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2010.03.28

war is a drug

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ベトナム戦争が、”フルメタル・ジャケット” や “地獄の黙示録( Apocalypse Now )” や 
“ディア・ハンター ” を生んだようにこの映画の受賞をきっかけに、ハリウッドが、新しい
刺激として、イラクやアフガンの戦争を貪欲にとりこむ予感がする。

考えてみれば、戦争はいつも、映画にとって格好の素材だった。

” The Hurt Locker ”

スターのいない地味なキャスティングだが、良くできた真面目な映画だ。

本命だった” アバター ” は観ていないけれど、映画芸術科学アカデミーの面々が、
SFハイテク超大作ではなく、このリアルな戦場の物語にオスカーを与えたのは、
ひとつの見識といえる。

アカデミーの会員たちのテイストが保守的なのは周知の事実としても、世界を席巻する
コマーシャル・トレンドである地球環境や価値観の違う異人種との衝突(あるいは共存
 – ” Dances with wolves “のように)を描いたファンタジーよりも、戦争という絶対的な
理不尽に巻き込まれる人間の情況を、丁寧に描写したこの映画が、プロデューサーの
反則行為をものともせず、作品賞を獲得したのは、アメリカの良心ってやつだろうう。

テーマは、” war is a drug “

バロウズが言うように、どんな人間も麻薬中毒者であり、戦争もその麻薬のひとつで、
それはたとえば「裸のランチ」で描かれているモルヒネやアルコールといったヘヴィ・
ドラッグの世界と同じように、超現実ではなく現実そのものということだ。

2004年夏、アメリカ陸軍爆発物処理班ブラボー中隊のバグダッドでの38日。

ストーリーそのものは、いってしまえば ” ダーティハリー ” や ” リーサル・ウェポン ” と
同質の、ある孤独な「マッドドッグ」の物語だといえるが、市民社会ではなく、戦場という
非日常が舞台になれば、様相は一変する。
戦場での激しい緊張と弛緩の断続、しかも進駐した敵地での爆弾処理という極限的な
状況が、ヘロインのように兵士を蝕んでいくありさまが、印象的なエピソードとともに、
まっすぐな大人の視線で描かれている。

映画を観ながら、ソンタグの「良心の領域」というメッセージを思い出した。

たとえば「戦争」というような、具体的でリアルな現実を、想像するように努力してください。

世界では、ではビジネスが支配的な活動に、金もうけが支配的な基準になっています。
ビジネスに対抗する場所、あるいはビジネスを無視するという考え方を持ち続けてください。

暴力を嫌悪すること。国家の虚飾とナルシズムを嫌悪すること。

この作品はソンタグのこの言葉の具現のように思える。
キャスリン・ビグローがこれを読んだわけではないだろうが、どちらもがマチュアな女性
であることは、きっと何かを暗示しているに違いない。そして、ともすると重くなりがちな
テーマを、エンターテインメントとしても高いレベルで表現できているのは、彼女の映画
監督、そして脚本家としての才能だろう。

この人は、きっともっと遠いところに行ける。

タイトルはアメリカ軍のスラングで、「棺桶」という意味なんだそうだ。

プンクトゥムは、三等軍曹サンボーンのくるんとカールした睫毛。

*

本買記

サーフィンの本を、何冊かまとめて買った。
あるオールドサーファーと海の話をしていたら、なんとなくその気になってしまったのだ。

ワイキキビーチで、といってもずいぶん昔の話だが、はじめてサーフィンというものを見た。
ビーチから眺めていたらあんまり気持ち良さそうだったので、なんにも知らないままに
サーフボードを借りて、見よう見まねでパドリングして海に出たら、波にもまれて死にかけた。

葉山の海にも、毎日のように浸っていたことがあるが、ろくに立てたこともない。

そんなだから、サーフィンについて語ることなんてできないけれど、海に身を浸し、波に
身をまかすことの快感はよくわかる。

波を感じることは、地球そのものを感じることだ。
小さな板を操って、その波の上を気持ち良くすべれたら、やみつきになるのは当たり前だと思う。

サーフィンにほんとうにまきこまれてしまうと、自分の生き方にとって必要でないもの、
無駄なものなどには、いっさい手を出す気がしなくなってしまう。何か特別に厳しい修業
のように思えるかもしれないが、実際にやってみると、とてつもなく楽しく突き抜けた
世界であり、こんなにいいことが地球にまだ残っていたのかと、泣きたくなってくる
( by 片岡義男)。

戦争が drug であるのと同じように、サーフィンもひとつの drug なんだ、きっと。

■ SURFING Vintage Surfing Graphics  Jim Heimann  TASCHEN  2004  ¥2,000

TASCHEN の ★ICONS シリーズの一冊。
ハワイの古い絵葉書や雑誌の表紙など、サーフィンをモチーフにした1920−1960年代のグラフィック。

なかでも表紙に使われている、1963年の南カリフォルニア・サンオノフレビーチの写真にはシビれた。
まさにサーフィンU.S.A.、ケネディの時代のアメリカの、まぶしいほどの明るさに満ちている。

