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2009.10.20

music that makes you free

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音楽にちょっと凝っている。

凝っているといっても、ただCDを聴いてるだけなんだけれど、「音聴き」も興が乗ると冒険心が
おきてくる。 音楽は本よりもはるかに直截的なものだから、一瞬で感じとれるところがいい。

同じCDを、あまりピンとこない曲もスキップしないで何度も繰り返して聴いていると、たとえば
その歌い手が緊張した面持ちでスタジオでマイクの前に立つ姿や、スタジオミュージシャンが、
あまり面白くなさそうにプレイしている気配や、プロデューサーが造ろうとしている音楽の輪郭
(スネアの音に時代やコンセプトが現れているように感じている)までがくっきりと見えてくる。

それは好きな曲を聴いているだけではわからなかった感覚で、こういう風にアンテナの感度が
あがってくると、どんどん未知の世界への興味が深まってきて、新しいものを手に入れるだけ
じゃなく、いままで買ったままであまり聴けていなかったCDにまで手が伸びる。

もちろん失敗はいっぱいあるけれど、とにかく一枚のアルバムで、これはという曲がひとつでも
あれば、それで文句はない。

これまでの経験や直感や、amazonやyoutubeにあるさまざまな情報を、自分なりにプログラム
して、知らないアルバムを探す愉しみは、本買いに勝るとも劣らないものだ。
もう何年も前に、レコードをそういう感じで買い漁っていたことを身体が思い出しはじめている。

音楽は目に見えないものけれど、「Kindle」が本の代わりにならないように、CDやレコードという、
ひとつひとつ丁寧にデザインされたオブジェ(器)がなければ、けっして記憶には残らない。
iTune store からのダウンロードでは、その音をイメージとして描くことができないのだ。

考えてみれば本もそうなんだけれど、そこに記録されていることはなにも変わらないのに、
月日のうつろいや、その時々の自分の心のありかたで、その印象が違って映るのが面白い。

変わる自分と変わらないもの。

変わらないものは変わりゆくものを映す鏡のようなものだから、
この石が、日々移ろう草や木や花を、そして変わっていく自分を見守ってくれるかもしれない。

こんな風に庭の石について書いたことを覚えているが、音楽も同じだ。

ここ2週間くらいで買ったアルバムはこんな感じ

□ GET LIFTED     John Legend      2004  
□ PAINT THE SKY    Enya     1997    
□ PARIS    Malcom Mclaren    1994   
□ CLOSING TIME    Tom Waits    1973    
□ I CARE BECAUSE YOU DO    Aphex Twin    1995   ( inspired by Mr.piropiro )
□ 76 : 14    global communication     1994   
□ TUTU    Miles Davis    1986 
□ PEARL    Janis Joplin    1971      

ストックから聴き直したのは、こんなCDたち。

□ PEACE BEYOND PASSION     Me’Shell Ndegeocello    1996    
□ TALES    Marcus Miller    1995  
□ A LUAKA BOP     Compilation by David Byrne   1991    
□ TALKING TIMBUKTU    Ali Farka Toure with Ry Cooder  1994  

そして、いちばん気持ち良くて、なんども聴きかえしたのはこれ、

□ CARTOLA    Cartola     1975/1976     Sim  ||  O Mundo e um Moinho

サンバの原形 — ブラジル的悦楽に浸る。

*

あとこれは音楽といえるかどうか微妙なとこだけど、音ということで最近もっとも刺激的だった
のが、Brian Eno が iPhone のためにプロデュースした「Bloom 」というアプリ。

iPhone のスクリーンをタッチすると、ディレイのかかった単音とともに、水滴のようなパステルの
水玉が現れては消えていく。音はやがてループして音楽になる。

Ambient.

楽器のようでもあり、音楽のようでもあり、アートでもある、アーティスティックなオルゴールと
いえるかもしれない。

Eno のつくる計算された繊細な音色は、同じようにコンピュータで生成された Aphex Twin の
ようなひとりよがりなものではなく、Ambient の本質をよくわかっているアーティストでなければ
造れない、心地良さや美しさをもっっている。 そして、それが IPhone というメディアにプログラム
されることによって、ただ作品として聴くだけではなく、ユーザーがポジティブに参加できる楽器
へと深化していることが、なにより素晴らしい。

時代の先鋭であり続けてきた Brian Eno らしい音楽のカタチ。
そして、同時にそれは、いかにもアップルらしい表現形態でもある。

*
   

熊本から、お客様にお越しいただいた。
コトバノイエのためだけのご来阪だという予約の電話を受けたときは、一瞬絶句して
しまったが、そういうこともあるんだと思い直した。

それが2年の月日ということか。

ご来訪多謝。

□ 日本のやきもの     第1-10巻+別巻   淡交社   

淡交社からでているこの叢書の2冊がすでに本棚にあって、いつか揃ったらいいなあと
思っていたら、均一棚で第2巻を除くすべての巻が出ているのを見つけ、まとめ買い。
あと「キキ目」の第2巻さえ入手できれば揃いだと、勇んで amazon で第2巻を買ったら、
届いた本がキレイすぎて本棚で目をむいてしまった。なんかちょっと不本意な気分だ。

