やさぐれ競馬
ー この世で最高なことは、競馬に勝つこと、2番目に最高なのは、競馬で負けることだ。
PART 2
introduction
「好きなこと」について語る人の話を聞くのは非常に楽しい。
わたしが競馬を始めてからこの秋で早一年。少しは競馬に慣れてきて、欲も出てきだしたここ最近。 今回は加藤さんがでっかく当てたということで、インタビューにかこつけて馬券の買い方の秘密を聞いて、あわよくばあやかろうと目論んでいたのだけど… 終わってみれば結局、加藤さんの競馬は「やさぐれ」加藤さんの競馬。 まだまだわたしにはレベルが高すぎて、さっぱり解らなかった。
でもいいんです。めっちゃ楽しかったから。 目を輝かせて、それこそ湯水のごとく言葉が溢れ出る。尽きない愛情。 前回、春に行ったインタビューの時も感じたことだけど、「ホンマに競馬が好きなんだな、この人は」って。 こっちまで嬉しくなって、ずっとずっと聞いていたいと思った。
競馬についての話、と言いながら、実は人生とか、そんな感じのことについてのコツを聞かせてもらっている気がしてなりません。
さて。明日はいよいよ今年最後の大一番、有馬記念。 いまから馬柱とにらめっこ。 小さな奇跡を「信じて」、わたしの「こうなって欲しい未来」を描くために。
20141227 笹倉 アツコ
アツ では、第2回ということで、とりあえず乾杯を。今回は何に乾杯?
加藤 やっぱりエピファネイアでしょ。
アツ 勿論そうですよね(笑)ではジャパンカップ**1のエピファネイアとスミヨンに乾杯。
加藤 乾杯。
アツ 本当におめでとうございます。まずは、やっぱりそこから聞かないと。
11月30日 東京11R 第34回ジャパンカップ 2400m芝・外
1着 エピファネイア 2:23.1
2着 ジャスタウェイ
3着 スピルバーグ
払戻金
単勝 4 890円 4番人気
複勝 4 320円 5番人気
1 320円 4番人気
15 410円 7番人気
枠連 1-2 970円 3番人気
馬連 1-4 4,120円 18番人気
馬単 4-1 7,800円 30番人気
3連複 1-4-15 19,750円 59番人気
3連単 4-1-15 91,750円 295番人気
*馬券の買い方
アツ 加藤さんが、前回のインタビューで言ってた「こうなって欲しい未来」を描いて勝った、というレースですよね。
加藤 まあ何年かに一回のことやから。でもこないだのラキシス、エリザベス女王杯のラキシスとヌーヴォレコルトの時も、そのパターンやったね。
アツ あの時も当てましたよね。
加藤 うん、あの時はヌーヴォレコルトが1番人気で、絶対来るって言われてたけど、まずそこから疑りたいわけ。とにかくこの1番人気のこいつがどうなったら「こない」のかなって。
アツ へそ曲がり~(笑)
加藤 オッズのことがあるからね、やっぱり。だからまず1番人気に「NO」というところから始めるわけです、まあ何でもそうなんやけどね。
アツ うんそうですね。加藤さんを見ていると、色んなところでそういう行動をされることがよくありますよね。「NO」から始めるというか、大前提を疑ってみるとか。
加藤 そうやね。結果的に買うことはあるんだけど、でもそうじゃないパターンから考える。
アツ 本音としては「この子来るやろな」ってのは思ってるんですか?
加藤 そらもちろんそうだよ。もう当たり前に強いとも思ってて、でも、こいつが負けるパターンはどのパターンなのかって考える。しばらくやってたらわかると思うけど、常に変わるやん、競馬って。単純に強いから勝つっていう、オリンピックの100m競走みたいな話とはぜんぜん違ってるやろ。それこそ天気のこともあるし、馬場のこともあるし、相手のこともあるし、枠順のこともあるし、とにかくものすごく複雑な要素が絡まってるから、実は1番人気っていってもむちゃくちゃ根拠は薄いねん。ただホワンとしたその総意として出てくるだけであって、基本的にはG1に出てくる馬ってさ、どれが勝ってもおかしくないわけだよね。
アツ うんうん。
加藤 たとえばディープインパクト**2みたいに凄く強い馬がいて、もうこれどうしようもないよな、どんなことになっても絶対勝つよねってこともあるんやけどさ、だいたいの場合は、もう一回走ったら結果は変わるんだよ。同じメンバーで同じコースを走っても、同じ結果にはならない。
アツ ならない?
加藤 絶対ならない。だとしたら、オッズ的にいちばんおいしくない1番人気を疑う。
アツ そのほうが面白い、と。
加藤 そう、でもそいつは強いわけやから、ぼくのひとつのセオリーは、とにかく4番人気からその1番人気への馬単**3っていうパターン。
アツ それは「負けないための競馬」ではなく、ってことなんですよね。それをね、さんざんいつも聞くんですけどね。なかなか出来ないんです。
加藤 勝ちたいからね。
アツ そう。勝ちたいし。人気の馬に賭けても大した配当にはならないってのももちろんわかってるんですけどね。でもなかなか、4番人気を頭とか1番人気をうたがえって言われても出来ないですよ。わたしは結局、1番人気のジェンティルドンナと2番人気のハープスターを頭にしちゃったんですよね。牝馬ちゃんたち。でもこのとき、ジェンティルドンナ頑張ったと思いませんか?
加藤 うん良かったよ。だからジェンティルドンナに関しては迷ってるしね。ほら。
アツ ホントだ。これは実際にジャパンカップのときに加藤さんの予想の変遷を書いたものですね。
加藤 うん、前夜のぶんと、当日の午前中、つまり最終決定のやつと。まずは「ボックス**4」で、2(アイヴァンホウ)、3(ジェンティルドンナ)、4(エピファネイア)、9(イスラボニータ)、15(スピルバーグ)っていう5頭をピックアップしてるわけ。 最初のインスピレーションがこの5頭で、これでいけるんちゃうんって思ってる、この時点では。
アツ これは前日の予想ですか?
加藤 うん。この時点ではまだ1(ジャスタウェイ)は出てきてないね。この5頭を組み合わせてオッズを確かめつつ見ていくんだけど、このボックスとは別に、2(アイヴァンホウ)がやだなぁって。こいつなんか怪しいぞっていうことで、2を軸にして、さっきピックアップした馬をつけて、ひと通り「流し**5」で抑える。っていうことで、そのボックスと流し。これが一応の基本セット。でここから、馬単で取りたいので、どれを頭に持ってきて、どれをどんだけ買うかってのを考える。まぁ結果的には2は消したんだけどね。
アツ なるほど。だいたいいつもこういう感じでやってるんですか?
加藤 うんそう、こうやって書き出して、オッズもこうやってここに書きだすんです。
アツ ああ、これオッズなんや。そんなにオッズは大事なんですね…
加藤 だってさ、取って負けたら嫌じゃない。
アツ あああ。だいたいわたしそのパターンです(笑)
加藤 たとえば1番人気が1.8倍とか2.1倍とかの場合にその人気馬を軸に馬単を買うと、馬連**6とそんなにオッズが変わんないのに、その裏に返したら凄くつくってことがあるわけ。ゾロ目の時(同枠の2頭の場合)の場合なんかさ、例えば馬連3-4を買うより枠で2-2で買ったほうがついたりすることもあるわけよ。だから常にオッズを確認しながら考える。
アツ マメですね…
加藤 普通やで(笑)まず単勝人気のリストを見る。まぁどのタイミングで見るのかにもよるんやけど。例えばこのレースなんかは一番人気が4倍台とか3.8倍とかやってん。要は、こんなときはみんな迷ってるんです。わかんなくてふらついてるの、買う人が。だからつまりは、危ないってことだよね。
アツ 美味しいんじゃなく?
加藤 そう。人気に何の信頼性もないって言うこと。オッズってさ、複雑なわけよ。例えばこないだの菊花賞の時のトウホウジャッカルみたいにさ、前の前の晩にガツンとオッズが変わったじゃない。
アツ ありましたねー。
加藤 あれおそらく100万とか200万とか入ってるわけですよね、その馬に。それは情報があるとかないとかって話だと思いますよ、インサイダー的な。
アツ え、あるんですか?
