承前
60’s が続く。
ことさらこだわっているわけじゃないし、40年も前のことをウダウダ考えるつもりはないけれど、「69」のことを書いている最中にボブ・ディランの刺激的な映画(NHKBSの再放送)を観てしまった。
流れというのは不思議なもので、始めてしまうと続けさまにコトが起こる。
この映像を見るとディランを抜きにして60’sのカウンター・カルチャーは語れないんだと、あらためて感じ入る。
■ No Direction Home Bob Dylan / Martin Scorsese
2005年のマーティン・スコセッシの作品。
(もともとは Apple の提供で制作されたTVスペシャル、一番見たかったのはもちろん Jobs だろう)
昨年やっとオスカーを手にしたスコセッシは、「映画オタク(by 小林信彦)」であると同時にかなりの
ロック好きとしても有名な監督で、この映画のあとには、ローリング・ストーンズの 「Shine a Light 」
も撮っているし、旧くはザ・バンドの「The Last Waltz (1978)」 も彼の作品だ。
そういえば「The Last Waltz 」も、この作品と同じように一見モノローグにも思えるような本人への
インタヴューを交えながらコンサートの映像やエピソードを挿入していくという手法だった。
この208分にもわたる長編はインターミッションをはさんだ2部構成で、前半はミネソタの音楽小僧だった
ロバート・ジンマーマンがどのようにボブ・ディランになったかということが、ディランにまつわる様々な
人たちへのインタビューに未発表のライブ映像を交えて克明に記され、後半ではフォークの王子様にまつり
あげられたディランが、どのようにグレて、ラジカルなロッカーに変身していったかということを、
英国ツアーの映像をコアに撮られている。
今まで定説とされてきたことがひっくり返るような面白いエピソードもいっぱいあるけれど、なんといっても圧巻はエンディングの英国ツアー Newcastle (5/21/1966) での「 Like a Rolling Stone 」だろう。
まさかこのコンサートの映像を見られるとは思わなかった。
ずいぶん昔から「 Royal Albert Hall 」というブートレグとして伝説にもなっていたパフォーマンスで、
テレキャスターをかかえたディランが「ユダ!(judas)」と野次をとばす観客に、「お前のいうことなんて信じないよ( I don’t believe you) 」「 嘘つき野郎(You’re lier) 」と毒づき、バックバンド( The Band だ)のほうに振り返って「でっかくいこうぜ!( Play it fuckin’ loud)」と声をかけてその曲をスタートするシーンには思わず鳥肌が立つ。
ROCKの原形。
NO DIRECTION HOME というメッセージは胸にしみる。
How does it feel どんな感じだい
How does it feel どんな感じなんだい
To be on your own 独りぼっちになるのは
With no direction home 帰るすべもなく、
Like a complete unknown 見知らぬひとのように
Like a rolling stone ? 転がる石のように
アーティストであることの孤独と恍惚。
自分自身に立ち返れば人には帰る家などないし、
帰るところよりも行く先をもとめて歩きつづけることがアーティストの旅なんだろう。
それにしても、
前年1965年の英国ツアーのドキュメンタリー「Don’t Look Back」の野放図で傍若無人な明るさと比べると、たった1年しか経っていないこのツアーの緊張感。
1965年のツアーがマリファナ的だとしたら、このツアーはLSDのようだ。
このツアーのすぐあとに、彼はトライアンフで事故を起こし、ウッドストックで2年間の隠遁生活をおくることになる。でももし事故を起こしてなかったら、ジャニスやヘンドリクスのようにそのまま逝ってしまったんじゃないだろうか。
そう思えるほどに凝縮された輝きと憔悴が、この映像に刻まれている。
このあとの42年が彼にもたらされたことを心から寿ぐ、生き残ることはひとつの価値だから。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、
久しくとどまりたる例(ためし)なし。世の中にある人と、栖(すみか)とまたかくのごとし。( 方丈記 in 1212 )」
BGM : ” I Shall Be Released ” by Bob Dylan Greatest Hits 2 version
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■ 幸福號出帆 三島由紀夫 桃源社 19640925 初版
この小説のことはよく知らなかったけれど、三島由紀夫の初版本それも著者印付を逃す手はない。
調べてみると初出は昭和30年の新聞連載で、この桃源社版の前にいちど新潮社から出版されているようだ
渋い紫色の地にシルバーの箔押しがとてもキレイな函、白地のクロスに金箔のタイトルが押された本。
この体裁がそのまま三島由紀夫といってもいいかもしれない。
オレンジの背表紙の新潮文庫で集中的に読んだ時期があった。
とにかくどんな作品でもきっちりと読ませてくれるので、読み始めると必ずハマってしまうんだけれど、
虚構性という か造りもの感が強すぎて、硬い話も柔らかい話もそのうちただの「ものがたり」としか
感じなくなってしまうのが、ちょっとツライ。
この人のリアルは、どこにあるんだろうと思ってしまうのだ。
本としての価値は充分。
■ MAKING CHOICES MoMA/Thomas &Hudson 20000316
MoMA on line の SALE で入手。
MoMA で2000年3月から9月まで顔際された「MOMA2000」と名付けられた企画展の図録と思われる。
図録といっても大型のハードカバーで、定価9000円のこの本が、いくらSALEとはいえ○○○○円とは、
破格としか言いようがありません。
1929年、1939年、1948年、1955年というアートシーンにとって節目の年の、絵画・写真・映画・
ポスター・建築 (模型)・プロダクトなどいかにもMoMAらしいコレクションが、カラー図版で掲載されている。
NEW YORK に行きたい、とても。
■ アンリ・カルティエ=ブレッソン自選コレクション 大阪芸術大学 20060310 第1刷
大阪芸術大学には世界に4セットしかないブレッソン自選の写真コレクションが所蔵されているらしい。
そしてこの本にはそのすべてが掲載されている、つまりこれって究極のブレッソン本じゃないのか。
こういうことを買ってから知るのはすごく気分がいい、印刷もいいし。
ブレッソンの「決定的瞬間」の構成力の凄さについては、俵屋(京都芸大)のアーネスト・サトウさんが、
芸術新潮で見事に解説していた(実際は弟子であった森村泰昌の代演だったけれど)のを覚えている。
希代のライカ使いブレッソン自身が選りすぐったこのモノクロ411点の作品は、ひとことでいうと、
マチスやピカソやジャコメッティやコルビュジェやモンドリアンと同じ「モダニズムの美」だ。
同時代の精神というのが、やはりあるように思う。
■ 陶芸の伝統技法 大西政太郎 理工学社 19780605 第1刷
趣味にせよ仕事にせよ、この本はやきものづくりを志す人にとって教科書のような存在だ。
陶芸の手法や技法に関しては流儀のようなものがあって、この人は京都流。
もちろん名古屋や九州方面の手法もちゃんと紹介されているけれど、道具にローカリティがあるのはしかたない。
どんな種目でもそうだけれど、先生につかず独学でやっているものにとって、こういう基本的なところを、
きちんと生真面目に示してくれる参考書の存在は無類にありがたい。
旧い本だけれど、焼きものの世界のスタンダードはそれほど変化しているわけではなく。
普通にやるならこれ一冊で充分の充実度、深まれば同著の「陶芸の釉薬」があります。
それにしても専門書はやっぱり高いな。
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