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2011.05.30

relationship between form and content

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薄くて小さな本だけど、中身は濃い。

□ ポール・ランド、デザインの授業  Michael Kroeger    BNN新社  20081001/初版

ポール・ランド(Paul Rand 1914-1996)は、伝説のグラフィックデザイナー。
CI デザインの先駆者として respect されている。

IBMやABC、そしてAppleを追い出されたスティーブ・ジョブスが立ち上げた NeXT Computer
ロゴマークも彼の手になるもので、ジョブスが、マシンがまだできないうちから彼にそのデザインを
依頼し、コンピュータ筐体そのものを、このロゴに合わせてブラックキューブにデザインしたのは
有名な逸話で、この本でも、そのタフなクライアントが少しだけ登場する。

“Conversation with Students” という原題のこの本は、1995年に行われたアリゾナ州立大学
での講義(ワークショップ)を記録したもので、[対話1]として編者マイケル・クローガーと教授陣
による講義の内容に関してのインタビュー、そして[対話2]として、講義での学生たちとの白熱した
ディスカッションが抜粋されていて、その白熱の雰囲気に、おもわずマイケル・サンデルの「正義」
の講義を思い出してしまった。

サンデル教授と同様に、ランド教授のイエール大学での講義も凄まじい人気だったそうで、
講義の前日のボストンの書店から彼の著作が一斉に消えてしまう(サインを求めるために学生が
買っていく)ということがあったらしい。

実際その授業は、魅力的なキーフレーズの連続で、そのすべてを引用したい衝動にかられるけれど、
決定的なものをひとつだけ。

” Design is a relationships. Design is a relationship between form and content.”
(デザインとは関係である。形と中身の”関係”だ)

これは、言葉を自分で定義することにこだわる彼が、「定義とはどこかへ通じるものでなくてはだめ
なんだよ。何かを生み出すものでなければ」と諭して、学生たちに伝えたデザインの定義。

そしてそれは、

「中身は基本的にアイデアだ。それが中身のなんたるかだからね。アイデアが最優先だ。形はその
アイデアをどう処理するか、どう扱うかだ。これがまさしくデザインの意味だ」

と、補足される。

抜粋なので確証はもてないが、原理原則にきわめて忠実なモダニストというのがその印象で、
その作品を見ても、やはり底流にはバウハウスの影があるように思える。

もちろんアメリカの人なので、DNAにはしっかりとプラグマティズムが流れていて、商業デザインという、
きわめてビジネスと密接したクリエイティブワークの場で、そのことがプラスとして働いたであろうことは
想像に難くない。

「視える」人の言葉はいつもそうだけれど、ランドの言葉もきわめてシンプルで、重要な経験の裏づけ
のある彼の言葉は含蓄に満ち、自信にあふれている。

とにかくすべては自分の頭で考えることからしか始まらない。
そして考え尽くしたところから、Simplicity は生まれる。

そこまで行くと、それはデザインという領域を超えて、普遍につながっていく。

Simplicity in not the goal.
It is by-product of a good idea and modest expectations
.

ランドのデザイン論が具現化されたような美しい造本。
白地に朱と濃紺の2色で組まれた文字が、本のなかで踊っている。

permanent collection.

*

5月の本買記

ベトナムに赴任する土屋さんから、建築関係の本をたくさん譲っていただいた。

考えてみれば、こんな風に誰かの蔵書をまとめて預かるのは、じつはまったく始めての体験で、
自分がセレクトしたものではない本が、本棚に並んでいるのを眺めるのは、かなり新鮮だ。

