調べることがあって、古い本棚からある本を取り出したら、レシートが挟まっていた。
CODY’S BOOKS
$5.06
-2 Aug. 76
本にはいろんなものが挟まっている。
栞やレシートはもちろん、映画やコンサートチケットの半券、紙ナプキン、箸袋、手帳の切れ端
切手、絵葉書、そしてときにはラブレターなんていうのも。
でもこのレシートは、はっきりと憶えがある。
CODY’S BOOKS は、U.C.バークレーの正門から真っすぐのびる Telegraph Ave. にあった
感じのいい本屋で、バークレイを訪れる機会があるときには必ず行ったところだけれど、変色
したレシートの CODY’S という文字を見たら、デジャヴのように、カリフォルニアの抜けきった
青い空と、あの学生街のHIPな雰囲気が映像になって頭の中を駆け巡った。
たしかpeople’s park なんていう気持ちのいい公園も近くにあったはずだ。
今から34年前のある夏の日、21才のぼくはバークレーにいて、出版されたばかりで平積みに
されていたイッピーの本を、テレグラフ通りのそのラジカルな本屋で買ったのだ。
今とちっとも変わっていない。
どこにいっても映画館とレコード屋と、本屋。
□ TO AMERICA WITH LOVE Anita & Abbie Hoffman 1976 Stonehill
官憲に嵌められて地下に逃亡したヒッピーとその妻との往復書簡。
17ページまでびっしりと書き込みがあるから、だぶんそこまでがんばって読んだんだろう。
少し調べてみると、この本は「Steal this movie!」というタイトルで(彼の本に「Steal this book!
– この本を盗め」というのがあるのだ)2000年に映画化されていて、それが google video で
フルサイズ(107分)配信されていた。
水土書店の店番をしながら、MacBookで最後まで観てしまったが、アビー・ホフマンという人や
イッピーというムーブメントの一部始終は、この映画で描きつくされているようだ。
象徴的な曲がある。
シカゴセブンとして、ホフマンが一気に表舞台にでた、1968年のシカゴでの民主党全国大会の
騒動をうたった曲で、映画のエンドロールでも流れていた。
CHICAGO by Crosby, Stills, Nash and young
Though your brother’s bound and gagged and they’ve chained him to a chair
Won’t you please come to Chicago just to sing
In a land that’s known as freedom how can such a thing be fair
Won’t you plaese come to Chicago for the help we can bring
We can change the world – re-arrange the world
It’s dying – to get betterPoliticians sit yourself down, there’s nothing for you here
Won’t you please come to Chicago for a ride
Don’t ask Jack to help you cause he’ll turn the other ear
Won’t you please come to Chicago or else join the other side
We can change the world – re-arrange the world
It’s dying – if you believe in justice
It’s dying – and if you believe in freedom
It’s dying – let a man live it’s own life
It’s dying – rules and regulations, who needs themOpen up the door
映画のある場面で、彼は自分のことを hippie organizer あるいは long haired revolutionary
freak なんだと言っていて、まさにそれは言い得て妙な表現だけれど、この ” flower people ”
たちが希求したさまざまの「自由」や「制度」のほとんどは、今日では革命的でもなんでもなく、
ごく当たり前のものとして受け入れられている。逆にいえば、かれらのこの莫迦げた騒乱が
なければ、人種やジェンダーや性的嗜好による偏見のない自由な選挙や、ひょっとしたらこの
インターネットだって、何年も遅れていたのかもしれないとさえ思う。
Whole Earth Catalog は、彼らのライフスタイルなんだ。
このイッピー・ムーヴメントは、音楽やドラッグという、いわゆるカウンター・カルチャーだけでなく、
政治というちょっと痛いところに足を踏み入れてしまったために、「自由」を畏れ、戦争を正当化
するエスタブリッシュメントによって無惨に崩壊させられ、このホフマンを始めとする(彼は1989年
に自死している)多くの人たちが傷つくことになったのだ。
誤解を恐れずに言えば、けっきょくのところ彼(ら)は純粋な愛国者にすぎなくて、そのラジカル
な行動は、純粋に自分たちの国の未来を憂うが故の、実直なものだったんだろうと思う。
ホフマンが自分の息子を、「america (小文字の “a ” だと彼は強調しているのがおかしい、
たとえば同じ頃に発行されたディランの詩集 “tarantula ” なんかも全部小文字で書かれて
たりするから、その頃大文字(capital)を使わないスタイルが HIP だったものと思われる)」と