加藤 それはわかんないよ。
アツ いちおう関係者は買っちゃダメなんですよね。
加藤 そう。でもさ、でも人間の事やからさ、自分も儲けたいわけじゃないですか。もし競馬村の中の人が感触として、あの子は調子いいから絶対来る、3着以内にはとりあえず来るとかがわかってたらさ、誰かに頼んででも買うでしょ、ていうか、あっても不思議じゃないでしょ、株のインサイダーと一緒で。
アツ うん、むしろないほうが不思議ですね。
加藤 だからさ、そういうのも含めて、オッズっていうのは人間の思惑を表してるわけやから、馬券を考えるファクタとして、オッズっていうのは大事ですよ。面白い。
アツ そうですね。多分それありきで考えないと、わたしのように取って負ける、と。
加藤 まぁ走るのは結局馬やから、勝ち負けはそこでつくんやけど、前回話したみたいに、馬券の話がないと、この競馬っていうゲームにコクがなくなるわけです。だからこそこうやって、大事なこととしてここに書くわけ。そんでさ、決めるのもオッズが重要なんだけど、削るときもオッズが大事。例えばこの2番のアイヴァンホウ。単勝人気71.8倍。こいつから流していったらけっこうつくわけですよ。で最初はぼく、これを5枚ずつ買おうと思ったの。
アツ おっと。流石に買いすぎでしょう(笑)
加藤 そう、自分の欲しい数だけ買ってたら当然予算からはみ出るわけじゃない。だから削っていく作業になる。そんときにオッズを見て、これは別に1枚でいいか、って。
アツ なるほど… 勉強になります(笑)
加藤 で、こんな風にオッズも含めてあれこれあれこれ考えていくなかで、頭はやっぱりこいつやって。
アツ エピファネイアですか。
加藤 うん。
アツ でも加藤さん、最初っからずっとエピファだなって言ってましたよね。
加藤 そうだったね。
アツ 今回はスミヨンが乗るということで、鞍上が強化されるっていうのが大きかったんですか。
加藤 まぁそれも大きいけど、こいつ実はね、準三冠馬なんだよね。皐月賞2着、ダービー2着、菊花賞1着。それってもうほぼ三冠に等しいわけよ。ダービーでキズナに負けて。ほとんど僅差でさ、しかも躓いて負けて。だから、もともとすごい力のある馬で、実は世代最強馬だって言われてて。ここはこいつかなって。
アツ わたしは去年の秋から競馬をちゃんと始めたので、ちょうど一年経ったところなんですが、前回のインタビューで加藤さんが言ってたように、競馬っていうものが「続くもの」で、何年前から、ヘタしたら何世代前から見ていったほうがコクがある、っていうのがやっとここ最近わかってきました。実感として。
加藤 でしょ。エピファネイアのお母さんがシーザリオっていう無類に強い馬で、実はイスラボニータのお母さんとアメリカのオークスをいっしょに走ってて、とかね。
アツ そういう楽しみも、その当時をつぶさに見ていくとまた格別なんですね。わたしは今の三歳世代からしかそういうふうにはちゃんと知らないので。
加藤 そうね。ぼくは例えばこのレースに出てる馬のなかでもお父さんやお母さんの何頭かは現役で見てるんだけどさ、ステイゴールド、ハーツクライ、ディープインパクト…。で、たとえばこのトーセンジョーダンのお父さんのジャングルポケット。この馬はトニービンの血統で、ダービー馬で、このジャパンカップも勝ってて、実はこの東京競馬場でいちばん怖い血統なんだよね。トーセンジョーダンはもう8歳で年取ってるから買わなかったんだけど、ぼくは東京競馬場でのレースでは、いつもこのトニービンの血統を探してるわけです。
アツ ああ~、なるほど。例えばゴールドシップは阪神競馬場に強いとか京都競馬場はトーセンラーの庭だったとかですね。
加藤 そうそう。そういうのを血統のなかにも探すんだよね。馬場によって特性が違うってのがだんだんわかってくるでしょ。例えば東京競馬場だったら直線が長くて、中山競馬場は小回りでコーナーがたくさんある。コーナーがあるってことは器用さが求められるってことですよ。加速したり減速したりちゃんとジョッキーの言うことを聞くとか、一瞬の足が使える脚質であるとか、そういう資質ってのはやっぱり引き継がれてるよね。
アツ この親にしてこの子ありっていう。
加藤 うん。ただまぁ、そんなものはそれこそボヤンとした統計学のようなものであってさ。闇雲に信じてるってだけなんですよ(笑)
アツ でもそういう話はよく聞きますよ。まぁ確かに親が優秀だったからといって子供が全部引き継げるとは限らないわけですけどね。
加藤 そうそう。
アツ でもまあ統計学ってのは叡智ですからね、わりとアテになるもんなんでしょうね。
加藤 わかんないけどね。でもそんなことをぼんやりと思ってて、常にあれこれ考えてはいるんだけどさ、当たらないよね(笑)
アツ 以前加藤さんが教えてくれたウェブサイトで、競馬の格言っていうものの中に、「一に格、二に調子、三に展開」ってのがありましたよね。格って血統とかのことでしょう。生まれ持った特質とか。まずはそこってことですよね?
加藤 そんなのあった?
アツ え、自分で教えてくれておいて忘れてるんですか、まさか見てないとか。
加藤 うーん、つねにでも「何となく」やで。
アツ フワッと。
加藤 うん。何となくこいつかなぁとか、名前が好きとか、アツコみたいに芦毛が好きとか。スタートはそこやと思う。で、それを検証していく時の根拠として、自分流に何を持ってやるかっていうのは、人によって違うわけです。もちろんそのフワッとした感じとか、諸々のキャリアとか、データとか、いろいろあるんだけどさ、けっきょく自分の根拠をどこに持つかだけの話で、これっていわば、宗教みたいなもんなんだよね。だからけっきょく、いわゆる「フォーム」ってやつをどこに持つかっていうことですよ。なぜフォームかっていうと、つまりそれは「筋を通す」っていうことなので、それがないといろんな事に対処できないんだよ、決められないっていうか。
アツ わかります。出来ない。決められない。
加藤 でしょ(笑)
アツ 競馬新聞をこうやって見ても、いろんな予想家さんがいて、それこそ格であるとか、馬体であるとか、或いは調教の談話だとか…みんなエエ事ばっかり書いてて、どれを信じていいかわからないです。
加藤 そうそうそう。だからそれは情報であって、最終的には、自分のフォームをどこに持つかっていうことでしか物事は決められないんですよ。これは競馬に限ったことでないけど。なんでそうかっていうと、そうして決めたら後悔がないからやねん。
アツ うーんなるほど。なるほどー。
加藤 だからそれでダメだったらしょうがねえやって。だから一番ダメなのはフォームを崩すことなんだよね、それすると後悔になるんです。がっかりする、自分に。
アツ 残念で仕方がないですね。でも、そのフォームっていうのができるまでどれぐらいかかったんですか? 一年じゃなんにも見えてきませんが。
加藤 わかんないねー… うーん、だからそれはその、なんていうのかな、取った時のあれかな。
アツ ああ、そうか、その「良いイメージ」をもとにするんですね。その時はこうやった、って。
加藤 そうそう、多分そうやと思う。ぼくのひとつのフォームはさっきも言ったように4番人気から1番人気の馬単で、これはどのレースでも買い続けてる。今回のレースはそのパターンでの勝ちじゃなかったけど、でもこれ見て、ここ。
アツ 9→3。イスラボニータ→ジェンティルドンナ。あれ? イスラって確か5番人気じゃ…
加藤 ぼくが見た時は4番人気やってん。
アツ 何時ぐらいに見たんですか?
加藤 えーとね、前日の5時ぐらいに出るやん、前日オッズ。まずだいたいそれを見て、もうあとは殆ど見ない。もちろん変わることもあるけど、変わったら変わったでしょうがないやって。だってオレの4番人気だもん(笑)
アツ なるほど、前日の夜に加藤さんが見た時点での4番人気ってことですよね。まぁね、「オレ」が買うんやもんね(笑)
加藤 そうそう。ぼくが見た時の4番人気で。このレースにしても、最終的にエピファが4番人気になったけれど、ずっとイスラだったんですよ。
アツ そうでしたよね。そこらへん、3~5番人気ぐらいまで、ジャスタも含めて最後まで流動的でしたもんね。
加藤 うん。でも結果的に来た馬が4番人気だったらさ、「ほら見てみぃ」ってなるやろ(笑)
アツ なんかズルい(笑)
加藤 (笑)まあでも、この4→1っていうフォームは、いくら何をうたがってても、目をつぶってでも、とにかく毎回買う。
アツ わたしにしてみたら、毎回買う新聞すら定まらないんで、「フォーム」なんてとてもとても…
加藤 競馬新聞もね、変遷してきたよね。誰の予想がいいかとかさ。今は誰でもいいけど。
アツ え、誰でもいいんですか?
