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2007.12.31

an old magazine named NIPPON

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ちょっと大きな新刊書店に行くと信じられないくらいたくさんの雑誌が並んでいるけれど、日本の雑誌で
インターナショナルなレベルのものって今どれくらいあるんだろう。

「NIPPON」という戦前の雑誌のことを書いた本を買った。


名取洋之助と日本工房 [1931-45]    白山真理・堀宣男編   岩波書店  20060210初版

この「NIPPON」は、1934年10月から1944年9月まで、合わせて36冊発行された季刊誌で、日本の文化、
そして日本という国の姿を、写真やイラストレーションで欧米に伝えるためのグラフィック・メディアだった。

時代から考えると、ちょうど15年戦争の真っ只中だから、対外文化宣伝(プロパガンダ)の役割を持った
国策雑誌という性格をもっていて、もちろんすべて欧文(英・仏・独・西)での記載である。

雑誌のバックナンバーは、古本の真骨頂といえるものだから、気に入った雑誌は新旧洋邦を問わず、
眼にふれるたびに買い揃えているけれど、さすがにこの「NIPPON」は見かけたことがない。
(もっとも現実にそれがあったとしても、復刻版の揃いでさえ30万円する雑誌だから、オリジナルなんて
とても手がだせるようなアイテムじゃないだろうけれど)

ただこの本に掲載されているこの雑誌の画像を見ていると、写真やレイアウトといったエディトリアル・
デザインだけじゃなく、タイポグラフィーやロゴマーク・レターヘッドなども(おそらくCI ワークのはしりじゃ
ないかな)、そうとうカッコイイ。

この「NIPPON」を造っていたのが、土門拳・木村伊兵衛・亀倉雄策などそうそうたるメンバーを擁した
「日本工房」という制作集団、そしてアート・ディレクターとしてこのデザインチームを率いていたのが、
当時家が一見買えるといわれたライカを携えてドイツから帰朝したばかりだった名取洋之助という
若き(なんと24歳!)モダニスト、彼のセンスは明らかにインターナショナル・レベルだったようだ。

この本を眺めていると、「日本工房は日本の写真・デザイン界の源流である」という編者のメッセージや、
「伝説のグラフィック制作集団」という表現もあながち大げさなものではないように思えてくる。

今この雑誌がブックファーストの棚に並んでいたら必ず買うだろうし、おそらく季節ごとの発売を心待ち
にしていたんじゃないだろうか。

次の号を待って買いたくなるような雑誌の出現を切に望む。

*

12番目のカード   ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋  20060930 初版  

ハリー・ライム・シリーズの第6弾
コーンウェルのスカーペッタ・シリーズもそうだけれど、こういった長編の連作を書き続けられるのは
ひたすら体力の賜物でしょう。
肉食狩猟民族の根幹力の太さを感じさせられます。

リンカーン・ライム物がつまらないわけがない。


忍法八犬伝   山田風太郎  東京文芸社  19731110 初版

忍法帖シリーズ終期の傑作。
角川文庫の忍法帖シリーズは読み狂ったけれど、オリジナルの単行本を手にしたのは初めてです。
とにかくひたすら面白い、一度読んでしまえばずるずると深みにはまること必至。

この人の「コレデオシマイ。」などのエッセイの味わい深さも格別です。

負ける建築   隈研吾  岩波書店  20040325 初版

「書ける」建築家、隈さんの面目躍如たる一冊。
私有と欲望に依存しない「負ける建築」というタイトルは秀逸、今の時代のデザインのありかたを
見事に予言しています。
 けっこうきわどい設計や発言をしていてもバランスが崩れないのがこの人のシャープなところ。

この伝でいえば、アフォーダンスとやらも「負け」のひとつかもしれません。
                                                          

古くさいぞ私は   坪内祐三  晶文社  20000320 3刷

小林信彦の「東京のロビンソン・クルーソー」や植草甚一の「ワンダー植草・甚一ランド」のような
バラエティ・ブックを晶文社から出版したかったというのが本人あとがきの弁。
こういうことをヌケヌケとやってしまうのが、このひとの面白いところでもあり、鼻につくところでも
あります。
スタイルのわりに言っていることが案外コンサバティブなのはこの世代の特徴か。

それでもなんとなく買ってしまうのが、ちょっと悲しい。 

花とあきビン   金子光晴  青娥書房  19740915 3刷

詩集を買うのはいつも気分がいい。
それがちょっとHIPな明治生まれの詩人のものならなおさらで、このひとの放浪は年季が入っています。                  
この詩集は晩年のもので、たぶんマイナーな作品集なんじゃないかと思いますが、飄々としたリズムの
なかに「旨味」が滲みでているような気がします。

いい買い物をしたような。

*

年が押し詰まっても相変わらずの本買。  

年の瀬らしきことをひとつ言うと、今年の仕入れ総数は550冊、内訳は単行本282、文庫120、雑誌148でした。

2008年は本格的な仕入れに挑戦したいと思っています。

Have a nice new year !