ともあれ、「日本の伝統」「日本の工芸」と合わせて、淡交社の函入りの「日本」が揃った。
その美しい色の背表紙を、さっそく本棚にならべて悦に入っている。

□ 奇想の系譜    辻惟雄    美術出版社   19700301 初版
□ 日本美術の歴史    辻惟雄    東京大学出版会   20070831 第6刷

この前のエントリーで書いた「若冲ワンダーランド展」の余韻が尾を引いて、若冲ブレイク
の端緒といわれている「奇想の系譜」を、ピンポイントで入手。
岩佐又兵衛/狩野山雪/伊藤若冲/曾我蕭白/長沢芦雪/歌川国芳という江戸期の
6人の画家たちが紹介されていて、彼らの作品の「エグさ」は、たしかに「奇想」と呼ぶに
ふさわしい。

こういう江戸時代の「表現主義的傾向」の絵画を、主流の中の前衛(アバンギャルド)と
とらえ、彼らの絵画を「異端」ではなく、「奇想」という言葉で表現したのは、理解が深い。

いい批評というものが、小林秀雄のいうように、その作品への尊敬の念から生まれる
としたら、この本は、まさにそのアーティストたちへの深い愛にあふれた名著だろう。

そんなことを思いながら、本屋をぶらついていたら辻惟雄さんの近作「日本美術の歴史」
にめぐりあった。いつもの coincidence ― 必然の偶然 というやつである。
あの丸谷才一さんが「記念碑的とも形容すべき大著」と新聞書評で絶賛している本だから、
中身が濃いに決まっている。
通史のキーワードは、「かざり」 「あそび」 「アニミズム」
もちろんその江戸期のところには「奇想」の画家たちが「前衛」として紹介されている。

□ ヨーロッパ半島  H.M.エンツェンスベルガー  晶文社  19891220 2刷

エンツェンスベルガー、こうやってタイピングしているだけで、なんとなく哲学的な気配だ。

原題は「 ACH EUROPA ! (おお、ヨーロッパ)」
ヨーロッパを半島ととらえられる感性のスケールがまず凄い。

EC統合(ユーロ)へと動き始めた80年代後半のヨーロッパの7つの国 ― スウェーデン、
ポルトガル、イタリア、ハンガリー、ポーランド、スペイン ― を歩き、人々の声を拾い集めた
ロード・ムーヴィーのようなルポルタージュ。

600ページにわたる大著だが、エピローグとして書き下ろされた「海のほとりのボヘミア」
と題された、2006年のニュー・ニューヨーカーという架空の雑誌に寄稿したという設定の、
近未来(今となっては過去なんだけれど)ルポールタジュが秀逸。

海になんか面していないボヘミアを、「海のほとり」としたそのこころは?

□ CAPE LIGHT   Joel Mayerowitz  Bulfinch Press  1991 5th printing

「ニューカラー」と呼ばれる、大判カメラ( 8 x 10 )で絞り込んだフラットな表情のカラー・
フォトグラフのムーヴメントの代表作。

リッチなニューヨーカーの避暑地、ケープコッドで撮影された風景の様々。
作品の質はさすがに高いけれど、懐かしさと孤独感の入り交じった独特の色彩感覚と
その構図は、なによりも「アメリカ」そのものを感じさせる。
アメリカに美があるとしたら、こういう視線でしか捉えられないんだろうな、と思う。

ホンマタカシによれば、写真は決定的瞬間派とニューカラー派のどちらかなのだそうだ。

決定的瞬間派の代表は、もちろんその言葉を造ったブレッソン。
絞りを開き、素早いシャッタースピードで、つまりスピード感があってピント(被写界深度)
の浅い画像で、動きを撮ろうとするタイプで、機材はたとえばライカのレンジファインダー。

ニューカラー派の代表のひとりがこのメイヤロヴィッツで、たとえばディアドルフの 8 x 10
のような大型カメラの絞りをできるだけ閉じ( f 値を大きくする)、ゆっくりとしたシャッター
スピードで、隅々までピントのあった静かな画像を目指すタイプ。

たしかにそういわれると、極論すればそのふたつのタイプしかないのかなとも思う。

 

□ 国のない男    カート・ヴォネガット  NHK出版   20080120 5刷

□ 靖国    坪内祐三     新潮社   19990130 初版

□ ザ・ポップ宣言(仮題)    岩谷宏    ロッキング・オン   19811012 2刷

□ 「ん」まであるく     谷川俊太郎     草思社   19870310 第6刷

□ パナマの仕立て屋    ジョン・ル・カレ    集英社   19991031 第1刷

*

最近(でもないか)追加した「小説・詩・エッセイ・評論など」のブックリスト。

SPOT LIGHT 企画、「 his master’s choice – BOOKS+コトバノイエ 晶文社の30冊 」公開中。

http://kotobanoie.com/