加藤 うん。誰でもいい。そういうこだわり全くないから、極端な話新聞なんて買わなくてもいいくらい。まぁ、昔はいろいろあったけどね。日刊ゲンダイの藪中とかさ、一馬の清水成駿とかね。それのいちばんで「競馬の神様」って呼ばれてたのが大川慶次郎っていう人でね。彼は1Rから最終12Rまでを全部当てる、パーフェクトってのを4回ぐらいやっててね、だから神様なんだけど、大川慶次郎のフォームは「展開」なんですよ。「展開」のストーリーを競馬予想に持ち込んだのはこの人。例えばね、ペースが早くて、逃げ馬が1分を切るようなペースで走っていくようなレースは、前が崩れていって後ろから差し馬が飛び込んでくる、とかね。もちろんレースって常に同じように動いているわけじゃないから、馬場によったりもろもろによっていろいろ違うけど。馬って一瞬でしか脚を使えないから、常に全速力で走ってるわけじゃないでしょ。だからパカパカ走ってて「ここだ」っていうときにジョッキーがサインを出してガンって行くっていうことやんか。たとえば、逃げ馬なら先頭を走りながらペースをちょっとずつちょっとずつ上げていって後ろの馬に脚を使わせていって、最後ヒュって逃げこむ、とかさ。それだって後ろから突かれたら自分だってまんまと脚を無駄に使っちゃってうまくいかないこともあるしさ。
アツ 馬とジョッキーと陣営の作戦と心理状態も推理するってことですね。
加藤 あと相手ね、誰と走るかってのも大きく関係する。
アツ 要はそういうことをもろもろ推理してレースっていう物語を作るってことですよね。展開を読むっていうのは。うーんやっぱりキャリアがないと出来ないですよね。
加藤 いやいやそんなことはないよ。自分の物語だからさ。誰だってそういう物語を作って買ってるわけじゃない。
アツ いやぁ…わたしそれが見えたのってダービーの時**7だけなんですよね~…。それだって皐月賞のワンアンドオンリーを見て、負けちゃったけど上がり最速だったし、内枠だったしだから「何となくそんな気がする」ってだけだし。まだまだです。
加藤 いや、でもぼくだってさ、ジャパンカップを会心に当てたけど、エピファネイアがまさかあんなレースするなんて思ってなかったですよ。道中前の方にジェンティルドンナがいて、その後ろでエピファが走ってて、ジェンティルがタレたところをかわしていく…って絵を描いてたけどね。まさかジェンティルより前にいて、あんな早いスパートをかけて、ヘタらずに、しかもあんな強いレースをするなんてさ。さも絵に描いたように当たってるけど、ホンマのところはそんな、絵に描いた通りってことはないんですよ。そういうもんやん。
アツ まぁそれはそうでしょうけれども、とりあえず加藤さんは毎回毎回、ストーリーをちゃんと作るわけじゃないですか。夜な夜な遅くまで考えて(笑)
加藤 適当やけどなあ、でもまぁやったほうが楽しいやんか。
アツ まずその馬その馬の脚質とかどういうとこに強いとか、そういうデータを覚えないとですね。なかなか覚えられないですけど、いっぱいいすぎて。
加藤 1~2度見た馬は覚えてるよね、だいたい。今回のジャパンカップなんかは、外国馬はさておいても、もうそういう見たことある馬のオンパレードだったやろ。1のジャスタウェイは今年の安田記念で負けそうなところをインから脚伸ばして勝って、おお強いよなって。しかも柴田善臣**8で。あとあのドバイの時の圧勝**9。
アツ あれは強烈でしたね。
加藤 な、覚えてるやろ。3のジェンティルドンナはこないだの天皇賞2着。ここにも出てるスピルバーグに負けたんだけど、やっぱり強かった。あの時にいわれてたのは、ジェンティルの馬主も調教師も実は、ジャパンカップの3連勝と2億5千万という賞金を狙ってるのは間違いないから、天皇賞はきっと叩き台だし、そんなに力は出さないんちゃうかってね。で、多分そうやった。しかも休み明けでね。そんなに期待しないよね、ふつう。
アツ 言うてましたね~。「ジェンティルは今回来ない。俺はイスラボニータで勝負や!」って。
加藤 あれ? いうてた?
アツ いうてましたよ(笑)わたしはジェンティル買ってて、とりました。ケーキ驕りましたよね、あの時。
加藤 思い出した(笑) 4のエピファネイアも天皇賞出てたけどさ、福永(祐一)が乗ってて、全然いいとこなかったなあ、あのときは、買ってたけど。5のヒットザターゲットはあんまり良く知らないけど、武(豊)が乗ってそこそこ掲示板には載ってると。6のハープスターはいちおう少し買ってるんだけど、この子はご存知のように、凱旋門**10でダメだったんですよ。あのレースであの展開でいい脚使って、日本馬の中で最先着って言ってもさ、あんなレースしてたら勝つもんも勝たれへんよね。
アツ ダメでしたね~。毎回おんなじ事しかできないのかよって。馬が、っていうよりジョッキーの川田(将雅)さんが。
加藤 ね。まぁ言ったらこの川田ってやつはヘタレなわけですよ(笑)
アツ ね(笑)多くの女性ファンを敵に回す覚悟で言いますと、まぁヘタレ野郎ですね。
加藤 ハープは今回休み明けで、まぁ実力もあるし今回なんかハンデ53kgなわけじゃないですか。これは大きいですよ。
アツ 大きいですよね。わたしは凄く期待して軸にしました。3歳の最強女子。
加藤 でもね、じつはこいつは東京2400mで負けてるんだよ、オークスで、ヌーヴォレコルトに。桜花賞にあれだけ圧勝して本当に強い馬ならオークスでも負けないですよ。
アツ ハァ…。
加藤 ぼくは今年は川田はダービーのトゥザワールドで苦い思いをしてるし、アカンと思ってるから、買いにくいんだよね。すごく。
アツ 加藤さん言ってはりましたもんね、「今年は川田の年やで」って。
加藤 そうそう。あんだけ強い馬、ハープスターとトゥザワールドに乗らしてもらっててさぁ、クラシックもなんだったら五冠いけるって言われてて。
アツ けっきょく桜花賞しか取れませんでしたね。
加藤 よう勝たんかったなぁ。なにが悪かったんかようわからんけど、けっきょく、それは駄目だったってことだよね。だから馬券にならない、出来ないってことだよね。
アツ マイナス要素としては大きいですよね。
加藤 馬の問題とジョッキーの問題も含めてハープは買えないよね。次は…8のデニムアンドルビー。この馬はわりと気にはなってる。強いやろなぁと思ってる。だってこいつ去年3歳馬で2着じゃない、このレース。しかもジェンティルに激しく迫って惜しくもって感じで。
アツ はい、去年はおかげさまで勝たせていただきました。ジェンティル−デニム。馬連ですけど。たしか取って負けみたいな感じでしたけど。
加藤 取っただけエライよ。でも今回はデニムは4歳で、去年よりハンデが2キロ増えてるのが引っかかってね、天皇賞で案外アカンかったし。でも最後まで気にはなってたよね、しかも角居さんの厩舎だしね。エピファとこいつと。厩舎ってのもけっこう重要だよね。やっぱりその時ハマるっていうか、トレンドの厩舎ってあるよ。
アツ え、どういうことですか?
加藤 調教の仕方がその時の競馬のトレンドに合うっていうか。たとえば栗東に販路の練習コースが出来たとき、当時の栗東の調教師の先生は誰も見向きもしなかったんだよね。
アツ いつぐらいの話ですか?
加藤 ミホノブルボンの頃だから…20年前くらいかな。当時誰も見向きもしなかった栗東販路に目をつけた戸山為夫っていう調教師が、この馬をそこで鍛えて、血統的にはマイラー**11って言われてたのに、皐月賞(芝2000m)も勝ったしダービーも勝った。この戸山先生ってのがものすごくハードトレーニングで有名な先生でさ。そのトレーニング方法がこの馬と当時の時代にはまったんだろうね。たとえば、野球だってサッカーだって監督によって変わるじゃない。それがバーンとはまるときってあるよね。その世界の流れに。そういうことで、いまの競馬のトレンドにはまってる調教師が、栗東では角居さんだと思うんだよね。ちょっと前ならハープスターのマツヒロ(松田博資)ってのがはまってたよね、昔気質やり方で。
アツ 調教の仕方って言うと…「藤沢先生のとこは調教がユルめ」ってことぐらいしか知らないですけど。
加藤 藤沢先生も何年か前のトレンドだった人だよ。90年代中頃から10年以上、めちゃめちゃはまってた人で、「とにかく藤沢の馬買っとこう」って時代があったからね。調教師って、基本的には大きく分けると、ジョッキーとか調教助手から上がってくる人と、まったく別なとこから上がってくる人がいるんだけど、つまり叩き上げ派の人と理論派の人。
アツ 馬の扱いが変わるっていうことですね。
加藤 そうそう。藤沢先生は馬の気持ち派で、馬優先主義っていうのをあげてて、でしかも、レースに勝つだけが競馬じゃなくてその上、次(牧場)に持って行くことも考えてる。だから馬を潰しちゃダメ。で、松田国英っていう調教師がいてさ、こいつはよく馬を潰すんだよね。でもでかいレースを取るんです。一戦必勝で、レースに勝つのが競走馬だから、そのために鍛えるって。勝つためには、しんどいかもしれんけど、ビシビシ鍛える。そのために屈腱炎とかになることもあるけど…でもそうやって鍛えたおかげでダービー勝てたり。それはそれでさ、ひとつの理屈じゃない。それでハッピーになればね。
アツ 好き好きですけどねぇ。わたしが馬ならば藤沢先生の厩舎に入りたいな(笑)
加藤 それぞれ調教師の哲学の問題かな。
アツ 哲学ですか… じゃあ角居さんが今のトレンドに合うっていうのはどういうところなんですか? つまりは今の競馬界に合う哲学、ってことですよね?