整理してみると、貴重な本も何冊かあり、土屋さんに感謝したい。

その土屋蔵書からいくつかを、ピックアップ。

□ ヨハネス・イッテン色彩論   大智浩訳   美術出版社  19850510/第10刷
□ 倉俣史朗・仕事集 1967-1981   倉俣史朗   ARCO出版  19810911
□ デ・スティル   ポール・オヴリー   PARCO出版  19800615/第2刷
□ ジオ・ポンティ作品集 1891-1979   鹿島出版会  18910919
□ RONCHAMP   LE CORBUSIER   verlag gerd hatje  1957
□ 巨匠ミースの遺産   山本学治   彰国社  19801210/1版9刷
□ 好奇心への旅 建築家の眼   宮脇檀   世界文化社  19910701
□ 吉村順三 住宅作法   中村好文/吉村順三   世界文化社  19910710/初版
□ 窓のはなし   日向進   鹿島出版会  19880325
□ 住まいと厠   李家正文   鹿島出版会  19830530
□ デ・ステイル 1917-1932   セゾン美術館/東京新聞   1997
□ 未来派 FUTURISM 1909-1944   セゾン美術館/東京新聞   1992
□ Miro & Artigas Ceramiques.   Jose Pierre et al   19740430

たとえばミロの陶芸作品集は、初めて眼にした最高の一冊。
倉俣史朗の作品集や吉村順三と中村好文の対談集なども、かんたんには手に入らないはずだ。


□ チェルノブイリ 春   中筋純   二見書房   20110505/初版

ある日家に帰ったらこの本が届いていた。

帰ったときに本の包みがあるのはいつでも嬉しいものだが、作者からの献本となるとなおさら。

純さんは廃墟に見せられた写真家の一人で、その純さんがあそこは究極の廃墟だからといって
チェルノブイリに行ったのは2007年の秋。

その成果は、『廃墟チェルノブイリ Revelations of Chernobyl 』という写真集に収められているが、
そのチェルノブイリの「春」を、どうしても撮りたいと、もう一度彼の地に飛び立ったのが一昨年だった。

そしてその旅が、この『チェルノブイリ 春』として結実した。

前作の救いがたいような荒涼感と一変した緑に萌えるチェルノブイリの光景は、春はどんなところ
にも来るんだという希望のようなものを抱かせもするが、その写真を凝視すると、その春のまばゆい
光の中に、人がいないことの異常さをよりいっそう強く感じるという逆説に気づき、それが25年経った
今も、そのときのまま存在し続けていることに唖然とさせられる。

たぶん純さんは、そんなことを企んだわけじゃなく、ただ萌えるような命の息吹があるチェルノブイリを
見たかっただけなんじゃないかと想像するが、だからこそ、眼には見えない放射能の存在を強く意識
せざるを得ないのだ。

これがもはや、遠いところの話だと思う人は誰もいないはず。
この本が、25年後の福島の春を予言したものでないことを心から祈るしかない。

□ 太陽と月 古代人の宇宙観と死生観   谷川健一編   小学館  19831015/初版第2刷
□ 村と村人 共同体の生活と儀式   坪井洋文編   小学館  19840630/初版第1刷

『太陽と月』

われわれが棲む地球からは、いつもどちらかが、あるいはどちらもが見えているけれど、もしかしたら
それは見えているんじゃなくて、見られているのかもしれない、とふと思う。

そう考えると、空に煌々と輝く太陽と、夜の闇に冷たく光る月を、古代の人が人智の及ばぬ神の姿
だと考えたのは、少しも不思議じゃない。

だから、この本のサブタイトルにある「宇宙観と死生観」が、それは多分に「宗教」とクロスオーバー
するけれど、太陽と月から生まれたのは、洋の東西を問わず人の心のごく自然な動きだろう。

それでもやはり日本人には日本人独特の感性がって、それが「文化」というコンテクストで脈々と
受け継がれていて、この「日本民俗文化体系」という叢書は、その源流を探る手がかりの一つに
なってくれる。

『村と村人』は、日本的なコミュニティや人間関係の原点の考察。

グローバルスタンダードではない新しいコミュニティの可能性を探るとき、ぼくたちのDNAにおそらく
潜んでいるこの「ムラ」というコミュニティに連綿と受け継がれてきた儀礼や生活をもう一度振り返る
ことは、今とても重要なことのように思える。

