承前
写真集のような少し大きい本はなんとなくウレシイものだけれど、厚い本というのはちょっと感じが違う。
もちろん中身がたくさん詰まっているということだから、それはそれで悪くはないし、アカデミックな気分に
なったりもする。
でもどうもウキウキという感じにはならないのだ。
「ことばコンセプト事典」という厚い本を買ってしまった。
厚いといってもこの本は、thick というより、massive といってもいいくらい並外れて分厚い。
まあ事典(辞典にあらず)というものは持ち歩くことを想定していないので、中身が濃くなればなるほど厚く
なるのは仕方がないし、たとえば広辞苑やブリタニカだったら、版型も独特の大きさがあるので、なんとなく
それも納得できるんだけれど、この本はちょっと規格外で、平面の サイズは普通(188 x 212mm )なのに厚み
だけがスゴイ。
これだけの「チビデブ感」のある本は、いかに事典といえどもそうそうないんじゃないだろうか。
この事典を編んだ渡部昇一という人は、歴史教科書問題や皇国史観で右翼(保守派)のイデオローグとして
有名で、賭博師・森巣博に「英語教師のくせに 英語がしゃべれない」と暴露されちゃったちょっと恥ずか
しい人なんだけれど、その膨大な著書からすると「希代の碩学」と いうファンからの敬称も、あながち外れ
たものではないようにも思える(「知の巨人」っていうのは明らかに too muchですが)。
いずれにしても、要はその右系碩学の人が編集したこの本から何を掬いとるかというのがいちばんのポイント
で、できれば上澄みのところだけをうまく濾せないものかと思う。
掲載されているコンセプト(=言葉)は186タイトル。
「愛」や「自由」といった哲学的な概念から、「入浴」や「独身」なんていう身近な所作までが独自の判断で
選ばれていて、それぞれが簡潔な短文で、コンセプトとして表記されている。
たとえばこんな感じ
欲望 - 浮き沈み、輪廻消長の誘因
美 - 絶対と相対の間で揺れ動く妖しきものの価値
批評 - 創造的行為への参加を表明した「判断」の闘い
もちろんその言葉の定義や語源はきっちりと記されているし、そのコンセプトに関連する文献・映画・美術
音楽のリストや、その言葉に関わることわざ・慣用句・引用句なども掲載されていて、いろいろなシーンで
便利に使えそうだ。
そもそも「概念(concept)」なるものは、モノとしては存在しないわけだから、まずは言葉でしか表現され
得ない。だからひょっとしたら、世の中に無数に存在する「概念(=言葉)」をこれだけの容量におさえられ
たことを、むしろ快哉とすべきかもしれない。
それにしても、1992年12月1日に初版第1刷が発行された定価2万円の本が、5ヶ月後ですでに第4刷である。
何部ずつ増刷するのかはわからないが、おそらく図書館だけで消化できる数字ではないだろう。
だとすると、世の中には2万円払ってもこういうことを探ってみたいと思う人が、このバブル崩壊直後にも
けっこういたということで、それはそれでちょっとした驚きである。
古本だからこそ買えるっていう本だと思いたい。
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□ ことばコンセプト事典 – concepticon 渡部昇一編 第一法規出版 19930420 4刷 ¥2,800 ORDER from here
ご覧のとおりきれいな布張りの表紙ですが、体裁からするとカバーや函があったのかもしれません。
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