加藤 何やろ… ちゃんと考えてるってとこかな。二回同じ失敗はしない。クレバーだと思うんだよね。
たとえばさ、このエピファネイアは天皇賞で勝つつもりやったのにトチったでしょ。だから、この一ヶ月の間にきっと「何でアカンかったんかな、どうしたらいいんかな」って考えて、「じゃあこうしよう」って、プログラムを作りなおしてきたんやと思う。たぶんね。きっと常にプログラムを作りなおしてるはずだよ、柔軟に。昔気質の人ってプログラムなんて作り直さないでしょ。「オレはコレでやって来たんや文句あっか、コレで成績も上げてきたんやからコレで行くねん」みたいな(笑)
アツ あ~なるほど。わかりました。
加藤 藤沢さんも昔は、アメリカにトレーニングに行ってさ。それと池江さんね。オルフェーブルの。この人はお父さんも調教師で、栗東中学で武豊の同級生なんだけど、この人も、イギリスやアメリカに修行に行ってる。やっぱり外の世界を見てる人は違うよね。
アツ そうですね。
加藤 栗東や美浦のムラの中で育って大きくなっても、そこでいくら勝っても、要はムラのことしか知らんかったらさ、世界では勝てない。ものすごくクローズドな世界だからね、実は競馬ムラって。
アツ ジョッキーももっと外に出て行けばいいのになって思いますよね。凱旋門のあの負け方を見てるとほんとに。
加藤 だよねぇ…。あれ、ほんでどこまで行ったっけ…あ、そうそう。次は9のイスラボニータね。イスラはぼくけっこう行けると思ってたんだけど、レースの結果見てるとあれはもう距離の問題やね。あの展開であそこで前が開いてタイミングも悪くないのに、タレたやろ。あそこでタレるってのはもう、能力というか、適性としかおもえないでしょ。
アツ 2000mまで?
加藤 そうやなぁ。けっこうほら、買ってたんやけどなぁ軸で…。10のワンアンドオンリーは買いにくいんだよなぁ。
アツ なんかねぇ。どうしてなんでしょうね、ダービー馬なのに。評価もあんまりされてないし、実際あんまり伸びないっていうか。でもこの子に関しては東京2400のイメージは悪くないんです。今回だって結果ほら、割といいとこ来たし。
加藤 でもなぁ、何となく無いねんなぁ。何でかわからへんけど…。で11、トーセンジョーダンね。これはもう歳やからね。これもう8歳でしょ。昔とJRAの馬の歳の数え方が変わってるから、昔でいうところの9歳。「8歳(今でいう7歳)は買わない」っていうのもぼくのセオリー。
アツ でも6歳から覚醒した馬とかも聞きますよね。ホクトベガとか…
加藤 たまにいるよなぁ。まぁでも、ホクトベガなんかはダート馬で、ダート馬は芝馬に比べて競走馬生命長いんだよね。芝のレースは消耗するからなぁ。まぁ年とった馬は買わないよ。で、12、13、14はあんまり知らんから置いといて、15。こいつ。
アツ スピルバーグ。
加藤 こないだの天皇賞で1位。あのレースは見どころあったよなぁ。距離も不安やったけど、悪くなかった。
アツ もしかしたら、この秋に覚醒してるって言われてますもんね。
加藤 してるとおもうで。去年だってジャスタウェイが、あんだけダメな馬だったのにいきなり秋の天皇賞で覚醒してるわけでしょ。そういうパターンがあんねんなって。
アツ なんなんでしょうねそういうのって。
加藤 何やろなぁ。身体が早熟なやつと奥手なやつとの違いやと思うんやけどな。調教師の育て方もあるやろうし… 4~5歳が競走馬の全盛期だしね。何にしてもこいつは目覚めてるでしょ。3着でしょ。
アツ 上がり最速**12でしたもんね。
加藤 これはこの先あるでしょ。楽しみだよね。で、16。フェノーメノ。こいつはねぇ…前走(秋天14着)があまりにもだらしなくてさ。調教師もジョッキーも、「なぜ走らなかったのかわからない」って言ってるんだよね(笑)
アツ そんなこと言われてもねえ。
加藤 なぁ。すごく人気あってさ、ジョッキーの蛯名も悪くないし、鉄砲**13もきく馬だし、調子も悪くない。春の天皇賞2連覇してる馬だからね、絶対強いやん。オレもあのときいくつか買ってたんだよね。なのにあれ。あの負け方は気に入らん。なんか理由はあるはずやねん。
アツ さすがに何かあるやろうっていう負け方なのに、陣営が「わからない」てねぇ。あなた方がわからないなら我々もわからないでしょう(笑)
加藤 駄目でしょう。買えないです。…であとは外国馬でしょ。
アツ それにしても、ざっと見て18頭の中で、これだけ知ってる強い馬が出てたんですね。まさに現役最強馬決定戦。
加藤 ねぇ。これでアレが買えたのは奇跡に近いですよ。
*奇跡
アツ 奇跡。今日はじつはそこを聞きたかったんですよね。今回のジャパンカップは4→1、エピファネイアとジャスタウェイが来たんですが、加藤さんは昨日の時点では、ジャスタウェイを全く選んでいないんですよね。で、当日の朝になって突然入れている。ふつう、あんな馬を選ばないなんてありえないし、そこら辺がへそ曲がりもいいところなんですが(笑)でもとにかく突然、閃いた。今回のこのジャスタウェイと、覚えてますか、いっしょに阪神競馬場に見に行った今年の宝塚記念**14での、カレンミロティック?
加藤 ああ~ あったねえ。
アツ あの時もそうでしたよね。何故か突然、閃いて、それが勝ちにつながったパターンです。格であるとか調子であるとか、そういったデータではないところの、カンというか。実際のところ、ギャンブルにおいてそのカンっていうのが重要というか、素質なのかな、という気がするんですが…
加藤 うーん。素質はないんですよ、全くね。でもね、そういうことがあるっていうことを、「信じてる」ってことなんだろうな。それは体験の中でしか出てこないことなので。
アツ ミラクル?
加藤 うーん、ミラクルじゃないんだよなぁ…競馬に限らずやけど、そういう、人知の及ばないところに何かしらがあるってことを「信じてる」。そういうものの存在をね。まぁ、ある意味オカルトなのかもしれんけど。これは仕事においても、人間関係においても、そういうものがどこかしらにあるってこと。で、競馬の話でいうと、そういうものがあるってことは、まず見ないと信じられないじゃない、ふつうは。ってことは、そういう体験を目撃したり、自分でやったりしたことがあれば信じられるっていうことでしょ。
アツ そうですね。わたし自身は話だけ聞いてても、目の前で加藤さんが当てたの見ても、まだウサンクサイというか…(笑)
加藤 そらそやろなあ(笑)、自分で体験しないとわからないと思いますよ。それは大なり小なり、そういったことの蓄積のなかで感じることであってさ。そういうのでいちばんシンボリックに覚えてるのが、イナリワンって馬に柴田政人っていうジョッキーが乗った有馬記念(1989年、第34回)。何年前かなぁ…。ぼくがいちばん競馬に凝ってた頃で、そのころ一緒に競馬をやってた人と、有馬記念の前の晩に朝方までかかってわいわいがやがや予想をしてたわけですよ。で寝て起きて、さあじゃあ有馬記念だ、ってときに、前の晩に買って食べてたいなりずしが、一個ポロンと残ってたんですよ。
アツ まさか…(笑)
加藤 うん(笑)お稲荷さんが1個。「これイナリワンやろ、行っとこか」って(笑) で、ズドンと来たわけ。
アツ 凄いですね… 神秘としか言いようがない(笑)確か、宝塚記念のカレンミロティックは馬番5番で、第55回宝塚記念、タカラヅカ→男装→オ○マ→せん馬→カレンやん!みたいな話でしたよね。
加藤 そやったっけ。
アツ 駄洒落かよ!しかもめっちゃ強引だなぁって。でも来ましたからねー。びっくりした。
加藤 でもまぁそういうたぐいの、一概に言えば「シャレ」みたいな話ね。まぁ今回のスミヨン**15もそうなんやけどさ。こういうシャレみたいな話も含めた総体の中に、我々の手の届かない何かしらの、何やろ、天啓とか、神の思し召しとか…
アツ まぁ結果論だし、物語は後からついてくるんでしょうけど、ときたま、ほんとにときたま起こるから面白いですよね。
加藤 世の中って、LIFEって、そういうことってホンマにあるやんか。何それ、そんなことあり得るのん? みたいなこと、いいことにおいても、悪いことにおいても。でそれって、ぼくは別に神を信じてるわけじゃないけど、目に見えない何ものかの力っていうのかな、そういうのがあるわけでしょ。で、まずそういうものがあるっていうことを、知ってるというか、感じてるっていうか、信じてるっていうか。カレンミロティックの話はぼくは忘れてたけど、何となくそこへ「導かれてる」ようなもんでさ。自分が買った気がしてないわけですよ。
アツ 今回は?
加藤 やっぱり似たようなもんだよ。ただ常にね、例えば予算のワクが全体で100枚(1万円)あるとしたら、そのなかで10枚(1000円)分ぐらいは残しておこうっていう気はあるんだよね。
アツ なんか閃いたとき用のワクですか?
