BLOG

2009.10.07

wonderland of the amazing artist

chairs.JPG

 

I.M.ペイ設計の美術館で、若冲を観た。

 

鳥獣花木図屏風(六曲一双)」を間近で観られるのは、たぶん最初で最後じゃないかと思う。

 

□ 若冲ワンダーランド                  MIHO MUSEUM                  2009/09/01 – 12/13

 

そして、本邦初公開の「象と鯨図屏風(六曲一双)」も凄い。

 

どちらも拡げて並べるとると7mを越す畢竟の大作、展示された実物を目の当たりにすると、寄って引いてを繰り返しながら、その迫力にただ圧倒される。

 

若冲も、外国人によって発見された日本の美のひとつだ。

 

この前のエントリーでとりあげた、草森伸一の「フランク・ロイド・ライトの呪術空間」の冒頭で、ライトが設計した高層ビルを見るために訪れたオクラホマでの話として、ライトの弟子ブルース・ガフが設計したという、そのビルのオーナーの邸宅に招待されときのたことが書かれていた。

 

このとき彼らを招待したのが、世界的な、というか世界で唯一の若冲コレクターのプライス夫妻であり、このプライス氏に若冲を教えたのが、なんと F.L.ライト その人だったそうである。

 

1953年、ライトと共に立ち寄ったニューヨークの古美術店で、若冲の「葡萄図」に出会った24歳のプライス青年は、それをきっかけとして若冲を始めとする江戸絵画に魅せられ、遥か遠い国日本の旧家の蔵に眠る若沖を収集し、あげく通訳に雇った日本女性を妻として迎えたのだった。

 

誰にも影響されることなく、自らの琴線に触れる作品だけを選んできたという本物のコレクター。

 

「具眼の士を千年待つ」と若冲自らは語ったそうだが、200年を経ても彼の芸術を理解できたのは、世界中でこのオクラホマの田舎青年唯一人だったのだ。

 

京都・錦の青物問屋の総領息子だったという若冲。
40歳で若隠居し、85歳まで妻帯もせずストイックに自分だけのため描き続けたという若冲。
アメリカという国が生まれた頃、シューベルトやベートーベンが生きていた頃の話だ。

 

極彩色のモザイク画「鳥獣花木図屏風」は、そのプライス・コレクションからのものである。

 

至近距離で観るこの屏風にはおもわずうなってしまう、というより絶句する。

 

モチーフを枡目の単位で分解し、自分自身のプログラムでそれを再構築するピクセル的手法。
そしてその約1cmの枡目のひとつひとつを、緻密に絵の具で彩色できる超絶的技巧。
大胆で独創的な獣や鳥のフォルムと、それを自在にレイアウトするデザイン力。

 

このポップでデジタルな一双の屏風は、たとえばそれがコールハースの建築のなかに置かれたとしても、違和感なく収まると思えるような不偏の art piece としての存在感をもっている。ダ・ヴィンチやフェルメールやピカソや北斎の作品と同じように。

 

あるいは曼荼羅や浄土の図、アンリ・ルソーにも似てるかな。

 

そして、名著「奇想の系譜」の著者として若冲や蕭白を「発見」し、 MIHO MUSEUM 館長である辻惟雄氏が、昨年発掘したという水墨画「象と鯨図屏風」の雄大なスケール感も格別だ。
(それにしても納戸にこの若冲の屏風をもっていたという北陸の旧家っていうのもスゴいね。)

 

潮を噴きながら悠々と沖合いを泳ぐ鯨を、微笑みながら眺める象(海岸にいて、しかも座っているんだ)なんていうストレンジな構図を、この人以外の誰が描けるのかと思う。

 

同じような構図の屏風絵がもう一対あることが、昭和初期の売り立ての目録に記録されているそうだが、82歳のときに、159 x 354 cm という、当時としては破格の大きさであったであろう継ぎ目のない一枚の大きな紙に、この奇想のタブローを描ききる情念の深さ、そしてその体力。

 

画家の視線はどこにあるのか、なにが視えているのか。

 

ワンダーランド – 不可思議の國 とは、若冲の宇宙を、まさに言い得て妙なタイトルだ。

 

期間中にもう一度行きたい。

 