温故知新。

デザイン / アート

□ JAPANESE DESIGN   WEATHERHILL
□ 狂言のデザイン図典   茂山千五郎   東方出版  20050711/初版1刷
□ 日本デザイン論    伊藤ていじ   鹿島出版会  19860315/第21刷
□ 柳宗理 デザイン   柳宗理   河出書房新社  20000630/2刷
□ International Design Yearbook  Jasper Morrison編  Abbeville Press  1999/first edition
□ Fusion Interiors    Andrew Martin   PAVILION  20040227
□ 日本の図像 琳派   濱田信義   ピエ・ブックス  20110225/初版第1刷
□ 古くて美しいもの   関美香   平凡社  20101217/初版第1刷
□ ピーター・ヴォーコス展   セゾン美術館   1995
□ DAVID LYNCH Painting and Drawings   David Lynch  東高現代美術館  199101

□ 数寄–茶の湯の周辺   多田侑史   角川書店  19850730/初版
□ 茶と花   水尾比呂志   芸艸堂  19790201/初版
□ 茶の心 茶道名言集   桑田忠親   東京堂  19570610/再版
□ 川瀬敏郎 花と器   白洲正子   神無書房  19940310/改訂3版
□ 館蔵 茶碗百撰   根津美術館   大塚巧藝社  19941001
□ 能と能面の世界    中村保雄   淡交社  19690305/16版
□ 鈴木大拙坐談集 第1-5 巻   古田紹欽編   読売新聞社  19711110/第1刷

文学・エッセイ

□ 寺山修司詩集   寺山修司   角川書店  19930710/初版
□ 愛について   谷川俊太郎   新宿書房  20030515/初版Ⅰ刷
□ and other stories   キンセラ他   文藝春秋  19880920/第1刷
□ ヘミングウェイ釣文学全集 上巻 鱒   アーネストヘミングウェイ  朔風社 19830420/第2刷
□ ヘミングウェイ釣文学全集 下巻 海   アーネストヘミングウェイ  朔風社 19830131/初版
□ 新しい教科書 本   永江朗   プチグラパブリシング  20060303/初版
□ 霧のむこうに住みたい   須賀敦子   河出書房新社  20100110/4刷
□ わが日本精神改造計画   大島渚   産報  19721225/初版
□ 愛情生活   荒木陽子   作品社  19971010/第2刷
□ 「愛」という言葉を口にできなかった二人のために   沢木耕太郎  幻冬舎 20070410/第1刷
□ 日本語で生きるとは   片岡義男   筑摩書房  19991216/初版第1刷
□ ミーツへの道   江弘毅   本の雑誌社  20100605/初版第1刷
□ 競馬情話 中年ジャンプ   吉川良   本坊書房  19900525/第1版
□ 向田邦子の恋文   向田和子   新潮社  20020905/5刷

再入庫

□ 花森安治の編集室   唐沢平吉   晶文社  19971120/4刷
□ 散歩のとき何か食べたくなって   池波正太郎   平凡社  19771202/初版第1刷
□ シブイ   開高健   TBSブリタニカ  19900508/初版
□ 千利休 無言の前衛   赤瀬川原平   岩波新書  19911105/第6
□ 宮脇檀の住宅設計テキスト   宮脇檀建築研究室   丸善  19960130/第7刷
□ 宮澤賢治 花の図誌   笹川弘三写真   平凡社  19910529/初版第1刷
□ 外部空間の設計   芦原義信   彰国社刊   198311201/版7刷
□ 月と胡桃 梓書房 復刻版童謡集   北原白秋   ほるぷ出版  1977/11(1929/6)
□ 本覚坊遺文   井上靖   講談社  19820225/第6刷
□ 家 1969→96   安藤忠雄   住まいの図書館出版局  19970120/第3刷
□ 合言葉はオヨヨ   小林信彦   朝日新聞社  19730210/第1刷
□ 秘密指令オヨヨ   小林信彦   朝日新聞社  19730630/第1刷
□ 新版 私説東京繁盛記   小林信彦/荒木経惟   筑摩書房 19920925/第1刷

こうやってリストを眺めてみると、5月もけっして悪くない。

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そしてなかなか更新できない「デザインの発見」のブックリスト。

http://kotobanoie.com/