加藤 そうそう。全部決めきらないで、最終的に投票するまでに、なにか思いついたとき用のね。その日その時だけにしか来ない何がしかのことがあるぞ、って。それが来たときに、ワクが残ってなかったら買えないわけじゃないですか。だから必ずワクは最後まで残してる。それはいわゆる準備運動みたいなもんだよね。
アツ 突然何かが起こってもいいように。
加藤 そう。準備運動だけはしとく。それをしとかないと何も起こり得ないから、ある意味周到に。
アツ 今回のジャパンカップは、確か当日の朝、お風呂に入ってて勃然と思いついたって言ってはりましたよね。
加藤 そうそう、そうやったな。まぁいつでもG1の前の晩はそうなんやけど、今回も前の晩3時か4時頃までウダウダ考えてて、なんとなくまぁ寝たんだけど、そのときに思ってたんですよ。「まだ決めきれてないよなぁ」って。モヤモヤってしてるんです。「ああもう明日の朝決めよ」みたいなね。
アツ わたしはいつだって最後までずっとモヤモヤしたままですけどね(笑)
加藤 beforeはこれです。寝る前まではこうだったわけです。1(ジャスタウェイ)の影も形もない。
アツ 前の晩のTVで、アンカツ(**前回インタビュー脚注参照)がイチオシしてたからってのもあるんですか?
加藤 うん、まあそれもないことない。だからそういうことを総合的にモヤモヤしてるわけです。ほら、実は消してるでしょ、ここ。1−4と1−6。
アツ あ、ホントだ。
加藤 1は書いて消してたんです、じつは。そのときは「ない、絶対ない」って。
アツ この時点では、色々と展開を推理して消したわけですよね?
加藤 そうそう、理屈としての、筋道としての予想なわけ。
アツ これが翌朝になって突然閃いたと。
加藤 うん、今回はね、最初からずっと、4のエピファと9のイスラが来ると思ってるんですよ、ぜったいコレやって。だから4−9は、ずっと変わってない。あと3のジェンティルと15のスピルバーグね。でそこらへんをつらつら考えてモヤモヤ組み合わせてるうちに、ちょっと待てと。こいつはじつは強いぞ、と。
アツ そら強いですよ。だってジャスタウェイだもん(笑)ドバイでレコード勝ち、世界ランキングトップだもん。伊達じゃないですよ。
加藤 ね。なのに何で買わないの、とね(笑)何で切ってたかって言うと、距離のことがあったからなんだよね。こいつ2400mは実績ないし、勝ってるのも2000mまでのレースだし、多分得意なのもそこらへん、1800mとか。
アツ 凱旋門も2400mで最後タレた感じでしたもんね。まぁそれ以前にジョッキーの問題とか色々あったけど。
加藤 うん。距離の問題はけっこうキツイかなって。でもさ、それ言ったらイスラボニータだってそうやし、イスラボニータをここでこんなに推してるなら、ジャスタ買わない理由はないよねって。よーいドンしたら、ひょっとしてジャスタのほうが強いんじゃないのって。
アツ 今回はでも、何かを捨てて1を入れた、って言ってましたよね。
加藤 そうそう、そやったそやった、2のアイヴァンホウを削ったんやった。なんて言うかさ、アートでもデザインでも、何でもそうかもしれんけど、一度、つくったものを反故にして、そのうえでもう一度考えてでてきたものって、結果同じところに戻ってきたとしても、中身のコクが違うじゃないですか。
アツ 絡めますね~(笑) でもなんかその、徹夜して朦朧としながらずっと考えて、明け方にハッ!て、閃いたかも!って完全に創作現場ですね、共感してくれる人が多そう(笑)
加藤 そうそう、おんなじやねんで(笑)。それで、急遽ジャスタウェイを入れた。まあね、理屈で言えばその、距離の不安とかそんなことなんやけどさ、理屈じゃない部分は、そのさっきの、目に見えないものを信じるってやつです。
アツ 閃き。
加藤 イナリワンね(笑)
アツ お稲荷さんの奇跡(笑)
加藤 まぁなんかしら他にも色々と、「嘘やろ」的なさ、そういう神がかり的なことを数々体験してるから今回は買えたんだと思うよ。
アツ ただひとつ言えるのは、加藤さんがいつもそうやってお告げのようなものに導かれて、ポッと買った馬券が毎回毎回万馬券、みたいな話だったらそれこそウサンクサイ話でね(笑)カルトかよって。でもたくさんたくさん負けてるのも知ってるし…何ならほとんど負けてるし(笑)そんだけ数を経験してる中で、それこそ綺羅星のようにポンってこういうことが起こるから面白いんですよね。
加藤 そうそう、ごくごくたまに来るのよ。
アツ 競馬はお金じゃない、ギャンブルじゃないってのも加藤さんがずっと言ってはることやし、競馬という文化やなんやそんだけ色々考えて考えて、閃いて当たった、ってのがまたコクがあります。
加藤 閃くってほどの感覚はないし、自分がそんなにギャンブルに関してシャープな才能があるとは全く思ってないし、運がいいとも思ってないよ。でも何かしら、そういう、スコーンとはまることがあるってこと、ってさ、なんか嬉しいやんか。
アツ うん、嬉しい。それですね。嬉しい。
加藤 別にさ、それも競馬だけの話じゃなくて、生きてく中でさ、そんなことがあるって思ってないとさ、生き続けられないでしょ。あ、別にエエ話するつもりはないけどさ。でも今までも生きてきて、そんなことがたくさんあったでしょ。たとえばアツコがヘイ君(夫)と出会ったのだって、そういうことやんか。
アツ うわー唐突やなあ…(笑)
加藤 でもそうやろ、理屈で出会ったわけじゃないやんか、ヒットしたわけでしょ、何かしら。なにその出会い、みたいな話なわけでしょ。それって神秘やんか。
アツ エライところにたとえられましたね…(笑) 別にうちが取り立ててドラマチックな出会い方をした、とかいうわけではないですけど…うん。そうですね。 「目に見えない力」とか「奇跡のような」とか言っちゃうと全くもってウサンクサイんですけど、でも、ありますからね。
加藤 そうでしょ。それと全くおんなじことです。そんでさ、そういうのって忘れた頃にしか来ないじゃないですか。今回はさ、たまたま取れたから結果的にこんなふうに嬉々として話してるけどさ、大体はこんなもの、「あの時はそれしか無いと思ってんけどなあ」とか「なんか降りてきたと思っててんけどなぁ」とかさ。
アツ そうですよね~「アカンかったわ」ってのがほとんどですよね。
加藤 基本的に、アカンと思ってるからさ。
アツ でもだからこそ、嬉しいんですよね。
加藤 生きててよかった(笑)。でも今回このインタビューの前のタイミングでこの大当たりが来るってのもさ、なんかの「お導き」のような気がしないでもないよね。
アツ え、そうなんですか?
