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2008.09.28

no matter how sumptuous or humble

sky2.JPG


秋日好天。

J.J.氏じゃないけれど、散歩していると思わぬ lucky にめぐり逢うことがある。

hhstyle というインテリア・ショップで、ルイス・バラガンの作品集を手に入れた。
それも 300 x 300mmの大型本を破格のバーゲンプライスで。

■ ルイスバラガンの建築   斎藤裕   TOTO出版   20010701 第2版第2刷

まずその鮮烈な色彩に、そして絶妙に計画された光と影に惹かれる、おそらく風もそよいでる。
でもじっとそのたたずまいを眺めていると、ただならぬ「奥行き」に気づく。

バラガンの建築は、祈りに近い。

リビングにあるプールの陰影が異彩を放つヒラルディ邸 (Casa Gilardi)のフォトジェニックな空間
構成も素晴らしいけれど、なんといっても、86歳で亡くなるまでの40年という時を過ごし、今は世界
遺産にもなっているその自邸 la casa luis barragan は、珠玉とでもいうべき作品だ。

大きな格子状の高窓から射し込む柔らかな朝の光に包まれる書斎。
庭の木々を通してフルスケールのガラス窓から変化に富んだ西陽が降りそそぐリビングルーム
すべて庭に向き、庭が最も美しく感じられる位置に窓が切り取られた寝室やダイニング。
周囲の喧噪や視線を彫刻的な壁で遮断し、空と自分だけが向かい合える屋上のテラス
メキシコの強い太陽を受けて、荒々しく生い茂る境界のない庭。

どのスペースも、ひたすら独り静かに暮らすことへの願いに満ちていて、家族の気配を微塵も
感じないストイックな空間なのに、厳しさではなく、穏やかさを感じるのがとても不思議だ。

「そこに身を置くと静寂のなかで生きる喜びを心から実感できる」 (by 安藤忠雄)

ひたすらserenity(静謐)を希求し続けたバラガンの魂が、たぶんそこにある。

そして階段。

オブジェのように美しい階段。

どうしてこんなに心が震えるような階段が造れるんだろう。

敬虔な光にあふれる玄関ホールのゆるやかな溶岩の階段は、天へのきざはしとしか思えない。
書斎のキャンティレバーは、中空に浮かぶ不思議な乗りもののようだ。

この自邸だけじゃなく、この本に掲載されている建築のどの階段も、なんの変哲もないものばかり
なのに、まわりの光や色や空気感をとりこんで、原初からそこにあるような佇まいをもっている。

バラガンの階段だけを切とっていつまでも眺めていたいとさえ思う。

バラガンは、architect’s architect だ。

メキシコにしか作品を造らなかったバラガン。
素朴なテクスチュアの壁を、花の色や空の色や大地の色に塗りつづけたバラガン。
天上からの官能的な光に、おそらく神を見ていたバラガン。

バラガン見立ての mexico 数寄、あるいはバラガン婆裟羅とでもいうべきか。

バラガンの建築を見ていると、彼のなかでは、若き日にパリで浴びたモダニズムとメキシコ人
としてのアイデンティティとが、境界線なく交わっていることがとてもよくわかる。

ルイス・カーンをはじめとして、この孤高ともいえる建築家を敬愛する建築家は少なくない。

馬好きとすれば、厩舎をアーティスティックにデザインできる建築家に、ひたすら脱帽です。

luis barragan official website

 

*

■ 雷鳴の頸飾り ― 瀧口修造に     書肆山田   19791210 初版

シュルリアリスト瀧口修造の追悼詩集。

いい本だな。
佳い感じに時を重ねた古本がたまにあるけれど、この本はそんな一冊。

体裁、デザイン、タイトル、そしてその詩のクオリティ、本としての完成度も高い。
なかでも巻頭の、ミロが瀧口修造の名前を織りこんで描いた絵は、秀逸。

こんな追悼集をだしてもらえる詩人は幸せだと思います。

■ 海図と航海日誌    池澤夏樹   スイッチ・パブリシング  19951215 第1刷

作家の父と詩人の母をもつサラブレッド、池澤夏樹の書評集。

決して彼のいい読者ではないのだが、植田正治のジャケットと、そのタイトルに惹かれて。

本というものの役割を、「日々の糧と回心の契機」の混合だと、池澤さんは序文で言っている。
そりゃあそうなのかもしれないけれど、こういう風に硬質に迫られてしまうと、それはちょっと
いい子すぎるんじゃないのと、つい冷やかしたくなってしまう。

a little too square,   なんか音楽の趣味がぜんぜん違うような気がするんだ。

最後の章、「寄港地一覧 あるいは九十九の小説」は、格好のカタログではあるけれど。

■ 土星の徴しの下に    スーザン・ソンタグ    晶文社   19911220 第5刷

ソンタグ ― 晶文社、しかもレア・アイテムとくれば、不見転です。

「私は今これをパリの小さな部屋で書いている。」という、鞘からそおっと刀を抜くような書きだし
から、アントナン・アルトーを中心にヴァルター・ベンヤミンやロラン・バルトやファシズムのこと
などを、彼女らしいシャープな語り口で綴っています。

「知性」を絵に描けばこのようになるのか。

訳者あとがきによれば「スーザン・ソンタグがこれまで書き得た最も見事な評論集」であるらしい。

本棚にあるだけで充分の一冊、これを書いた1980年はおそらく彼女のピークじゃないでしょうか。

■ 詩人のノート ― 1974.10.4-1975.10.3    田村隆一   朝日新聞社      19780920 第3刷

詩人のエッセイを読むのは楽しい。
ひとつひとつの言葉の粒が立っているから。

田村隆一は詩人という言葉が似合う人だ。

丸谷才一によればこうだ。
「彼は、あるいは日記をつけるやうに、あるいは葉書を出すやうに、そしてあるいは冗談を言ふやうに
詩を作る。つまりここには、現代日本には珍しく、ライト・ヴァースの作者がゐることになる。」

いつも飲んでいるのに、あまり酔いどれな感じがしないのは、この人の都会的な人柄ゆえか。

引用されている詩がどれも素晴らしい。
詩人の選ぶ詩にはなんともいえない独特の味わいがあります。

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