名づけたのは、きっとそういうことだ。
親の心子知らずで、america Hoffman は、その名を嫌い Allan と名のっていたらしいが、
この映画ができた2000年には america に戻したそうで、映画のエンドロールでは協力者
としてちゃんと AMERICA HOFFMAN とクレジットされている。
願えば、やはり通じるのだ。
ほんとうは、水土書店の本棚を眺めながら、本屋の仕事って「編集」そのものだと感じたこととか、
アーティストのように、本棚で表現できるようにになればいいなあなんて思ったことについて書こうと
考えていたんだけれど、なりゆきで見始めたアビー・ホフマンの映画につい引き込まれ、グズグズ
になってしまった。
やっぱり映像は力があるなあ。
水土書店にて、徒然なるままに。
*
店番の合間を縫って、本買いは続く。
いつも瑞々しい素材がないと、ショップは面白くないからね。
□ 森繁さんの長い影 小林信彦 文藝春秋 20100515 第1刷
毎年春になると、遠くに住んでいる伯父さんからの手紙のように、小林信彦の本が届く。
いつものように一気に読み終えた。
小林さんが週刊文春に連載しているクロニクル「本音を申せば」の単行本もこれで12冊目。
あいかわらずタイトルはいけてないが、この連載を続けてくれていて、それが年に一回本になる
だけで、充分。もっといえば、自分の母親とほぼ同じ年の人だから、自分の母親と同じように、
生きていてくれるだけでいい。
晩年をむかえて多少の衰えはあるのかもしれないが、福田沙紀や貫地谷しほりを目ざとく贔屓
にするところなんかは、元祖アイドルオタクの面目躍如、そして同年代の映画人イーストウッドに
対する眼はひたすら優しい。
たぶんとても涙もろくなっていらっしゃる。
残された時間をできるだけ小説に集中したいということだけど、実はこういうコラムこそがこの人
の本領なんだから、この連載だけは律儀に続けていてほしい。
□ デニス・ホッパー エレナ・ロドリゲス 白夜書房 19890520 初版第1刷
追悼の一冊。
貫禄の大不良が逝った。
ジャック・ニコルソンがでてくる「イージー・ライダー」のマリファナのシーンで本物を使ったのは
有名な話だし、ひょっとしたらコカインも本物だったかもしれない。役者になりたての頃に「理由
なき反抗」と「ジャイアンツ」で、ジェイムス・ディーンと共演していたというのも伝説のひとつだし、
「Abstract Reality」という写真集もシブかった。
それにしても、人の一生で、「イージー・ライダー」のような作品(監督・脚本・主演)を造ることが
できたら、それだけでもう充分だと思うのは、僕だけじゃないだろう。
カムバックした「ブルー・ベルベット」のフランク・ブースも強烈だった。
異才の死を惜しむ、HIPなオヤジだった。
Dennis Lee Hopper ( 1936/05/17 – 2010/05/29 )
合掌
□ ロカ 中島らも 実業之日本社 20050425 初版第1刷
急逝のため中断された絶筆。
アマゾンのレヴューでは、ガキたちが垂れ流しだ寝言だとほざいているけれど、ジジイになる
ことの恐怖や楽しみは50過ぎたヤツじゃないとわからない。
近未来私小説と銘打って、爺ロッカーを描く中島らもの気持ちがなんとなくわかる。
彼は死ぬまでロッカーでありたいと思っていたんだろうし、たぶんそうだった。
酔っ払って階段から落ちて死ぬのは ROCK だよ。
この物語の主人公小歩危ルカが、ククに会いに行こうと出かけたその瞬間でプツリと終わる
この未完のストーリーは、そのまま中島らもの消滅とシンクロするようだ。
中島らも ( 1952/04/03 – 2004/07/26 )
彼が亡くなってから、もう6年になる、彼もバロウズの信奉者だった。
□ ぼくたちの大好きなおじさん アンソロジー 晶文社 20080808 初版
追悼をもう一冊、といってもこれは生誕100周年記念の本、没後でいうと31年になる。
晶文社の本だから、とうぜんながらヴァラエティ・ブックの体裁。
ぼくたちの大好きなおじさん、というタイトルはあまりゾッとしないが、植草さんの少し甲高い、
そしてあの文体とまったく同じ口調の話し声が録音された付録のCDと、5段30Pにわたる
北山耕平によるロング・インタヴューは価値がある。
けっしてシーンの中心にいたわけではないし、サブであるからこそ輝いた人だけれど、70年代を
象徴する人を選べといわれたら、やはりこの人は外せない。
植草甚一 ( 1908/08/08 – 1979/12/02)
本質的にはJAZZではなく、シュルレアリストだったんじゃないかと思う。
*
■ 森鴎外と美術 「森鴎外と美術」展図録 2006
□ ル・コルビュジエと日本 高階秀爾 鹿島出版会 19990330 初版
■ Japanese Design Matthias Dietz TASCHEN 1994
□ 曼荼羅の世界 濱田隆 美術出版社 19780710 初版
■ 青の時代 安西水丸 青林堂 19870410 初版
□ コミマサ・ロードショー 田中小実昌 晶文社 19800725 初版
■ クレーの天使 谷川俊太郎 講談社 20020426 第6刷
□ 日本美術全史 1−6 美術出版社 1972
□ 1339勝の孤独 三好徹 集英社 19790225 初版
□ 回転木馬はとまらない 富岡多恵子 読売新聞社 19720930 第1刷
■ 暮らしと器 山口泰子 六曜社 20050409 初版
■ 宮沢賢治花の図誌 松田司郎 平凡社 19910529 初版第1刷
■ SUN-AD at work宣伝会議編宣伝会議20021001初版2,400
( ■ の本は、水土書店で展示中です。)
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