加藤 誰かがさ、「ここでネタを作ってやろう」っていう(笑)
アツ お~、しかも格好のネタ。
加藤 しかもエエかっこできるしさ、「獲ったで~」みたいな。
アツ 鰻ごちそうさまでした♡ ほんと勝ってよかったですよね、加藤さん。勝ってなかったらこの話できてないですからね、全く。
加藤 「やさぐれ2はない!」って話になってたりね(笑)
アツ ホントにやさぐれてたりしてね(笑)でも今年の秋の競馬シーズンは何気にいい感じですよね、加藤さん。
加藤 そうやね、春もまぁちょこちょこと当ててはいたけど、なんかどうも本筋っていうんじゃなくて、ポテンヒットみたいなさ、ラッキーみたいな。宝塚記念のカレンもそうやけど。でもこの秋のエリ女**16からのジャパンカップの当て方はわりとね。来て欲しいところに来たっていうか。「こうなって欲しい未来」を描いて勝ったっていうか。当たり方がいいよね。
(https://www.youtube.com/watch?v=QL7SFEPrtQ8)
アツ 万々歳ですね。
加藤 でもホラ。このやっぱり最後、アレがあるから。
アツ 来た! 有馬記念!(笑)
*有馬記念
アツ 今月の28日、一年の競馬納め、第59回有馬記念が開催されます。今年はまたこれ豪華なメンバーですね。このレースを最後に現役を引退する馬も4頭。ジャパンカップでも好走したジャスタウェイ、ジェンティルドンナ、それと大魔神佐々木主浩さん所有の名牝ヴィルシーナ、わたしも思い入れの強いトーセンラー。色んな意味で凄いレースになりそうで、今からものすごくワクワクしているわけですが… 問題はエピファネイア。鞍上がなんと、「ヘタレの」川田さんです(笑)
加藤 それ問題。むっちゃ問題。なんで川田なんみたいな。さっきさんざんさあ、ヘタレたる所以をしゃべったばっかりやのに(笑)
アツ でも最後の大一番に来てこの馬に乗れちゃうってことは、やっぱり何か「持ってる」んでしょうね。今年の彼は。
加藤 でもさ、これだけ今年、馬に恵まれて、レースにも恵まれて、当然勝利数も多いし、フランスにまで連れて行ってもらえたわけで。ブレイクするなら今年でしょ。どう考えても。でもええとこで勝ってない。ヘタレな結果になった。要は結局「持ってない」ってことだよね。
アツ なるほど。裏を返せば。
加藤 そこがねぇ、乗りにくいんだよなってのが今回の有馬記念のポイントね。それにエピファネイアに関しては、こないだのレースはジョッキーの力も凄く大きいと思うよ。スミヨンもびっくりしてたくらいだからね。あれだけ行きたがって、かかってたら、普通は止まるパターンだって。でスミヨンは、はっきりと馬に意思を伝えたので行けたんだと思うって言ってたよね。「お前は俺の言うことを聞かなあかんねんで」ってことを、騎手として、ちゃんと手綱を通して強く伝えられたんだって。そういうことが出来きっていないなって思う。川田も、福永も。
アツ だいたい日本人ジョッキーってそこが出来ないっていいますね。
加藤 なんて言うのかな、これ日本の他のことでも言えると思うんだけどさ、「まず脚をためて」とか「展開を考えて」とかさ。そういうことばっかり頭に叩き込んでるけどさ、そこじゃないんだよね。まずは意志の力みたいなもの、「こいつと勝つんだ」みたいな強い気持ちがある、どんなシチュエーションになっても、どんなことがあっても行くぞ、と。そしてそのための技術や経験も持ってる、そこが、世界のトップジョッキーとの違うところじゃないかな。たとえば調教師の言うとおりに乗らなあかんとか、この馬はこうやからこうせなあかんっていう既成概念みたいなもんとか、そういう型にはめて考えるくせがあるよね、日本のジョッキーって。もちろんその型がはまった時は強いわけ。福永が乗ってたドバイのジャスタウェイの勝ち方みたいに。だけどそうじゃなくなった時に、自分の頭でしっかり考えきってなかったり、考えていてもそうするための技術や経験がなかったりしたときには本当に弱い。なんかね、サッカーの日本代表と一緒な感じがする。川田や福永見てるとね、おんなじ感じがするんだよね。わかるでしょ。
アツ わかります。ピンチになった時のあの為す術のなさ。
加藤 それはふだんから自分の頭で考えたりとか、自分の力で切り開いたりしてないからなんだよね、きっと。多分スミヨンにしてもムーアにしても、とうぜん稽古やレクチャーの時は調教師の話をちゃんと聞いていい子にしてるけど、じつはさ、「馬場に入ったら俺のモンや」って絶対思ってるはずやねん。「ごちゃごちゃ言うな、やかましい」って(笑)
アツ でもある意味当然ですよね、それって。
加藤 そう、プロやからね。プロとしてのあり方が違うなぁとは凄く思う。たとえば武豊は世界を見てて、そういうあり方のことをよくわかってると思う。んで、そういうやり方をしてるから、干されたんやと思う(武豊と社台グループは仲違いをしているというのが通説)。そういう世界やんか。それってなんかホンマにさ、日本の社会の縮図みたいな感じがするねんな。
アツ なんかわかる気がします。内弁慶。それにしてもテン乗り(初めてその馬に騎乗して出走すること)であそこまで、それこそ馬自身も知らなかったような力を出せるなんて…
加藤 でもあいつらはさ、それこそ鞭一本で世界中を渡り歩いてるトッププロだからさ。それこそクリスティアーノ・ロナウドやメッシなんかと同じぐらいのレベルだからさ。差があるのは当たり前だよね。こないだのレースをもしスミヨンじゃない、誰か日本人のジョッキーが乗ってたら、勝てたかどうかって微妙なところやと思うもん。
アツ 現段階ではまだって思いたいですけどね。
加藤 最近のことやからね、外国人ジョッキーが普通に騎乗するようになったのって。外国人ジョッキーが来るのってジャパンカップの時だけだったし。短期免許を取得して日本で騎乗するってのは、オリビエ・ペリエが最初。もう勝ちまくって、それこそ「ペリエ様」だったよね。凄かったよ。ここ10年くらいじゃないかな。
アツ じゃあ、少しずつは進歩してるんですね。
加藤 でも外からくるけどさ、外には行かないじゃない。さっきも話出たけど。
アツ 行けばいいのにどんどん。
加藤 だってさ、向こうじゃ稼げないもの。日本と違っていい馬にも乗せてもらえないし、良いレースにも出させてもらえない。武豊は、自身の絶頂期に何度もアメリカやフランスに遠征に行ってたんだよ。日本で賞金稼いで。多分、ペリエやスミヨンなんかと同じく、鞭一本で世界を渡り歩こうって思ったんじゃないかな、あの頃。稼げない、食えないかもって知りつつ決意したんだと思うよ。だから今があるんで。それをさ、やらないじゃない。日本の若いジョッキー。で、今なにが起こってるかって言うと、戸崎(圭太)とか、岩田(康誠)とか、地方競馬のジョッキーが中央で騎乗して、しかも勝ってる。アンカツが皮切りなんだけど。これってある意味、武豊がヨーロッパに行ったのと同じことなんですよ。ハングリーさっていうか。福永なんかさ、こないだなんかで読んだけど、岩田のことを「とにかく悔しかった」って。ぽっと園田から来て、自分と同じくらいの年齢なのに、自分よりいい馬に乗せてもらえる。しかもあんなフォーム(馬上で鞭を持つ手をむちゃくちゃに振り回し、腰から上が踊るように動く。一部では「焼きそば」と揶揄される)で勝てるんやろって。勝負強いし。福永にしてみたら凄く不条理で悔しかったって。
アツ 福永さんは二世でプリンスで、言ったらエリートですよね。
加藤 福永はお父さんの洋一さん**17がすごい人やし、お父さんのあの悲惨な姿を見てるから怖いんやと思う。こいつきっと、怖がってる。
アツ うーん…
*わたしの競馬
加藤 いずれにしてもさ、ジョッキーは競馬において凄く重要ですよ。競馬ってさ、まずは馬なんやけど、ジョッキーがあって、さっきの調教師があって、なおかつ距離だとか、競馬場の特性、天気、馬の体調…これはね、飽きないですよ。
アツ 飽きないし、読めない(笑)
加藤 読めないね(笑) 前のインタビューでも言ったけどさ、こんなものね、ギャンブルとしては成り得ないですよね。不安定すぎて。
アツ ただ、その中で、1年通してみてきてわかったのが、継続して見続けることでより面白さが増すってことでした。受け継がれる物語っていうか。
加藤 なかなかそういう楽しみって他にないでしょ。物語が血でつながってるって。最初の3頭の馬に始まって、ずっと何千年も血でつながってる壮大な流れの中での物語。例えばジャパンカップや有馬記念に出てる子たちのお母さんやそのまたお母さんをもぼくは現役の時に見てきたし。
アツ なんだか…大河ドラマみたいですね(笑)
加藤 そうかもしれんなあ。
アツ しかもなんて言うか、コアの部分にあるのが、馬が健気に走るっていうことだっていうのが良いですね。欲得ずくだろうがなんだろうが。健気さの競技だって気がします。
加藤 しかもさ、そのお面の子**18みたいにさ、亡くなっちゃうことだってあるわけじゃない。けっこう衝撃的やったやろ。
アツ 一週間くらい泣きました。なんていうかな、加藤さんにこうやって競馬を教えてもらったり連れてってもらったりして、加藤さんの競馬の仕方をつぶさに見せてもらっているわけだけど、わたしは多分、加藤さんと同じ競馬は絶対にできないなと思っていて。勿論真似したいところはいっぱいあるけれど、結局わたしはわたしの見方しかできないんだろうなって。馬一頭一頭にこだわって泣いたり喜んだり、でもそれでいいと思ってるんです。わたしはわたしの競馬を、これから見つけられたらいいなって。
加藤 ぼくの競馬は「やさぐれ競馬」ですからね(笑)
アツ ちっともやさぐれてないけどね(笑) 「やさぐれ競馬」のキモは「HAPPY」ってことですからね。じつは。
加藤 そうかもなぁ。
*今度こそ有馬記念予想
アツ さて、有馬記念ですが。
加藤 ぼくはワンアンドオンリーですよ。
アツ おお~。
加藤 根拠は何にもないし、そんな小器用な馬とちゃうとは思うけど、この流れで言うとね。少なくとも引退する馬はないと思うんだよね。引退する馬って、無事で帰ってくることが仕事だからね。例えばジャスタウェイなんかは既に種牡馬として何億かで約束されてるはずやし、ジェンティルだってもう母親としてオファーがあって、既に経済動物としてのプランができてるはずなんですよ。そんなね、たとえばジャスタウェイに乗って万が一にも潰しちゃったら、それこそ怒られるぐらいじゃすまないよ。お尻つねられますよ(笑)
アツ ヘタなこと出来ないですよね。
加藤 それぐらいのことなので、やっぱりまず無事に帰ってこさせることが最優先で、G1では引退する馬は勝てないってのはひとつもう定説であるんだよね。
アツ じゃあ去年のオルフェーヴル(日本の競走馬。引退レースとなった2013年の有馬記念、他馬を8馬身差で圧勝、有終の美を飾った)は何だったんですかね。
加藤 めっちゃ強かったってことだよね。軽く勝てたってことでしょ。
アツ まだまだ走れたってことですよね。半端無かったもん。
加藤 うん、だけど少なくとも調教師もジョッキーも、無事にってことだけをひたすら祈ってるんだよ。あわよくば勝てたらいいよねってのはあるけど。だから圧倒的に力の差があったら、オルフェみたいに「むっちゃ強いやん、普通につかまってたら勝てるやん」って話になるけどさ、普通はあんまり起こりえないよね。
アツ てことは、ジャスタウェイ、ジェンティルドンナ、ヴィルシーナ、トーセンラーは…
加藤 まずぼくは外す、っていうか、あんまり買う気がおきひんなぁ…
アツ じゃあゴールドシップじゃないんですか?