P.S.
今、東京国立博物館で開催されている「皇室の名宝―日本美の華」の「動植綵絵」30幅も、たぶん、そうとう素晴らしいはず。
あの掛け軸30幅すべてが、一堂に展示される光景は、さぞや壮観だろう。
天皇家、さすがイイものもってる。

 

*

 

某月某日の本買記

 

なんかあんまり冴えない本買いだったなあと思っていたけれど、データベースに入力しながら、一冊ずつ眺めているうちに、なんだかとてもいい感じに思えてきた。(このときチラッと見るだけで、すぐに離れてしまう本もあるんだけれど)

 

澁澤龍彦を追悼した大型本は珠玉の一冊だし、昭和47年の吉田秀和もシブイ。
買直しの光琳は、ずっともう一度欲しいと思っていた本。

 

均一棚で見つけたエッセイ集は、今集めている東京書籍の「ザ・スポーツ・ノンフィクション」という叢書の、ちょっと珍しい一冊だった。

 

最後に迷いながらレジに運んだ、布張りの函に入った小冊子(Petit Glam no.7)も、家で見たら書店で見たときよりずっとキュートな本だったので大満足。

 

谷川詩集もマイナーな一冊だけど、詩集を買えるのは、気持ちが素直な時だけだし、帰ってから
それが菊池信義装丁だったことに気づいたのも、ちょっと得した気分だ。

 

雑誌も、少し高かったが、ロバート・フランク特集の COYOTE が買えたのは僥倖。
CASA別冊の無印特集やイサム・ノグチも悪くない。

 

□ 澁澤龍彦 夢の博物館     美術出版社    19880715 初版

□ 一枚のレコード     吉田秀和     中央公論社   19721130 初版  

□ Petit Glam no.7    MODERN CRAFTS ISSUE  プチグラパブリシング  20030210 初版

□ ニッポン縦断日記    アラン・ブース    東京書籍   19881019 第1刷

□ 詩を贈ろうとすることは    谷川俊太郎    集英社   19910525 第1刷

□ 光琳デザイン    淡交社    20050208 初版

□ イサム・ノグチ  CASA BRUTUS特別編集    マガジンハウス  20050710

□ 無印良品の秘密  CASA BRUTUS特別編集    マガジンハウス  20030430

□ COYOTE  2009/03  vol.35  ロバート・フランク   スイッチパブリシング  20090210

 

某月某日の新刊

 

□    パティ・スミス完全版 Patti Smith Complete      アップリンク     20000420 初版

 

パティ・スミスの映画、「 dream of life 」を小さな劇場で観た。
10年をかけて撮影されたという、パティ・スミスのモノローグやインタヴューやコンサートの映像を、丁寧に編集したドキュメンタリー・フィルムだ。

詩人であり、アーティストであり、母でもあり、何よりも HIP なロッカーの心の旅。
― the journey through the past.

 

Life is an adventure of our own design intercepted by fate and a series of lucky and unlucky accidents.
I didn’t mind becoming an artist, poet.  Through that pursued, I found a root of my voice.

 

パティ・スミスは、ニール・ヤングがそうであるように、生き残った ROCKER のひとりだ。

 

63歳のニューヨークの知性的なロッカーの、その真摯な魂に刺激され、「詩と回想、そして未来へのメモ」というサブタイトルのついた大型本を、版元に(どういうわけか、Amazonには中古本で29,700円という法外な値段の本しかなくて、いったんは諦めかけたのだが、さらにしつこく調べてみると、版元にはちゃんと新本の在庫があって、しかもそれは定価よりずっと安いプライスでセールされていたりしたので)、映画のあとの勢いにまかせて、オーダーしてしまったのだった。

 

書き下ろしの回想記、これまでのすべてのアルバムの歌詞、曲やアルバムに関するエッセイ、メープルソープやリーボヴィッツなどが撮影した150カットの写真が、A4サイズ/280Pの本にギッシリと詰まっていて、まさに ” Complete ” とよぶにふさわしい出来映えの一冊である。

 

すでに、ジャケットの写真が違う、USオリジナル版が欲しくなっている。

 

*

最近追加した「建築と戯れる」のブックリスト。

 

SPOT LIGHT 企画、「 his master’s choice – BOOKS+コトバノイエ 晶文社の30冊 」公開中。

http://kotobanoie.com/