弥 ピエブックス 20030217 初版第1刷 ¥2,400
■ 映画だけしか頭になかった 植草甚一 晶文社 19730530 初版 ¥1,500
■ WARHOL Klaus Honnef TASCHEN 2000 ¥1,100
■ デザインの輪郭 深澤直人 TOTO出版 20061001 初版第6刷 ¥1,200
■ 庭仕事の愉しみ へルマン・ヘッセ 草思社 19971225 第23刷 ¥800
■ ビッグ・サーの南軍将軍 リチャード・ブローティガン 19791210 初版 ¥1,500
■ 夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった 谷川俊太郎 青土社 19921210 24版 ¥600
■ 風の又三郎 羽田書店復刻版 宮沢賢治 ほるぷ出版 1971(1939/12) ¥800
これらの本は、すべて水土書店で展示中です。
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