加藤 あいつはさぁ…当てにならへんやん(笑)
アツ あてにならないからこそじゃないんですか、年末やし。年末ジャンボ宝くじみたいな感じで、もうゴルシ君に託しちゃったらいいんじゃないですか?
加藤 いやだからさ、このレースはさ、もう言ったら条件が全てゴールドシップに「勝ちなさい」って言ってるようなもんじゃない。そこがねぇ、嫌なの(笑)そんな世の中さぁ、甘くないじゃない。そういうときこそ隙ができるんだよね。「勝たなアカン」し。
アツ でもゴルシ君は絶対勝つやろこのレース、ってときにこそ勝たないことのほうが多かったじゃないですか。
加藤 でも筋で言ったらさ、岩田が乗るしもうゴールドシップでぜんぜんOKやんって話やねんけど、だからこそぼくは外したいわけ。
アツ そうか、加藤さんがへそ曲がりだったの忘れてましたよ(笑)
加藤 ひとひねりしたいわけですよ。
アツ はいはい(笑) でもなんか確かに、今年のダービー馬であるワンアンドオンリーが、兄さん姉さんたちに引導を渡すっていうストーリーもなかなかいいかなとは思いますよね。
加藤 そうそう、ダービー馬ってその後はなかなか活躍しないってパターンは結構多いんだよね。「皐月賞は速い馬、ダービーは運の強い馬、菊花賞は強い馬」って言われてるのはある意味真実で、ダービーで一生分の運を使い果たしちゃうっていうパターンがけっこうあって、こいつもその型にはまってる感があるねん。でも、こいつ勝つとしたらここやと思うねんなあ。少なくとも、来年の春の天皇賞ではない、そこじゃないよなって思う。中山競馬場の芝2500mってさっきもちらっと話したけど、コーナーが6つもあってさ、難しいんだよね。馬の力で決まりにくい。だから器用さとか、運とか、他の要素が入ってくる。ちなみに東京競馬場がぼくは好きなんやけど、何でかって言ったら、直線が長くて、わりと馬の力で決まりやすいんだよね。
アツ なるほど。
加藤 でも中山は違う、トリッキー。ワンアンドオンリーはそんな小器用な馬じゃないから冒険やけど、ダービー馬の運と意地を見せるとしたら、ここやと思う。何となく、ダービーの時みたいに、内枠に入りそう、内枠に入って勝ちそうな、そんな気がしてるねん。そんで横山(典弘)の捨て身の感じも不気味やねんなぁ。
アツ ノリさん。あの人もなかなかに面白いジョッキーですよね。めっちゃ上手やけど、突然後方ひとりぼっち旅をしてるときもよくある。ネットでは「ノリポツン」ていう言葉があるそうですけど、「馬が走りたくないみたいだったから」って。
加藤 あいつももうええ歳で、だんだん40過ぎてくると、そういうふうに「我」みたいなもんが出てきておもろくなって来るねん。個性が際立ってくるっていうか。若いうちはそれこそ調教師の先生の言うこと聞かなあかんし、先輩もいるしやけど、年長になってきたら、ジョッキーとしての残りの時間のことを考えるようになってきたんやと思う。武豊もそうやと思うけど。ぼくがいつも言ってるようにさ、歳取ってきて残された時間が短いことを思うと、もう嫌な事とかやってられるかい!って思うねん。だから思い切ったこともできるし、横山はまぁしっかり稼いでもいるし、もうここで干されてもこのレースに勝てたらええわって思ってる感じが凄くある。だからね、このリストで見てるともう、この馬かなぁって思うよ。
アツ そうか~~。ワンアンドオンリーかぁ~うーーん…いや…この子わたしが初めてダービーをやって初めて勝った馬なんですよね。
加藤 そうだよね。
アツ でもね、この前のジャパンカップで信じてあげられなくて、買わなかったんです… 迷ったけど。それまでずっと買ってきたんだけど。
加藤 なにその不義理な感じ(笑)その不義理は実はアカンねんで。一枚でも買うとかなあかんかってんで。その義理を外すとしっぺ返しが来るよ(笑)
アツ この子が来た時に「あああ」ってなっちゃったらって考えるともう…… よし、買おう。
加藤 追いかけることしか無いですよ、そういう子はね。もう縁やと思って、目をつぶってでも買っとくべきですよ。さっきのオカルトの話じゃないけどさ、そういう、何かしらの、目に見えへん縁みたいなものがあると思ったほうが、いいで。
アツ ハイ。
加藤 それは競馬にかぎらずやから。
アツ 不義理は良くないですよね、確かに(笑)
加藤 そやろ。不義理は良くないっていうか、普通にダメなものは、馬券でもダメなんですよ。因果応報みたいなもんで。
アツ なるほど。
加藤 だからさ、このジャパンカップはさ、アツコがワンアンドオンリーを買わなかった時点で、「お前は既に負けている」って状態になっていたわけですよ(笑)
アツ くぅ~~(笑)
加藤 もうさ、たとえ外すってわかってても。100円の単勝でもいいからさ。なにかしらもう、まじないがわりにね、アクションする。思うだけじゃなくてね、何かしら「覚悟」みたいなもんを示す。別に誰に示してるわけでもないやんか、神さんでもないし。まぁ言ったら自分に対して、その覚悟みたいなもんを示していくことで、「馬券」がきっちりしたものになっていく、っていうか。
アツ …なんか丸め込まれてるような気もするけど(笑)でもわかる気がします。ある意味恩返しですね。その馬へのお礼っていうか、筋を通すっていうか。
加藤 でしょ? だってねぇ、勝った馬はやっぱり離れられないですよ。俺だってここで今さ、ワンアンドオンリーって言ってますが、実際のところエピファネイアを買わない訳にはいかないですよ。
アツ たとえ川田くんが乗ろうとも(笑)
加藤 そうそうそう。川田じゃなくてスミヨンやったらドーンみたいなもんやけど、川田イヤだなーと思いつつも、買わなきゃ怒られる。誰に怒られるねんっていう話やねんけどな(笑)
アツ でもそれ言ったら前回ひらめいたおかげで2着に来たジャスタウェイも、宝塚記念のゴールドシップもみんな買わなきゃいけないじゃないですか。
加藤 いやゴルシはポテンヒットだから(笑)
アツ 有馬記念ぐらいになると、出走馬がもう豪華すぎて、それこそ「お世話になった馬記念」っていう感じですよね。
加藤 杉本清じゃないけどさ、「あなたの、そして私の夢が走っています**19」だよね。
アツ わ~、名台詞だわ~
加藤 なんていうか、勝つ勝たないよりも、「勝って欲しい」馬の馬券を勝って応援する、そういうレースだよね、有馬記念。
アツ いいなぁ、その年末感!
加藤 いいでしょ? そういう素敵なあり方もありの、お金に困ってジリジリっていう側面もありのっていうね。
アツ 尻に火が付いて(笑)
加藤 有馬記念はね、なにがあってもおかしくないレースやからね。
アツ それこそ馬場の中でも外でも。
加藤 日本ダービーみたいな「ハレ」な感じじゃないんだよね。気候的にもそやしさ。昔はね、日本の冬のレースって芝のコースも緑じゃなかったんですよ。
アツ 海外のジョッキーが来て「どこに芝のコースがあるの?」っていったって話ですよね。ダートかと思ったって。
加藤 そうそう。昔の中山競馬場なんて冬はまっ茶色。オーバーシードするようになって冬も緑になったけど、その冬枯れの感じがいかにもさ、暮れの侘びしさをさ。しかも日が短いやんか、そうすると、もう3時半とかになってきたら、薄暗くなってくるわけよ。
アツ ウィニングランして表彰式とか、とっぷり暮れてますもんねぇ、毎年。
加藤 もうね、五月晴れで、「必ず晴れる」って言われてる日本ダービーの「ハレ」感との対照的な姿ね。だからかな、有馬記念は変なドラマが起こるんだよね。前回もちょっと話したけど、落馬はあるわ奇跡の復活はあるわ…あっと驚く馬が来ることもあるわでさ。
アツ マツリダゴッホとか(笑)それこそ魑魅魍魎湧いて百鬼夜行す、ですね。みんなが年の瀬でうわーってなってるところですし。でももう既に、頭のなかは有馬記念でいっぱいですよね。
加藤 もちろんですよ。まずはワンアンドオンリーの単から。こうやってね、言葉に出して言っちゃうのがいいんですよ。モヤモヤしてたのが吹っ切れるっていうことでね、腹が決まるというか。言霊的な。
アツ あ、言っちゃった、みたいな?