ノスタルジイというよりも憧れに近い。

■ サーフシティ・ロマンス  片岡義男   晶文社   19810310/9刷  ¥3,800

このタイトルが、センチメンタル・シティ・ロマンスという日本のロックバンドから引用された
ことを知っている人は、もうそんなに多くないかもしれない。

「宝島」や「ポパイ」で、片岡義男が語ったサーフィン。

イマジネーション、が片岡義男のサーフィンの源泉だ。

波をうまくつかまえた瞬間の、海の波というもののすさまじいエネルギーを、自分が
乗っているサーフボードの下に感じる。明るい陽の降り注ぐ真っ青な空にむけて、
波は自分をほうりあげてくれる。サーフボードを、そして自分を、下から持ちあげる
波の力が、ボードから両脚に伝わり、背骨から頭に抜けていき、空の中へ散っていく。
その瞬間には、すべてのものが見える。

サーフィンは単なるアウトドア・スポーツではない。ウェイ・オブ・ライフなのだ」とか、
「サーフィンはトータルなライフ・スタイルだ」と、アメリカ製のサーフィン映画のなかで
ナレーターがいつもくりかえしている。そのとおりだ。サーフボードに乗って、一度で
もいいから波をつかまえ、すべりおりた経験を持ってしまったら、サーフィンの魅力に
完全にひっかかってしまい、以後、サーフィンは、ウェイ・オブ・ライフにならざるをえない。

こんなことを、「まだ沖に出ている夕陽のサーファー」とか「海岸の古びた一軒家でソリッドな
食事をし煙草をすわない」なんていうタイトルで書かれてしまったら、参りましたというしかない。

■ 鎌倉幕府のビッグ・ウエンズデー  久保田二郎   角川文庫   19860725/初版  ¥180

久保田二郎は希代のほら吹きだ、黒人のジャズ・ミュージシャンがそうであるように。

そんな久保田二郎が書いた数少ない小説。
タイトルにもあるように、これは「ビッグ・ウェンズデー」のパロディだろう。

鎌倉時代、由比ケ浜で板子に乗って「波駆け」遊びをしていた若者たちが、元の大軍が
襲来する博多に出陣し、「大いなる水曜日」に、元の大船団を押し返した「神風」の大波
に出会う、という、まあ荒唐無稽な話だが、冒頭のハワイのデューク・カハナモクの話から、
サーフィンの歴史へとストーリーを進め、サーフィンは400年前、鎌倉時代の3人の若者が
始めた遊びだったというホラ話につなげる手際は見事。

小説的想像力、という言葉を思い出した。

売れた本の再買。

ショップの店主とすればあまりいい心がけじゃないかもしれないが、いちど売れた本を
買い直すのは、あまり好きじゃない。
本棚がちっとも変わった感じがしないからだ。

それでもそれがいい本で、ちゃんと読めてなくて、しかも前よりも安いということになれば、
やっぱり手が伸びる。
軟弱なのである。

□ 人間人形時代   松岡正剛/杉浦康平 稲垣足穂   工作舎  19910810/第6刷  ¥1,800

□ ヒッチコック映画術   F.トリュフォー   晶文社   19820130/2版  ¥2,800

□ デザインの輪郭   深澤直人   TOTO出版   20060201/初版第3刷  ¥1,000

□ 北斎万華鏡   中村英樹   19960420/第4版  ¥1,600

□ 一銭五厘の旗   花森安治   暮しの手帖社   19730810/第6刷  ¥1,500

□ 世界の喜劇人   小林信彦   晶文社   19730228/初版  ¥1,500

こうやって並べてみれば、どの本も一癖あって悪くない。
問題はどのように並べるかだな。

その他、こんな本をランダムに。

□ 空海 言葉の輝き   高岡一弥編   ピエビックス   20030514/初版第1刷  ¥1,500

□ ヒマラヤ自転車旅行記   ベティナ・セルビー  東京書籍  19911105/第1刷  ¥1,100

□ 町からはじめて、旅へ   片岡義男   晶文社   19801120/7刷  ¥1,200

□ TAKU SATO 世界のグラフィックデザイン65  佐藤卓  gggブックス  20040510/初版  ¥450

□ 結界の美 古都のデザイン   伊藤ていじ   淡交新社   19660608初版  ¥9,000

□ PURE STYLE OUTSIDE   Jane Cumberbatch   RAYLAND,PETERS & SMALL 1998  ¥1,300

□ CUT FLOWERS   Tricia Guild   Quadrille Publishing   19980520  ¥1,800

□ 白洲次郎と白洲正子   牧山桂子   新潮社   20080910/初版  ¥3,000

□ The Giving Tree   Shel Silverstein   Harper Collins   1964  ¥1,000

最近追加した「文藝」のブックリスト。

http://kotobanoie.com/