加藤 そうそう。だからね、競馬の友だちがいるっていうのはいいことなんですよ。
アツ 来年もまた一緒に行きましょうね、競馬場。そして食べましょうね、鰻(笑)
加藤 いいですね~。しかもね、来年のぼくのテーマは3連単ですよ。
アツ 新しい! さらに勉強。もう一生やっててください(笑)
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世界は矛盾に満ちている。
たとえば過日の選挙なんかはその最たるものだし、もちろん競馬もそのひとつの典型には違いないけれど、競馬には賭博がもっているダークサイドと表裏一体の「おかしみ」とでもいうべき明るさのようなものがあって、ぼくはもう長い間それに魅了され続けている。
それはきっとサラブレッドという生き物がもっている美しさや健気さや儚さに起因するものなんじゃないかと思うけれど、あらためてそんな風に思いはじめたのはじつはつい最近のことで、この談話を手伝ってくれた笹倉アツコさんと競馬を愉しみ始めたことが、そのひとつのきっかけになっているのは間違いない。
どんなことでも30年近くやっていると、マンネリというか停滞というか、なにかしら澱みのようなものが起こるのはしかたがないことだと思うが、そんなぼくの競馬生活において、その澱をきれいに洗い流してくれた彼女に、あらためて謝意を表したい。
新しい気持ちで競馬というものを感じはじめたからこそ、この企画が生まれたわけだしね。
この企画のタイトルを「やさぐれ」と名づけたのは、ぼくがひたすらそれに憧れているからで、このインタビューの中で彼女に鮮やかに見抜かれているように、ぼくのそれは、「やさぐれ」でもなんでもなくて、植物が太陽に向かってのびていくように、ただひたすら気持ちのいいことにむかって、走り続けているだけのような気がしている。
その姿が、ターフを駆けるあの子たちのように美しく健気だったらいいなあと思うけれど、そうじゃなくても、まあかまわない。
気持ちいいことなんだから、死ぬまでやめないよ、来年もダービーを観なきゃなんないからね。
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このインタビューのあと、12月28日に開催された有馬記念は、JRAではじめて行われた公開枠順ドラフトで2枠4番を指名した牝馬ジェンティルドンナが、道中3番手からゴール前の直線で、早めのスパートをかけた川田鞍上のJC馬のエピファネイアを交わし、追いすがるゴールドシップとジャスタウェイを凌ぎきって、7つ目のG1勝利を獲得した。2着には好位のインから馬群を割って鋭く伸びた3歳馬トゥザワールド。
ジェンティルドンナの鞍上は、地方競馬からJRAに移籍し、2014年の年間リーディングジョッキーのタイトルを獲った戸崎圭太、トゥザワールド(もともと川田騎手のお手馬だった)にはアメリカから短期免許で来日しているウィリアム・ビュイック、図らずも地方競馬出身と外国人のジョッキーという、現状の競馬トレンドを象徴する結果となった。
ちなみに、この日の中山競馬場の来賓は長嶋茂雄氏、彼の背番号と同じ3番(やっぱり内枠にはいった)のワンアンドオンリーから勝負していたぼくは、小躍りして喜んだけど、2500m先のゴールに真っ先に飛び込んだのは、誕生日が長嶋さんと同じ2月20日の女傑ジェンティルドンナだった。そういえば、今年のダービーのときも、来賓だった皇太子殿下と誕生日が同じ馬、ワンアンドオンリーが(このときは鞍上の横山騎手も馬主の前田さんも誕生日が同じというミラクル!)が勝ったんだと思いだしたけど、後の祭り。
もちろん4番人気だったジェンティルドンナから1番人気のゴールドシップへのセオリー馬券はもっていて、2着が写真判定になったときにはひょっとして、とも思ったけど、奇跡はやっぱりそんなに続けては起こらないよね。
12月28日 中山10R 第59回有馬記念 2500m芝・右
1着 ジェンティルドンナ 2:35.3
2着 トゥザワールド
3着 ゴールドシップ
払戻金
単勝 4 870円 4番人気
複勝 4 280円 4番人気
6 500円 8番人気
14 160円 1番人気
枠連 2-3 2,610円 10番人気
馬連 4-6 12,350円 37番人気
馬単 4-6 21,190円 64番人気
3連複 4-6-14 15,250円 64番人気
3連単 4-6-14 109,590円 356番人気
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*脚注
**1 ジャパンカップ
東京競馬場芝2400。海外の馬も多数出走する国際招待G1。本年は11月30日、4番人気に推されたエピファネイア号が、直線残り400mで先頭に立つと、ジャスタウェイ以下並み居る強豪馬を4馬身突き放す強い競馬で圧勝した。
**2 ディープインパクト
言わずと知れた平成の怪物競走馬。生涯成績14戦12勝、うち国内中央競馬13戦12勝。生涯獲得賞金は歴代2位の14億5455万1000円。現在種牡馬として昨年のダービー馬キズナなど、多数の名馬の父である。このレースにも、ジェンティルドンナ、ハープスターを始め4頭の子どもたちが出走していた。
**3 馬単
正式名称は「馬番号連勝単式」。1着2着の馬を順番通りに当てる。
**4 ボックス
複数選んだ馬をすべての組み合わせで買う方法
**5 流し
軸馬を決めて、その馬から他の馬への馬券を買う方法
**6 馬連
「普通馬番号連勝複式」。1着、2着の馬を順不同で当てる方法。
**7 ダービーの時
2014年東京優駿。3番人気ワンアンドオンリーが、皐月賞馬のイスラボニータを最後の直線で交わしゴール。
https://www.youtube.com/watch?v=h9e1yUqOvqU
**8 柴田善臣
日本の競馬騎手。釣り好き。馬を壊さず無理をしない安定したレースをするが、その騎乗方法故にいわゆるギャンブル性はなく、ここぞというレースで勝たないため、公務員的な意味で「先生」と揶揄されることも多い。
**9 ドバイの時の圧勝
2014/3/30ドバイワールドカップでのドバイデューティーフリーで他馬を圧倒する6馬身差で勝利した。これにより、ワールドサラブレッドランキングのレーティングで日本の競走馬初の単独1位の評価を得る。
https://www.youtube.com/watch?v=0kCAWXQ54nc
**10 凱旋門
フランスのロンシャン競馬場で毎年10月に行われる国際G1レース。芝2400。過去何度も日本の競走馬が参戦して苦杯をなめており、本年もゴールドシップ、ジャスタウェイ、ハープスターの3頭が挑戦する結果はそれぞれ14着、8着、6着と振るわなかった。
**11 マイラー
マイル=1600m前後のレースを得意とする馬。短距離=スプリンター、長距離=ステイヤー。
**12 上がり最速
ゴール前の3ハロン(600m)のタイムを上がりタイムという。ゴールから逆算して競走馬が全力で走ることのできる最大距離であり、馬の能力や状態を見定める重要なファクタである。一般に哺乳類が全力で走れる時間は40秒が限度と言われているが、その数字に近い。このレースでのスピルバーグの上がりタイムは、全馬中最速の34.8秒
**13 鉄砲
長期の休養明けでレースに使うこと。鉄砲使いで好走する馬を「鉄砲のきく馬」という。
**14宝塚記念
阪神競馬場、芝2200mのG1。2014年は6月29日に行われ、1番人気ゴールドシップが連覇を達成。
https://www.youtube.com/watch?v=IWjOoUXJ3AE
**15 スミヨン
角居(スミイ)厩舎で、4番人気で、馬番4番で、ジョッキーはスミヨン。駄洒落。でもこういうゲンを担ぐ人が実は多い。
**16 エリ女
エリザベス女王杯。京都競馬場芝2200m、3歳以上の牝馬によるレース。今年は1位ラキシス、2位ヌーヴォレコルト。
https://www.youtube.com/watch?v=HejvDaXdvM0
**17 福永洋一
元JRA騎手。デビュー3年目である1970年にリーディングジョッキーを獲得、以来9年連続でその地位を保ち、「天才」と称された。しかし1979年、レース中に落馬、重度の脳挫傷を置い、騎手生命を絶たれる。
**18 お面の子
シゲルスダチ。20141109武蔵野ステークス競走中に故障を発症し、予後不良(安楽死処分)。
**19「あなたの、そして私の夢が走っています」
言わずと知れた関西テレビ競馬中継の名物アナウンサー。このフレーズは1976年の代17回宝塚記念で発したのが最初であるが、有名になったのは第22回有馬記念の実況時。
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interview by 笹倉アツコ / 笹の倉舎 http://www.sasanokurasha.com/
photo by 河合利宣 / office MONARCH http://office-monarch.com/
This interview was held in BOOKS+kotobanoie on December10, 2014